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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第3章 黒と白

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リヴァレの理由

 これは夢だ。


 ルカは視界に広がる景色を見てすぐに理解した。


 すぐにわかったのは食われたはずの右腕があったこと、リジオ村の中心にいるということが景色からわかったからだ。


 ただ、そのリジオ村は現実のように建物が崩れたり錆びれたりしているようなことはないが、人の温かみは感じられない。

 近くにあった家の窓から中をのぞいたが、家具がポツンとあるだけでとてもだが使われているようには見えなかった。


 付近を歩き回り、最終的に中央広場に戻ってきたルカはポツリと呟く。


「寂しいな」


「そうだね」


「ッ!?」


 声が返ってくることなど予想だにしていなかったルカは飛び退きながら声がした方向を見る。


 そこには1人の少女がいた。

 歳としては14、5歳。

 身体的にはおそらくその辺りだが、放たれる雰囲気はなんとなくもっと幼いように見える。


 髪は銀髪で腰ほどにまで伸ばされているが、あまり手入れはしていないようで少し癖がついている。

 白い肌に白いワンピース。右手首に黒いリボンを結んでいるのが特徴だろう。


 1番目に付くはずの顔は口から上が不思議と薄靄がかかっているようではっきりと認識はできない。

 しかし、妙なことにルカはそこに疑問を覚えなかった。


 他に聞きたいことがあったからというわけでもない。

 おかしなことに「それが当然、自然だ」と自分のなにかが訴えていたのだ。


「君は、誰だ?」


「さぁ? 誰だろうね。私もわからない」


 少女は笑うとくるんとルカに背中を見せてゆっくりと歩き始めた。


「あ、おい! どこに行くんだ」


「ふふ、私の好きなところ」


 トテトテとどこか愛らしい足取りで歩き出した少女をルカは追いかけながら言葉を飛ばす。


「好きなところって……。ここは俺の夢の世界じゃないのか?

 なんでそんな慣れてるんだ?」


「私にとっても夢だからだよ」


 意味深な笑みと共に少女はルカに背を向けて歩を再開させた。


 そんな少女を忘れて行動することはルカにはできない。

 頭を掻いたルカは風すらも消えたリジオ村を少女の後に続いて歩き出した。


◇◇◇


 そうして歩き出して5分ほど。

 ふと少女は振り向き、ルカが付いてきているのを確認するとニッコリと微笑んだ。

 安心したのかすぐに顔を正面に戻して口を開く。


「お兄ちゃんにとってここってどんなとこ?」


 ルカは「お兄ちゃん」と呼ばれることに懐かしさと悲しさを感じながら答えを口にした。


「故郷だよ。俺が産まれて、育った場所だ」


「そうなんだ。大切な場所?」


「当然だろ。そりゃ、嫌な思い出もあるけど、良い思い出の方が多いし。

 君はどうなんだ? っていうか名前は?」


「私は、よくわかんないや。

 でも、あの人のいる場所が私の大切な場所、居場所って言ってもいいかも。

 あと私に名前はないの。だって必要ないもの」


 あの人と呼ばれる人物についてはよくわからないが、それよりも名前がないと声音を変えず平然と答えたことにルカは疑問符を浮かべる。


「名前が、ない?」


「うん。だって2人しかいないんだよ?

 だから『おい』とか『お前』で通じるの。

 お兄ちゃんもそう呼んで良いんだよ?」


「俺は……なんか嫌だな。それ」


「そうかな?

 名前に意味なんてないよ。符号みたいなものじゃないの?」


「それは……そうかもしれないけど」


「ふふっ、ね?

