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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第2章 クロスブレン

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23/46

レース

 異変に即座に気が付いたのはツェルトだった。


(なにか、違和感が……)


 言葉にはできない妙な感覚を覚えた。


 飛行ルートは順調に辿っている。

 少しズレることもあるが誤差の範囲内。さらにそこも超えそうになるがルカのウェスバ装備時間を考えれば当然どころか上等と褒められるレベルだ。


 だが、何かおかしい。


 そして、その感覚にはどこか覚えがある。


(あっ、そうか!)


「リヴァレちゃん! ルカ君から目を離さないで!」


「えっ!?」


 気が付いたツェルトが声を上げ、リヴァレが疑問符を浮かべると同時、ルカのデメヴィオが突如として急上昇をした。


「なっ!? 飛行ルートを外れた!? まさか制御を失って!」


「いえ違うわ! あれはーー」


 飛び上がったデメヴィオは急停止すると飛行機能を唐突に失ったようにふわっと柔らかく停止。

 当然、重力に引かれるままにそれは急降下、というよりも自由落下を始めた。


 地面にたどり着く直前にスラスターを吹かすと螺旋を描くように2回ロールしながら彼女たちより少し上の高度へと上昇した。


 そこには初めて飛べるようになった鳥のような気持ちの良さや清々しいものを見る者に感じさせた。


「ーー使いこなせてる嬉しさで舞い上がってるのよ!」


「はぁぁぁああ!?」


 安心しかけたリヴァレの驚愕の声が訓練場に響いた。

 そんな彼女へとツェルトは声を綻ばせながら言う。


「気持ちはよーくわかるわ。私も自由に飛べるようになった時って嬉しかったし、自由に飛びたくなるわよ。

 リヴァレちゃんの時もあったでしょ? 自由飛行の時間」


 たしかに思い返せば数としてはそう多くはなかったが訓練場を自由に飛ぶ機会は何度か与えられた。

 そしてその時間は不思議と楽しかった印象がリヴァレにはある。


 当時自身が感じてたものを今の彼も感じ、飛んでいるというのであれば今の行動は少し理解はできる。


「むっ……それはたしかーー」


 そのまま納得しようとしたところでハッと思い出したリヴァレは首を横に振った。


「ーーって、いやいや、あれはあらかじめ決められた時間内で行なっていることです!

 今は彼の訓練もありますがデメヴィオの試験も行なっているのです。やはり止めなくては……」


「うーん。でも、言ってすぐに止まってくれるかしら?」


「なら私が止めます。ルカ、飛行ルートに戻ってください!」


 彼女は上空を飛ぶデメヴィオを見上げると声を飛ばしながら彼を追いかけ始めた。


 追いかけっこを始めた2人を見ていたツェルトの隣に滑るようにガリスが近寄り、声をかける。


「まさかもうあそこまで扱えるとはな」


「はい。正直、かなり驚いてます。

 ウェスバの装備イメージを伝えただけなんですけど」


「……本当にそれだけであそこまで扱えるようになったのか。

 イメージの力とはなかなか侮れんな」


「ガリスさんもリヴァレちゃんも反復練習で動きを体に覚えさせるタイプですからね。

 正確な動きもかなり驚かされますよ」


 互いに誉め合っている間にもルカとリヴァレの追いかけっこは続いている。


 あれからリヴァレはかなり距離を詰めることができ、あと少しで手が触れるというところまで近づけていた。


(あと、ちょっと……!)


 足を掴もうとリヴァレ機の手が伸ばされ、触れる寸前にルカ機はロールしてするりと回避。

 一瞬スラスターを吹かして距離を開けると急停止をかけて上昇、半回転しリヴァレの頭上を通り過ぎた。


「なっ!?」


 その行動はリヴァレにとっては不意打ちに近いものだった。


 扱いに慣れた者であればそう難しくはない動きだが、彼はウェスバを装備してまだ数時間だけのはず。


(いや、違う! 彼はアバードを完璧に扱いこなしているという話だった。

 これはその動きをウェスバに落とし込んだんだ。この短時間で!)


