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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第2章 クロスブレン

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ルカの謎

 ガリスの言ったとおり連絡はされていたようでリヴァレが城塞に戻った頃には医療班であろう人物が3人並んでいた。


「先生! 彼を!」


 着陸したリヴァレは言いながら気を失ったことでアバードを消して生身となったルカを医師の男性に差し出した。


 ルカの顔からは血の気が少し引いており、傷口はよく見えないが右腕は上腕から先が消えていたのは一目見ればわかった。


「ああ、わかっている!

 まずはここで応急処置をする。手伝ってくれ!」


「はい!」


 返事をしながらリヴァレはデメヴィオを格納形態へ変形させる。

 その間に男性は2人の看護師と共にルカの傷口を見た。


 そして見た現実に彼は目を見開き、息を飲んだ。

 狼狽した様子で医師はリヴァレと看護師に言う。


「いや、すまん……必要ない」


 この状況で医師から出るその言葉は死刑宣告に近い。

 もう助からない。そういう意味合いでの言葉だとリヴァレと看護師たちは受け取った。


「ッ!? そんな!! じゃあ、彼は……」


 しかし、医師の男性はそれに首を振り、自身でも信じられないのか途切れ途切れの言葉で告げる。


「いや、傷口はもう……塞がっている」


◇◇◇


 怒涛の夜が終わったことを示すように朝日が東からゆっくりと顔を出し始めた。


 警戒レベルが一段階下げられたことでミクズムの住人たちはそれぞれの家へと戻り始めている。

 街の被害らしい被害といえば大通りの石畳ぐらいだ。


 夜の終わり頃までに大きな瓦礫は片付けたが、最低限の整備などのことを考えるとどれほど早くとも午後からしか市場は開くことはできないだろう。


 大通りにできたクレーターに集まり作業をしている者たちを上空から見下ろしながらミカエラは思考を数時間前へと飛ばした。


◇◇◇


 薄暗い個室に置かれたベッドにルカは眠り、その横にはミカエラとナテスアがいた。


 ルカの怪我は大したことはあったが命に別状はなかった。

 理由は雑に食いちぎられた傷が綺麗に塞がっていたからだ。


「ルカ、悪いが少し見させてもらうぞ」


 ベッドで眠るルカに詫びを入れたミカエラは掛け布団を捲り、下にあったそれを見る。


 たしかに右腕は上腕から先がなくなっている。

 しかし、その傷口はまるで元からそうであったかのように綺麗に塞がっていた。


 話を聞いたときは「まさか」と思ったが実物を見れば嫌が応にも信じるしかない。


「……これは、どういうことだ?」


 ミカエラは怪訝な表情で後ろにいたナテスアへと顔を向ける。

 彼女は首を横に振りながら肩をすくめた。


「わからない」


 そう答えた彼女はミカエラの後ろから改めてルカを見て呟く。


「たしかにアバードを展開している時に受けた傷は生身の人間にまで影響を及ぼさない。

 あれはエレマフォトンで構成された外骨格、つまりは鎧だからね」


 かすり傷や少し切られた程度であれば血も出ない。

 当然だ。アバードは生体外骨格、生身で言うところの爪に近いものだからだ。

 鎧に傷がついたところで生身にまで全く同じ傷が入ることはない。


 加えてかすり傷などの軽度な損傷であれば数分で修復できる能力まである。


「しかし、今回ルカが負ったような四肢の欠損となればまた話は変わってくる」


「ああそうだよ。

 たしかにアバードであれば生身に比べて高い自己修復があるからそれで出血を多少は抑えられるだろう。

 でも、所詮は多少だ」


 いくらアバードとはいえ欠損ほどの損傷を受ければ修復能力が追いつかないため、すぐに傷を塞ぐことはできない。


 そして、その間は当然ながら出血し続けることになり、なにもしなければそのまま死に至る。


 だが、ルカは右腕を失いリヴァレがミクズム城塞に運ぶ1分も満たない時間で完全に傷口を塞いでいた。


 戦闘能力の高さはまだ理解が出来る。

 あれは技術であり、後天的に身に付けることができるからだ。


 良い指導者の下で訓練を続ければルカほどの実力を持っても舌を巻くほどのことではあるが不思議ではない。


(だが、これはーー)


 ミカエラは改めて真剣な面持ちでナテスアへと言葉を向ける。


「……1つ聞くぞ」


「ああ、答えられるかは別として何なりと」


 茶化すように言ったナテスアを射抜くような鋭い視線でミカエラはそれをぶつける。


「彼は、本当にただの人間か?」


「素直に言うなら、わからない」


「予測は?」


「立てられるわけがないだろ?

