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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第2章 クロスブレン

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自由のために

「父親? あの灰色のアバードが?」


 アギルの言葉にリヴァレは首を傾げた。


「彼の言葉を信じるのならば、な」


「確かめようがないものね。確かルカ君は顔も知らないって話だったし」


 ルカ自身から話は聞いていたためクロスブレンの面々もそのことだけは知っている。

 それゆえにルカほどでないにしても突然現れたアギルに困惑の声を漏らしていた。


 彼らの話を少し離れた場所から聞いていたミカエラはその結論に達し、声を上げる。


「だが、それではルカの父親が村を滅ぼした首謀者ということではないのか?」


 ミカエラの疑問を代弁するかのようにルカはアギルへと問いかける。


「父さんが、やったのか? あの村を、なんで!?」


 本当ならもっと聞きたいことはあった。

 なぜ村を離れたのか、離れている間に何をしていたのか、そしてもうこの世にはいない母親のこと。


 だが、ルカはそれらを押しのけて「リジオ村を滅ぼした存在にその理由を問う」というクロスブレンに入った理由をどうにか口に出していた。


 変な言い訳はもはや通じないほどの状況証拠はある。

 あとはアギルが、自分の父親がどのような理由でそれを行わせたかだ。


「私はね。自由が欲しい」


「自由?」


「ああ、そうとも。誰にも縛られぬ力とも言い換えられる。

 それを持ってして世界を生まれ変えさせるのだ!」


 両腕を広げ仰々しくアギルは言った。

 そこに同意を求めるような意味合いは一切含まれていない。


 彼の言葉からは「ただ自分が欲しいからそれをしている」という思いしかルカには感じられなかった。


 ルカは奥歯を噛み締め、拳を握り言葉を吐いた。


「そんなものをあなたが得るために、村を……あの場所に住んでいた人たちを!」


「ああ、そうだ。礎と呼ぶものになったんだよ。あの村は」


「な……ん」


 ルカが目的を知りたかったのはある種の諦めをつけるためであった。


 もっと無慈悲で残酷であって欲しかった。

 自分ではどうにもならないような理由であって欲しかったのだ。


 しかし、現実は何か巨大な組織が関わっていることはなく、ただ個人的な理由だった。


 アギルというたった1人の男の理想と目的のためだけにリジオ村にいた者たちは死んだ。


 それがわかった瞬間、怒りと憎しみがルカの心に宿った。


「ーーーッ!!」


 もはや声ではなくただの音を発しながらルカは何のフェイントもなく、一直線に飛んだ。


 剣の間合いにアギル・アバードを入れると迷いなくそれを振り下ろした。

 その一撃は白いアバードの剣によって防がれた。


 甲高い金属音に続いて鍔迫り合いで擦れ合う音が響く。

 それらの音を跳ね除けるようにルカはアギルへと怒声を向けた。


「あなたは! “そんな理由”で村を、たくさんの人を殺したのか!!」


「そんな理由だと?」


 そんな理由。ルカのその一言がアギルの怒りを生んだ。

 彼は先程までのどこか柔和な雰囲気を消し去り、言葉を返す。


「それはお前が自由を謳歌してきたから言えるのだ!

 翼を手折られ、枷をつけさせられた者の苦しみをお前は笑えるのか!」


「ッ!?」


 アギルの感情の爆発に従うように白いアバードはルカを押し飛ばした。


 ぐるぐると回転しながらも姿勢を整え、剣を中断に構えたルカへとアギルは言葉を続ける。


「どれほど空に焦がれる者があるか、貴様も理解できないのか!?」


 ルカは言葉を飲み俯いた。


 そう、この世界には空に、自由を焦がれる存在がある。


 ネスデッドやギフテッドと呼ばれる存在だ。

 生まれながらに後の姿を押し付けられ、そうであるように育てられる存在たちからしてみればそれは喉から手が出るほどに欲しいものかもしれない。


「ああ、たしかにそんな人たちもいるだろう。

 でも、それが今この世界に生きる人たちを殺していい理由になんてならない!」


 ルカ・アバードはエレマフォトンを吐き出すと急加速、白いアバードへと剣を振り下ろした。


 その一撃で姿勢を崩し横蹴りで蹴り飛ばしたルカは続ける。


「自由を求めるのは間違ってない。

 でも、それが誰かの自由を奪う理由にはならない!」


「今あるその自由が誰かの上にあるのを知ってなおそう言うか!」


「ッ!?