 名前があってもなくても私は私で帰る場所も同じ、ならなくても困らないわ」


 そう言った少女は逸る気持ちを表すように走り出した。

 ルカは驚きながらも彼女に続いて走り出し、小柄な背中を追いかける。


「あれ?」


 少女の話から周りへと意識が移ったことでルカはようやく彼女がどこに向かっているのかがわかった。


 そして、その予想は正しかった。


 彼が辿り着いたのはリジオ村で過ごしていた時に住んでいた家だ。


 先んじていた少女は呆気にとられているルカへと胸を張りながらそう自慢げに言う。


「ここが私の大切な場所!」


「大切な場所って、ここは俺の家だぞ」


「え? そうなんだ」


 きょとんとした様子で言った少女へとルカはもう一度問いかける。


「お前は、誰なんだ?」


「言ったでしょ? わからないって」


 外見よりも幾分か幼い口調と声音で少女はもう一度そう答えた。


◇◇◇


 クロスブレンの更衣室の扉を音を立てないように開けたガリスは驚いたように声を上げる。


「む、リヴァレ。起きてたのか」


 仮眠を取るように伝えたはずのリヴァレはさも当然であるかのように答える。


「はい。警戒の交代ですか?」


「違う。あとは元々の防衛部隊が請け負ってくれるから俺たちは休んでいいそうだ。

 まぁ、すでに朝日は登ってるが少なくとも夕方までは休んでていいから安心しろ」


「そう、ですか」


 ガリスからの指示でようやく緊張の糸が途切れたのかリヴァレの顔に濃く疲労の色が浮かんだ。


 彼女の顔に浮かぶのは疲労だけではない。同じ疑問が頭の中でぐるぐると回っているような悩みも浮かんでいる。

 何にそれほどまで悩んでいるのかなどガリスには容易に想像できた。


「ルカのことか?」


「……はい」


 正直に答えるべきか迷っていたリヴァレだったが、最終的には肯定を返していた。


 当然だろう。

 リヴァレはルカのことを仲間ではなく守るべき民として扱っている。

 クロスブレンにいることを許したのもあくまでも彼の目的探しを助けるために過ぎない。


 そんな存在であるルカが目の前で右腕を失ったような状況を見てなんともないわけがない。


「そう深く気に病む必要はないと思うがなぁ。

 それにあの場で私たちにできたことなどなかったよ。間違いなくな」


 白と黒のアバードの戦いは次元が違った。

 どちらも自分の特性を知り、相手の特性を探り合いながらの戦いだった。

 下手に介入すれば犠牲者が出ていた可能性もある。


 それはリヴァレ自身も理解はしているのだろう。

 そんな彼女にはどんな言葉がいいのか、探っていた時だった。


「リジオ村の調査中に聞かれました。『もし民を守れなかったら』と」


「なんと答えたんだ?」


「悔やみながら再び力を手に取り、まだ守れるものを守る、と」


 まるでそう答えたことを悔やんでいるかのようにリヴァレは頭を抱えて続ける。


「あの時は私はまだ知らなかった。

 なぜ彼が私にあの質問を向けたのか。

 でも、今ならわかる。彼はまた失うかもしれないことに恐怖していたんじゃない。守れなかった自分の力を疑って震えていた!」


 守るための力で実際は守るとしたものになにもできなかった。

 目指したはずのことがなに1つできなかったというのに自分の手にはなぜか未だに力がある。


 握りしめることができるこの力に一体なんの意味があるのかと。


「まぁ、わからないでもない。私もまた守れなかった者だからな」


 ガリスが今の立場まで上り詰めることになった理由は訓練機関でも度々上がるほどに有名な事であるため、もちろんリヴァレも知っている。

 だからこそ「彼ならば」と思い彼女は立ち上がると縋るように問いを投げた。


「教えて下さい。私はどうすれば良いのですか!

 私の力は一体、何のために!」


「それは君自身がすでに口にしているよ」


 荒立ったリヴァレを落ち着かせるようにガリスは諭すように言った。

 彼女はゆっくりと自分が口にした言葉を思い出す。


 その答えに辿り着くのにそう時間は必要なかった。


「……悔やみながら立ち上がれと?」


「ああ、そうだ。

 今君がその力を手放せばより多くの者が死ぬ。

 それは君が目指す姿ではないだろう?」


「……あっ」


 ガリスに言われたことでリヴァレの中に1つの答えが明確な形となった。


(そうだ)


 失ったものは戻らない。

 例え形だけが戻ろうと、失ったという事実は揺るがない。


 だから失ったという事実を背負い、次は失わないと心に刻み再び剣を取る。

 また失うかもしれない、という恐怖に晒されながら、それでも自分の後ろには守るべき者があると知っているから。


 そして、それが自分の目指す姿なのだ。


(誰かを守る。

 その理由は力があったからじゃない。ただ私自身のためだったんだ)


 目指す姿がそこにあり自分はそこへ向かい進んでいた、それだけの話だ。

 誰かのため、という高潔な理由ではない。


 だが、それでもいい。


(他の誰でもない。私が失いたくない。私が立ち上がり守る)


 その姿がリヴァレが力をつけ、技術を磨く理由なのだから。


(その姿であるには、私はーー)


「ああ、そうだ。その顔で十分だ」


 彼に言葉をかけられ、意識を現実に戻したリヴァレは頭を下げる。


「ありがとうございます。ガリス」


「吹っ切れたか?」


「はい。私が次に行うべきことも」


「そうか、では後は進むだけだな」


 ガリスは昔の自分を見ているような気恥ずかしさを感じながらも小さな笑みをこぼした。


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