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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第2章 クロスブレン

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調査開始

 リジオ村へと向かってクロスブレンの面々はひし形のような編隊を組んで飛行していた。

 先頭はガリス、その左右後ろにルカとリヴァレ、最後方にツェルトの配置だ。


 飛行しながら昨日ナテスアと話した内容を聞いたリヴァレはポツリと呟く。


「ふむ……たしかに不思議というより不可解な点が多いですね」


「そうねぇ。本当に心当たりはないの?」


 村で明確に被害が出ていたのはルカの家だった。

 そのため、何かあるのではと睨んでいたツェルトの問い。


 もちろんルカもそのことは知っているし、初めてそのことをナテスアから聞いた時にも言ったことを改めて言う。


「はい。少なくとも俺の記憶には……」


「まぁ、でしょうね。村を全滅させるほどの恨みを一介の村人に持つわけがない」


「復讐にしてはデメリットが大き過ぎる、か」


「復讐者がデメリットなんて考えないと思いますけど……」


「ははっ、そりゃそうだ」


 小さく笑い言ったガリス。

 話がそこで一度区切りがついたことを感じたツェルトはその話を切り出した。


「にしても酷いわよねぇ。わざわざ嚙み殺すなんて」


「嚙み殺す……」


 確認するように反芻したリヴァレは浮かんだ疑問をふと外へと漏らした。


「なぜ噛み殺したんでしょう?」


 その言葉を聞いた3人は疑問符を頭に浮かべる。

 考えたこともなかったためすぐにその疑問の言葉を噛み砕けなかったのだ。


 少しの間をおいてルカが少し低い声音で答える。


「それしか攻撃手段がなかったから、じゃないんですか?」


 冷たくなったクリューの死体は今でもルカの脳裏にこびりついている。


 首の切断面は汚かった。

 そして、似たようなものは数度見たことがある。

 あれはドラゴンのような大型の生物が食い千切った跡で間違いない。


 他に切り傷や握り潰したような跡はなかった。

 報告書では他の村人たち全員が全員、必ず体のどこかに食い千切られたような跡しかなかったのだ。


 そのルカの予測に対してリヴァレは確認を取るような口調で言う。


「本当にそうでしょうか?

 建物を破壊できたのですよ?」


「「あっ」」


「そうか……!」


 ルカとツェルトはその違和感に気がついて小さく声を漏らし、ガリスも呟いた。

 ガリスは2人を代表するように気が付いたそれをリヴァレへと問いかける。


「ということは嚙み殺すことでしか成せないことがあった?」


「はい。あまり例えたくはありませんけどワインのテイスティングやバゲットの音を聞くようなものだと私は思いました」


「つまり、ルカ君の姿がわからないから(かじ)って調べていた、ってことかしら?」


 ツェルトの確認にリヴァレは首肯するとそのまま説明を始めた。


 建物の破壊に無差別な雰囲気が感じられなかったところから目が全く見えないということは考え難い。

 それどころか隠れていた人間を正確に察知できていたところからは普通には見えない景色が見えている可能性すらもある。


 それでも食い殺していたのは目視ではルカという存在を識別することができなかったからだ。

 そのため、通常見えないものが見えていても村人全員を噛み殺した。


 そして、重要なところは食うことでなにを調べていたのかという点だ。


「私はエレマフォトンを調べていた、と予測しています」


「エレマフォトン……あ!」


 ウェスバを動かせない間に読んでいた本の内容を思い出したルカ。

 彼の頭に浮かんだそれを肯定するように頷いたリヴァレは説明を続ける。


「はい。エレマフォトンは体内に吸収された段階で個々人に合わせて僅かに形や性質が変わると言われています」


「アバードに同じ姿がない理由だな」


「あー、そっか。食べることでその人のエレマフォトンの性質を調べているのね。

 ……もしそれが正解ならたしかに、テイスティングね」


 頭部アーマーの下からわかるほどの嫌悪感を表しながらツェルトは低い声音で言った。


 ルカはそれを苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


 もしそれが本当ならばやはりリジオ村が崩壊したのは自分が原因ではないか、と思ったからだ。


(やっぱり、俺が村にいれば……!)


