邂逅
白いアバードが大剣を出すのと同時にルカは叫んだ。
「ガリスさん! アバードの使用許可を!
ウェスバではあいつに勝てません!」
ルカの鬼気迫る声にガリスは悩むことなく頷いた。
「わかった。許可する」
実際のところ、ガリスもまたルカと同じ結論にたどり着いていたのだ。
形自体はアバードのそれと酷く酷似しているが中身がまるでわからない。
人間味とでも呼ぶべきものどころか生物にあるはずの意思が妙に朧げで見えてこないのだ。
しかし、アバードの使用は厳格に決められており、彼1人が認めようとも残りの2人が許さなければ使用許可は下りない。
「ツェルト! リヴァレ!」
そのため、ガリスは即座に2人へと同意を求める叫びをあげた。
「許可するわ!」
ツェルトは即座に声を上げたがリヴァレは奥歯を噛み締めた。
民である彼にアバードを使わせ、戦わせることに即座に頷くことはできなかった。
だが、ウェスバでは力不足なのは目に見えて明らか。
そして、白いアバードは間違いなくリジオ村を崩壊させた存在だ。
リヴァレが代わりに戦うことはできる。
だが、それではルカが己の目的を見つけることはできないだろう。
(であれば、私がすることは……!)
ほんの数秒で結論を出したリヴァレは声を上げた。
「私も許可します。
ですがルカ、展開の前に杖を!」
できることはルカが死なないように助けることだ。
防衛部隊の行動で足止めができることはわかっている。
ならば自分も同じことをする。
「はい!」
ルカは返事と同時に担架ユニットから狙撃杖をパージ、剣を地面に投げ捨てると同時に杖をリヴァレ機へと投げた。
そのまま流れるようにデメヴィオを格納状態に変形させるとそれから飛び出し、叫ぶ。
「アバード・クラッド!」
瞬間、ルカの周りに黒い炎がまとわりつき、黒曜石のような外骨格を作り出すと霧散した。
ルカ・アバードは間髪入れずハンマーを作り出すと降下をし始めた白いアバードへと一直線に向かう。
白いアバードもそのことに気がついたのか急停止をかけ、防御態勢を取った。
(まずは城塞の外に叩き出す!)
だが、ルカは構うことなくハンマーを白いアバードへと向けて思い切り振り払った。
盾のような大剣によりまともなダメージはないが衝撃だけはきちんと与えられている。
そのことを示すかのように強烈な打撃を受けたそれは大きく吹き飛ばされた。
しかし、ミクズムの上空にそれは止まっている。
ルカ・アバードはそれを見るや否や即座に追撃に向かった。
そんな光景は城塞の防衛隊たちからしてみれば突然のことだ。
各々頭部アーマーの下で困惑の表情を浮かべながら呟く。
「な、なんだ!?」
「さっきのアバードの色違い?」
ミカエラも同じだったが、すぐさま意識を現実に戻してガリスへと言葉を投げる。
「ガリス! 彼にアバードを使わせたのか!」
「緊急事態だ。あれの相手にウェスバでは100機あっても足りん!」
2人の会話に「そんなバカな」と言葉を投げる者はいなかった。
立場があるからではない。
目の前で繰り広げられる戦闘があまりにも異次元過ぎたため、認めるしかなかったからだ。
ルカ・アバードの剣による一撃をかわした白いアバードは長槍を作り出し、それを振るう。
大きく下がり距離を取りながら剣を投げたルカ・アバードはぐるぐると回転しながら弓矢を生成、迷うことなく3本矢を放った。
対するそれは長槍を投げることで剣を落とし、迫り来る矢は尻尾、新たに作り出した手斧で受け止め、最後の矢は横にぐるりと回ることで回避。
その動作の流れのままに斧を投げ飛ばす。
ちょうど白いアバードへと向かっていたルカ・アバードは縦に1回転する事で振るわれた尻尾で弾き上げると掴み、投げ返した。
剣を作り出していた白いアバードはそれで斧を叩き落とすとルカへと横薙ぎの一閃。
それに答えるようにルカも剣を作り出し振り下ろすことでそれを受け止めた。
辺りに「キィンッ!」という甲高い金属音が響き、衝撃が遅れて暴風となり広がる。
ルカ・アバードと鍔迫り合いになり、エレマフォトンの光で照らされたことでよりはっきりとそれを見た者たちは2体のアバードを見比べて改めて驚愕の声を漏らした。
「似ているな」
「あれは同じ、というのではないか?」
ミカエラの言葉にガリスは冷や汗を浮かばせながら頷いた。
エレマフォトンの性質上、アバードが同じ姿を取ることはありえない。
双子であれば似通うことはあるが、全くの瓜二つというのは考えられないことだ。
しかし、現実にそれらは存在し、剣を交えている。
それは夢物語でもなんでもなく、今実際に起こっている現実なのだ。
◇◇◇
鍔迫り合いをしていたルカは声を上げる。
「答えろ! お前がリジオ村を滅ぼしたんだろう!? なぜだ!」
しかし、白いアバードは唸り声すら上げることもなく無言で剣に力を載せている。
ルカとしてはさらに言葉を浴びせたかったが、ルカ自身の中で1つの確信が生まれていた。
(こいつは、ダメだ。ここにあっては!)
この白いアバードはこの世に存在していてはならない。
目の前のそれから親しみを感じるわけがないのは当然として、敵意や恐怖も感じられないのだ。
それはなにかが混ざり合って混沌としているのではなく、正真正銘何もない。
自分とほぼ同じアバードを持っているからこそ、その不自然な空白が目立つ。
あまりの気味の悪さに吐き気すら覚えてしまうほどだ。
鍔迫り合いを崩したのはルカ。
一瞬だけ背部バインダーからエレマフォトンを吹かせると押し出すとわずかに空いた隙間を押し広げるように足で蹴り飛ばた。
間に大きく差が開いたことでルカには次の行動を決めるわずかな猶予が生まれる。
その猶予で次の一手を考えている時のことーー
「今度はちゃんといたな」
ーーポツリとそんな声が上の方から降りてきた。
声の主はゆっくりと降下し、白いアバードの斜め右後ろで止まるとルカをじっと見つめる。
それもまたアバードだ。
色は灰色で背中からは2本の鞭のようなものや頭部からは長い髪のようなものを伸ばしているのが特徴的だった。
どことなく服のような印象を受けるそれは凛々しい声で告げる。
「久しぶり、と言ったところで覚えているわけがない、か」
その口振りで新たに現れたアバードを纏う者が誰なのかをルカは瞬時に理解した。
それゆえに彼は息を飲みながらどうにか言葉をひねり出す。
「ま、さか、父さん……!?」
「ああ、そうだ。アギル、それが君の父親である私の名だ」
アギルと名乗った男の声はアバードの頭部外骨格で顔が見えなくとも笑っているということがわかるほどの親しみの込められた声音だった。
しばらく2日に1話更新となります。
申し訳ありません。