 それは、でも!!」


 アギルへと伸ばされたルカの左腕を白いアバードが掴んだ。

 その力はあまりにも強力で掴まれた部分の甲殻にヒビが入り、ルカは「ぐっ」と苦悶の声を漏らす。


 その声を無視して白いアバードはルカ・アバードを振り上げると大通りの石畳へと投げ落とした。

 ルカ・アバードが落ちた場所からは土埃が舞う。


「ルカ!」


 叫びながらリヴァレはアギル・アバードへと狙撃杖を向けた。


 今すぐにでも光弾を放つという気迫を感じさせる彼女の横合いからデメヴィオの腕が伸び、杖を上へと上げた。


「待て、リヴァレ。冷静になれ」


「ですが! 奴は……」


「ええ、全ての原因。でも下手に手を出しても戦場をかき乱すだけだわ。

 今は状況を見たほうがいい、わかってるでしょう?」


 諭すようなツェルトの言葉を受け、リヴァレは狙撃杖を握りしめた。

 わかってはいるが傷つく者を見て刃を下げることということはしたくはない。


 リヴァレが歯をくいしばる中、地面に土煙を払い飛ばすように光の矢が白いアバードへと向かい飛んだ。


 その一撃は不意を付けたようでその右腕を中程から穿ち飛ばした。


 さらに続くようにルカ・アバードは白いアバードへと飛んだかと思うと首を掴み、足を絡めて地面へと一直線に下降し、石畳へと押し付けた。


 左手で白いアバードの側頭部、右手で左腕を地面に押さえつけ、膝アーマーを腹部に突き刺しているその様は彼の怒りをありありと表している。


「お前には悪いけど、ここで倒す!」


 ルカはそういい押さえつけている両手に力を込め、さらに膝を押し付け腹部に食い込ませた。


 それを見たアギルは焦る様子もなくポツリと呟く。


「四肢がなくなった程度であれば“繭”を作るのに支障はないーー」


 その言葉をリヴァレは聞き逃すことはなかった。


「ルカ!! すぐに離れて!」


「ーー食え」


 2人の言葉と同時にルカは白いアバードから反射的に離れようと上半身を起こした。


 瞬間、自由を得たそれの頭部マスクから牙が並んだ口が伸びる。


(間に、合わない!)


 あまりにも突然の変化ということもあり回避行動は間に合わない。

 体は回避できても腕は確実に持っていかれる。


 そう判断した後のルカの行動は速かった。


 伸ばし迫る口の中へと右腕を突っ込みながら短剣を作り出した。


 そして、右上腕に鋭い牙が食い込み千切られるのと同時、長く伸びた口へと短剣を突き刺す。


「「ーーッ!」」


 互いに声にならない声を発しほぼ同時に距離を開けた。


 汚い傷口から血を流し、降下し片膝をついたルカへと真っ先にリヴァレが近付きその肩を掴むと同時に大声を飛ばす。


「ルカ! 意識を保ってください!」


「が……頑張り、ます」


「ええ、過ぎない程度に。

 速く医療班に連絡を!」


「もう飛ばしている! 私たちに構わず速く連れて行け!」


「は、はい!」


 ガリスの指示に少しためらいながらもリヴァレは頷くとルカに肩を貸し、城塞へと向かった。


 その背中を横目にガリスは白いアバードを肩に担ぎ、背中から生えた鞭で軽く縛ったアギルへと威嚇するようにブレードを構えながら言葉を投げる。


「それで、お前はどうする?」


「一度下がるよ。この子の傷も癒さなければならないからね。

 君たちは追ってくるのかい?」


 アギルの言葉を受けたガリスは隣に並んでいたミカエラへと問いかける。


「どうする?」


「わかっているだろう? 見逃すしかあるまい。追った先に罠がある可能性もある。

 それに私たちの目的は防衛だ。殲滅ではない」


 口惜しそうに言葉を吐いたミカエラにアギルは軽く頭を下げた。


「感謝するよ」


 そう言い浮かび上がった彼は途中で思い出したかのように「あっ」という声を挟むと口を開いた。


「彼に伝えておいてくれ。彼女と共にまた来る、とね」


 言葉を残したアギルはそのまま沈み始めた月の方へと向かい飛んで行った。

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