 勘弁してくれ。わからないという答え以外わからないんだ本当に」


 言うとナテスアは降参を示すように両手を上げて首を横に振った。

 それを見たミカエラは彼女の本心を探るような視線を向けたかと思うと切り出した。


「では、ヘルファイス研究局(ラボ)の局長ナテスア・ヘルファイスとしてではなく、1人の人間であるナテスア・ヘルファイスに問おう。

 彼をどう見る」


 ミカエラがその言葉を放ってきたのは少し予想外だった。

 彼女が正確な予測や理論ではなく、ただの意見が欲しいとまで言うのは今までの記憶にないほどのこと。


 あまりのことに瞬きを数度挟んでナテスアは苦笑いと共に頭を掻く。

 そして「仕方ない」と息を吐いたかと思うと口を開いた。


「いいかい。これは1人の人間の戯言だ」


「構わん。今は戯言でも意見が欲しい」


 改めてきっぱりと言い切ったミカエラを見てナテスアも覚悟を決め、1人の人間として言う。


「彼の能力を見ていくらか思いついたのは2つ。

 1つが突然変異だ」


「つまりは奇形というものか?」


「いや、突然変異が全て奇形というわけじゃないよ。

 いうなれば肌の色とか目の色。そうだね、アルビノって知ってるかい?」


「ああ、たしか……髪や肌が白くなるものだったな。

 原因はたしか胎児の時に吸収したエレマフォトンが作用しているのだったか?

 そうか、あれも突然変異か」


 ナテスアが「そうそう」と頷く前でミカエラは話を噛み砕いていく。


 突然変異ということであればある程度は納得できる。

 彼の超がつくほどに速い修復速度はアルビノで言うところの白い髪や肌のような違いでしかないのだ。


 たまたま生まれた時にそのような普通にはない能力を身に付けていた、という話なら細かい原理は不明だが納得はできる。


「なるほど……。

 では、もう1つは?」


 一種、ナテスアは表情を曇らせて視線を逸らした。

 しかし、すぐにそれらを戻してそれを口にした。


「彼がアバードではないという可能性さ」


 目を見開いたミカエラは息を呑み、自分が受け取った言葉が正しいかどうかを確かめるために切り出す。


「それは、つまり……彼がネスデッドかギフテッド、ということか?」


 その問いにゆっくりとナテスアの首が縦に振られた。


「っ!? まさか、ありえん!」


「ああ、私もそう思うよ。

 なにせネスデッドやギフテッドの印がないからね」


 ルカの纏うそれをアバードだと断言できる理由がそれだ。


 ネスデッドとギフテッドには体のどこかに印がある。

 現にルリナ・ネスデッドには背部に「Ⅵ」に横線の印があるのだ。


 印の意味は数字とされ、ルリナの数字は6と読まれている。


 しかし、ルカ・アバードにはそのようなものはない。


「では、なぜそう思えた?」


「ルリナ様を追ったワイバーンさ。あれはアギルが放った偵察だろう。

 それがアバードとネスデッドを間違えて長時間追いかけるか?」


「……アバード同士の違いならばともかくアバードとネスデッドを見間違える可能性は低い、と」


「そうだ。なのに追いかけたということはルカ君とルリナ様に似ているところがあったと考えるべきだ」


 苦虫を噛み潰したような表情で頭を抱えたミカエラはポツリと呟く。


「それが本当であれば下手すれば地図が変わるな」


「ん? それは地形が変わるのと政治的に変わるの、どっちの意味だい?」


「わかっているだろう? 両方だ」


 目を閉じ、深く息を吐いたミカエラは意識を切り替えると口を開いた。


「確認するぞ。それはあくまでもナテスア自身の予想だな?」


「ああ、そうだ。なにせ確証がない。

 夢物語と言われてしまえばそれまでさ」


「では、私たちのやることは変わらん。アギルを捕らえる。

 白いアバード含め彼は全てを知っているだろうからな」


 アギルの言葉を信じるのであればそう時間もかからずに再び姿を現すだろう。


 ルカだけではなく、白いアバードにも謎は多い。

 それらを解明するのに手っ取り早いのは全ての首謀者であり仕組んだであろうアギルを捕らえて話を聞き出すことなのは間違いない。


 ミカエラは目的を新たに固めると掛け布団を元に戻し、ルカの頭を優しく撫でると部屋から出た。


 閉じられた扉からルカへと視線を移したナテスアはポツリと呟く。


「すまないね。ルカ君。

 私は君の未来を祈ることしかできないよ」

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