 わかっている。過去をどれほど悔いろうと今は変わらない。

 それでも自分が元凶であると思うとついその方向に考えが寄る。


「まだ可能性の段階です」


 リヴァレの言葉はまるでそれを察しているかのようなタイミングで発せられた。

 意識を急激に現実に引き戻されたルカは視線をリヴァレへと向ける。


「どうあれ実際を見ないことにはわかりませんよ」


「そうだな。先行調査で見落としているものがあるかも知れん」


「……ですね。ルカ君、辛いでしょうけど案内、頼むわね」


「はい……」


 そうしてルカは村人がいなくなったリジオ村に降り立った。


◇◇◇


 リジオ村に人影は当然ながらない。

 動物たちもすでにミクズムの天使団が保護しているため姿はなく、それらが発する鳴き声も消え、匂いもかなり薄れていた。


 男性が丁寧に見ていた畑には雑草が生え始め、女性たちが使っていた織物機たちには埃が溜まり始めている。


 人の温かみは早々に消えているが、所々には乾いた血が残っているあたりから凄惨な様は未だ薄れてはいない。


(静かだ……)


 デメヴィオを纏ったルカは村の広場に来ていた。

 子どもたちがよく遊び、自分も物語を読み聞かせていた場所。


「ルカ、何かありましたか?」


 声をかけたのは広場近くの家を調べていたリヴァレだ。

 ちなみにガリスとツェルトはドラゴンの警戒のために林や丘陵地帯に向かっている。


「いや、なにも。すみません、ぼーっとして。

 調査を続けます」


 広場から離れようと歩き出したルカ機を見たリヴァレは少し迷いながら口を開いた。


「やはり辛いですか?」


「はい……どうしても思い出してしまいますね」


「今からミクズムに戻る手もありますよ?

 私はもちろん、ガリスもツェルトも……局長だってあなたが言えば許可を出すでしょう」


「優しいですね」


 小さく笑いながら言ったルカにリヴァレはいつもの口調できっぱりと返す。


「私の役目は民を守ることです。苦しむ姿を見て心配するのは当然です」


 胸を張っているように見えるリヴァレを見てルカの中に1つの疑問が浮かんだ。

 素直に言っていいものか少し悩みながらも彼はそれを切り出すことに決めた。


「あの、1つ聞いてもいいですか?」


「はい。なんですか?」


「もし、その民を守れなかったら?」


 頭部アーマーのせいで断言はできないがルカはリヴァレが目を見開いたように感じた。


 これは別に意地悪をしようと思った問いではなく、彼の心中で唐突に湧いた純粋な疑問だ。


 自分の力で守れたかもしれない存在にどう折り合いをつけているのかを知りたくなったのだ。


 民を守るためにこの力を振るい、磨き続けていると言っていた彼女の心を知りたいと思った。


 小さく唸ったリヴァレははっきりとした口調で切り出す。


「悔やみます。悔やんで、悲しんで、歯を食いしばって拳を握り締めて……そして、また守るために力を取ります」


「一度、できなかったのに?」


「はい。まだこの身があり、武器を取れるのならばまた守るために力を使う。

 守れるものがなくなるまで、私が私であり続ける限りは何度でも、何度でも」


「なんでそこまでしようと思うんですか?

 この国が好きだからとか、それとももっと何か特別な理由が……」


 ルカの質問にリヴァレはふっと表情を緩めると自虐気味に笑った。


「いえ、特別なものはありませんよ。力があったからというだけです」


 今のリヴァレの姿を両親や親族、従者たちの誰も望んではいなかったと彼女自身は思っている。

 現に厳格にあれをしろ、こうしろ、天使たるものは、などと言われた記憶がない。


 よく言い聞かせられていたのは「立場を持つものにはそれ相応の使命と責任がある」という言葉ぐらいだ。


 そんな環境でなおリヴァレが天使の道を選んだのは才能があったからに他ならない。


 才能、といってもルカのような戦闘センスではない。

 鍛えれば鍛えるほどに力を伸ばせるという才能、ガリス曰く「成長性の化身」と呼ばれるほどの才があったからだ。


「私には力があり、まだ守らなければならない存在がある。だから守る。それだけの話です」


「リヴァレさんはどこまでも誰かのために力を使えるんですね」


「私のようになれとは言いませんよ。あなたにはあなたの力の使い方があり、目的があるはずですからね。

 ただ、その力が民に向かうようでしたら私は容赦する気はありません」


 きっぱりと言い切ったが最後の言葉にはどこか躊躇いがあった。

 まるで「そうなるな」と言うような雰囲気をルカは感じた。


 張り詰めた空気を緩ませるようにリヴァレは柔らかい口調で言う。


「さぁ、調査を続けましょう」


「……はい」


 ルカは広場を一瞥し、リヴァレに続いて歩き始めた。

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