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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第2章 クロスブレン

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小さな一歩

 ルリナたちとの小さな勉強会から3日が過ぎた。

 様子を見ながらとはいえウェスバの訓練再開を明日に控えたその日、彼の姿は城塞ではなくミクズム市街の中央にあった。


 中央広場には円形の巨大な噴水があり、その中央にはヴェルシー王国を象徴する3対の翼を持つ乙女のようなギフテッドある。


 辺りを行き交う人々から像、そして空へと視線を移したルカは来るであろう人物の姿が見えるのを待ち始めた。


◇◇◇


 夜の帳が辺りに落ち、整備員や天使たちも休息に入った頃。


 ルカは談話室の片隅にいた。

 手にあるのはウェスバでの編隊、連携についての本だ。


「よくわらない……」


 それが率直な彼の感想だった。


 なにせアバードを纏えるようになってから今まで連携というものを考えたことがなかった。


 アバードの扱い方や戦い方をルカに教えた祖父もまるで「そんな事態は考えなくてもいい」と言わんばかりの剣幕で1対1や1対多の戦い方しか教えてくれなかった。


 本を閉じたルカは改めて表紙を見る。

 じっと見つめたそれを膝の上に置いて天井を仰いだ。


(なんで爺ちゃんはその辺り教えてくれなかったんだろう)


 祖父が死んでから約4年。少し朧げになった声と姿をどうにか引っ張り出しながらルカは心の中で呟く。


(そもそも爺ちゃんはなんであそこまで俺に戦い方を教えていたんだ?)


 自分の戦い方、力が異常であるのは周りが散々言っていたため理解できた。

 だが、祖父がなぜそこまでの力をつけさせたかったのかがわからない。


 孫が可愛かったから?

 母親と父親が近くにいないから?

 才能があったから?

 1人でも生きられる術を覚えさせたかったから?


 どれも違うような気がする。

 理由の1つにはあるかもしれないが本当の理由はもっと別のような気がした。


 そんな時、ふと祖父残した言葉が蘇る。


『いいか、ルカ。お前は強くなれる。どこまでも、誰よりもな。

 しかし、くれぐれもーー』


「ーー村の外には出るな」


 それを呟いたのと同時、気配を感じたルカは振り向いた。


「ここにいましたか」


 そう言いながら歩み寄るのはリヴァレだ。

 彼女を視界に捉えたルカは立ち上がり軽く頭を下げる。


「お疲れ様です。えっと、何か用が?」


「ええ、まぁ……はい」


 リヴァレにしては妙に歯切れの悪い返事だった。

 彼女と出会ってまだ日は浅いがそう感じたルカは眉をひそめて小首を傾げる。


 一方、異性と出かけるということをしたことがなければ考えたこともなかったリヴァレは少しの緊張感を覚えていた。

 特別な感情ではなく、慣れないことからくる緊張。


 加えるのならば散々彼を邪険に扱っていたのだ。

 そのため当然といえば当然だが、断られる可能性もある。

 そして、断られてしまえば流石に少し凹む。


 可能な限りそれらを悟らせないように意識しながらリヴァレは口を開いた。


「明日、私と出かけませんか?」


「出かける? なにか仕事ですか?」


「違います。いえ、ある意味ではそうかも……」


 ルカが聞き取れたのは前半の否定部分だけだ。

 結局のところリヴァレが外出に誘った理由はわからなかったが、彼としては断る理由はない。


「よくわかりませんけどわかりました。集合はどこですか?