 とんでもない感覚と技術力に才能だ。

 即座に出てきたのは驚愕。その次に出たのは闘争心だった。


 自由に空を飛び回るルカへとリヴァレは声を上げる。


「捕らえます!」


 彼女の言葉に答えるようにデメテリスの緑のバイザーが光る。

 キッとデメヴィオを睨みつけたそれはスラスターを吹かした。


 目の前を飛ぶルカのデメヴィオは同じ機体だと思えないほどにスムーズな飛行だ。


 まるで「自分はこれだけ扱える」と証明するかのように度々ロールを入れながら飛ぶその姿を見てリヴァレは歯をくいしばる。


 ウェスバの装備時間はもちろん、デメヴィオの装備時間もルカが休養を取っていた間も装備していたためリヴァレの方が上だ。


 しかし、不意をついたとはいえ彼が未だ逃げ続けられているのは事実。


 改めて思う。

 アバードとウェスバの違いを掴める感覚、脳内の動きを体と機体に実際に取らせる技術、それらを全て可能にする才能。その全てがルカにはある。


 正直言ってしまえば羨ましいと思った。


(だからなんだ!)


 リヴァレは自らであげた要素を一蹴する。

 その間も追いかけっこは続いている。


(私は、そんな才あるものを超えてきた!)


 感覚がないなら体に覚えこませた、才能がないなら正しい方法で効率的に時間を使い、その時間の中で技術を身につけた。

 才能がないなりに自分で力を身につけてきて今がある。


 ルカと比べればとてもだがかっこよくはないし地味だろう。

 だが、彼にも培ってきた力は通用するはずだ。


(いや、通用させる。今までの私でダメなら今の私が!)


 リヴァレ機が近付いてくるのを察したルカ機は急降下、スラスターを一瞬だけ吹かし縦に1回転すると地面に足を突き立て停止。

 スピードを無理やり殺したルカ機は地面を蹴り飛ばし、ほぼ直角に飛び上がった。


 一方のリヴァレもほぼ同じように急降下をしたがルカとは違い地面を大きく削ることはなく、そのまま飛び上がり彼を追う。


 2機は交差しながら上を取り合い、距離を開けたかと思うとすぐさま距離を詰めるという攻防を繰り返し始めた。


 そんなルカたちにガリスとツェルトは素直に舌を巻いていた。


「ははっ、2人ともすごいな」


「ですね。リヴァレちゃんもルカ君の動きを真似しながら自分のものに変えている。

 とんでもない意地ですね」


 今まで積み上げていたものたちを惜しみなく使い追い縋る姿は意地というほかない。

 そして意地を押し通せる力。それだけで彼女がどれほど鍛えてているのかがうかがえる。


「出来るか? ルカ君の動き」


「うーん。せめて3ヶ月は欲しいですかね……。

 ガリスさんはできます?」


「はっはっはっ、5ヶ月はもらいたいところだな」


「これは私たちももう少し頑張らないと置いていかれちゃいますね、っとそろそろ決まりそうですよ」


 ツェルトの言葉にガリスは意識を2機のデメヴィオへと向けた。


 現在、上を取っているのはルカの機体だ。

 しかし、今までどおりすぐにその立ち位置は入れ替わった。


 上空を取ったリヴァレ機は降下しながら手を伸ばす。

 当然、その腕は真っ直ぐにしか伸びない。そのためそれはルカ機に届く直前に横へとずれることで回避。

 そして、上昇し彼女の手の届かない上を取った。


「そこです!」


 言葉と同時、リヴァレのデメヴィオは背中を向けたまま急上昇した。


「ッ!?」


 人の背中というのは直感的に見えないということもあり、手が届きにくいところだ。

 それはアバードでも同じでウェスバも背中を見ることはできない。


 だが、ウェスバには背中にも腕がある。

 本来ならば武器を担架するためのものだが、腕であることには変わりない。


 普通の天使であればその担架腕のリーチは咄嗟に理解出来ないものだ。

 しかし、ウェスバの特性が染み付いているリヴァレの頭には担架腕の長さが入っている。


 彼女の取ろうとしている行動に気がつき、自らの失敗を悟ったルカだったが今更行動を変えることなどできない。


 ガシャン、という大きな衝突音とともにルカ機の左腕がリヴァレ機の担架腕に掴まれた。

 反射的に振り解こうとしたところでリヴァレ機は前転するように1回転。


 唐突に投げ飛ばされ態勢を整えようとしたルカだったが間髪入れず腹部から強い衝撃が広がった。


 その衝撃の原因はリヴァレ機の放った強烈な蹴りだ。

 逃れようともいち早く勢いに乗っている力からはそうそう抜け出すことはできない。


 ルカ機は爆発音にも似た音を辺りに響かせながら地面に押し付けられた。


「はぁ……はぁ、っ、ルカ。なにか言葉はありますか?」


 ルカのデメヴィオの腹部に足を乗せたままリヴァレが達成感と怒りとが潜む声を向けた。


「す、すいませんでした……」


 少し情けない声でルカは返した。

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