 ここの門の前にでもしますか?」


「あ、えっと、では中央広場の噴水の場所で。

 時間は……10時あたりにでもしておきましょう」


「はい。じゃ、俺は部屋に戻ります。ゆっくり疲れを癒してくださいね」


 ルカはそう言うと丁寧に頭を下げ、談話室から去った。


 その背中を見届けたリヴァレが小さくため息をついた瞬間。


「本当にいい子ね〜」


「ああ、邪険に扱った者へも礼儀を示すとはな」


「うわぁっ!?」


 突然聞こえたツェルトとガリスの声にリヴァレは素っ頓狂な声を上げて半歩飛び退いた。

 彼女の反応を見てガリスは言う。


「よかったじゃないか。誘いを受けてくれて」


「一歩前進ってところね」


 先ほど漏らした声と羞恥心を薄くさせるために小さく咳払いを挟んだリヴァレは口を開いた。


「そのあと二歩下がるかもしれませんよ」


「なら次は三歩前に進めばいい」


「もし下がったら次はまた一歩ね」


 どこまでもポジティブな2人にリヴァレは小さく息をついた。


「そこまでして私に彼を知っていて欲しいのですか?」


「まぁ、な」


 ガリスが気恥ずかしそうに頬を掻く隣で困ったように眉を八の字にしていたツェルトは口を開く。


「すごく個人的な理由、なんだけどね」


 2人はルカが歩いて行った方向へと視線を向けた。

 少ししてポツリとつぶやき始めたのはガリス。


「今のルカには居場所がない。すぐ近くにあって知らなかった、気が付かなかったのではなく、ないんだよ」


 どこか遠い場所を見ながら自分ごとのように語る彼は続けて言う。


「私たちは彼の居場所を守ることが出来なかった。だからせめて新たな居場所ぐらいは作ってやりたいのだ」


「リヴァレちゃんにせめて知ってほしいというのはそういうことよ。

 認めずとも、彼の存在を知る。それだけで彼にとっては居場所の1つかそれができるきっかけになるもの」


「それが、2人の理由ですか」


 ガリスとツェルトの言葉を噛みしめるように呟いたリヴァレへと2人は笑みを浮かべる。


「そうだ。私たちの理由だ。

 だからこれをリヴァレに押し付ける気は無い」


「そう、ルカ君のことを知ってそのあとどうするのかはリヴァレちゃん自身で決めていいのよ」


 念を押すような言葉にリヴァレは小さな返事と共に頷いた。


◇◇◇


 そんな昨夜のことを思い出しながらリヴァレがその場所に向かった頃にはルカがすでにいた。

 噴水を背に空を見上げている彼につられて彼女も空を仰ぐ。


 そこにあるのは平和を象徴するような青い空と白い雲、羽ばたく小鳥ぐらいだ。


 なんとなく彼が空に見惚れる理由を察しながらもリヴァレは視線を前へと戻し、ルカへと声をかける。


「お待たせしました」


「あ、いえ、俺も少し前に来たぐらいですから」


「そうですか。では、どこへ行きましょうか」


 リヴァレが言った瞬間、彼女たちの間に沈黙が訪れた。

 その沈黙を打ち壊したのはルカの疑問の声だった。


「え? 決めてなかったんですか?」


「はい。こうして出かけることはあまりありませんでしたし……。

 この服もツェルトに選んでもらったものですし」


 彼女は言いながら自分の姿を改めて見下ろす。

 フリル付きの白い肩出しの淡い青のワンピースにワンポイントとしてショルダーバッグをかけている。


 今着ているその服もツェルトが「数着は持ってたほうが焦ることがない」と言ったから彼女に頼んで買ってもらったものだ。


「そう言えば変じゃないですか? この服」


「似合ってると思いますよ。服に関して詳しいわけじゃないから感想になりますけど」


「十分ですよ。今日はあなたと出かけているのです。

 あなたに変と思われてなければ構いません」


 自分の放った言葉が少し気恥ずかしく感じ始めたリヴァレはそれを誤魔化すように歩き出した。

 突然広場から離れようとする彼女の背中を慌てて追いながらルカは問いかける。


「どこに行くか決めたんですか?」


「ひとまずは市場にでも行きましょう。

 ここで立ちっぱなしよりは歩いたほうが良いでしょうからね」


「は、はい。わかりました」


 少し駆け足で彼女の隣に並んだルカは頷いて共に市場へと向かった。


◇◇◇


「んー、とりあえず問題はなしだな」


「2人とも行動力あるのが幸いしましたね」


 広場を離れる2人を遠くから見ていたガリスとツェルトはひとまず安心して息を吐くと続いて歩き始めた。


 そんな時、ガリスの口から疑問が溢れる。


「なぁ、わざわざ尾行するぐらいなら最初から4人で行けばよかったなんじゃないのか?」


「ダメですよ。私たちも彼のことを知りたいですし、そんな状況だと絶対私たちだけでルカ君を引っ張り回して終わりますからね。

 目的はリヴァレちゃんに一歩踏み出してもらうことですから」


「まぁ、それはそうだがな」


 たしかに自分もルカのことを少し知るべきだと言った手前、ツェルトの行動を咎めるというのはやりにくい。

 しかし、仲間を尾行するというのは少々罪悪感を覚えてしまう。


 そんな彼の考えを悟ってかツェルトは小さく微笑んだ。


「バレなきゃいいんですよ。バレなきゃ」


 言いながらツェルトは2人を見失わないように、しかし悟られないように視界の隅に捉え続けることを意識しながら少し足を速める。


「バレたら相当酷く怒鳴られそうだな」


 ツェルトの少し後ろを歩いていたガリスは頭を掻きながら呟いた。

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