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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第2章 クロスブレン

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小さな勉強会

 倒れた翌日にはルカは行動の自由を許された。

 むしろ体を鈍らせないように軽い運動はしておけと言われたが、行動範囲まで自由になったわけではない。


 用心としてルカはウェスバの格納庫や訓練所に入ることは禁止された。

 そのせいでデメヴィオ含めウェスバのことを整備士たちに聞けないでいた。


 数少ない顔見知りであるガリスたちからせめて話を聞こうと思ったが、昼間はそれぞれ仕事があるため食事の時ぐらいにしかまともに会えない。


 倒れた日からすでに4日。

 今日も今日とで手持ち無沙汰な彼はミクズム城塞の通路をあてもなく歩いていた。


「あ、ルカさん!」


 名前が呼ばれて振り向いた先にいたのはルリナとミカエラだ。

 ミカエラは軽く手を挙げて挨拶し、ルリナは表情をぱぁっと明るくさせながらルカに駆け寄ってきた。


「もうすっかり回復したみたいですね。安心しました」


「ええ、どうにか……ただ、ウェスバには乗れないのでこうして歩き回るぐらいしかすることがなくて」


「仕方あるまい。それほど君への負荷は大きかったのだ。

 そこは急かした私たちに責がある。君が気にすることではない」


 申し訳なさそうに改めて言われてはルカも返す言葉がない。

 どこか余所余所しい雰囲気が流れ始めたが、それを止めるようにルリナは何か思いついたようで手を合わせた。


「今、ルカさんは暇を持て余しているという認識で構いませんか?」


「ええ、そうですけど」


「では、私の勉強に付き合っていただけませんか?」


 にっこりと提案されたそれにルカどころかミカエラも驚いたように瞬きをした。


◇◇◇


 2人、というよりもルリナに案内された部屋はミクズムにいくつかある書斎の1つ。


 全体的に落ち着いた雰囲気の部屋であることから、優雅に本を読みながらお茶を飲むための部屋というのがルカの感想だった。


 そんな部屋でルリナとルカが椅子に座り、円テーブルを挟んだ向こうにミカエラが立つ。


「あの、本当にいいんですか? 俺が加わって」


「構わん。勉強といっても今日は私が話をするだけだ。1人増えたところで手間は変わらん。

 むしろ質問する者が増える分、話しやすいかもしれんしな」


「はい。私自身が受けた印象とは別の印象を聞ければ理解も深まりますし」


「まぁそういうことだ。

 少なくとも君がいることで私たちに不利益はない。だから遠慮せず質問をしてくれて構わん」


 今のルカはただの村人ではなく、ヴェルシー王国のヘルファイス研究局(ラボ)、クロスブレンに所属している身だ。


 そもそも知りたかった内容ということもある。

 加えて説明するミカエラが「構わない」と言うのであれば彼から断る理由はない。


「わかりました。では、お願いします」


「お願いします。ミカエラ」


 ルカとルリナの会釈を受けたミカエラは頷くと咳払いを挟み、口を開いた。


「では、今日の話はアバード、ウェスバ、ネスデッドにギフテッドの説明だ。

 まずそうだな……早速だがルカ。君の認識を知りたい」


 早々に指名を受けたルカは頭にある知識を引っ張り出し、指を折りながら答える。


「アバードはよくわからないですけど人間とかにある能力の1つ。

 ウェスバはアバードをコピーした兵器でネスデッドは次のギフテッド候補。そしてギフテッドは12使徒、です」


 ルカは言い切ると少し不安げな表情でミカエラへと視線を向ける。

 それを受けた彼女は彼を安心させるよう微笑んで頷いた。


「大まかな認識としてはそれであっている」


 世間一般的に知られているアバードだが、その出自には謎が多い


 現在の定説としては、迫り来る大量のドラゴンに対抗するには文明を持つものたちはあまりにも非力であり、それを哀れんだ12使徒(ギフテッド)が力の一部を分け与えたというものだ


 他にもいくつか説はあるが、進化の過程で得たのではなく、後天的に獲得した能力という見方が普通である。


 ルカもその辺りの話は噂話として聞いたことはあった。

 改めてその話を聞いて頷いたルカだったが、ふと1つの形となったそれを呟いた。


「つまり、アバードはギフテッドの劣化版?」


「そうかもしれんな。実際のところ私もそう見ている」


 そう言ったところでミカエラは何かを思い出したのか顎に手を当てて呟く。


「いや、そういえば……ナテスアはネスデッドのなり損ないと言っていたな」


「なんでですか?」


「ルカさんが先ほど言ったようにネスデッドはギフテッドになり得る存在。

 より正確にはギフテッドになれるアバードのことをネスデッドと呼ぶのです」


「そう、つまり両者に能力的な違いはない。

 唯一あるのはギフテッドになれるか否かのみだ」


「あ、そうか。

 本来なら全てのアバードにはギフテッドになれる可能性があったけど、現実はそうじゃない」


 ナテスアの考えはギフテッドが成体、ネスデッドが幼体というものでそれに当てはめればそもそもアバードは幼体ですらない。

 たしかにそれに沿えばアバードは損ないという誹りを受けるだろう。


「そう考えるとなんか悲しくなりますね。最初から失敗作って言われてるみたいで」


「個人的な意見ですけど、私はそうは思いませんよ。

 多様性に富んでいますし、いずれネスデッドやギフテッド以外の進化を遂げる可能性もあると思いますわ」


「……あるんですかね。そういうこと」


「文明を持つ存在がアバードを得て約200年。

 たしかに今まではなかったが、かといってこれからも絶対ないとは言えんだろう」


 いずれアバードが騎士のように過去の存在になることがあるのだろうか。

 ルカにはいまいち想像ができないことだった。


「アバードとネスデッドについては以上だな。

 では、次はギフテッドだが……正直あまり言えることがない」


「各国の象徴でもあると同時に切り札となるからですね」


 ルリナの確認の言葉に続いてルカが自身で噛み砕いた言葉を口にする。


「知られるとその切り札が通用しなくなるかもしれないからってことですか?」


「そうだ。対策され、無効化されてしまえば切り札足り得なくなる」


 ギフテッドは各国の象徴である。

 そのため姿や名前は公表されているがその能力については不明とされている。流されている情報はほぼ全てが意図的に流された偽情報だ。


 国を統治する存在でありながら象徴であり、同時にその国を守る最後の盾と最強の剣。

 それがギフテッドという存在なのだ。


 もちろん持っている能力を知ったところで対策するというのは簡単なことではない。

 しかし、避けるべき状況がわかってしまえば衝突を避けて物理制圧に乗り出すこともできる。


「切り札を見切られた国は侵略され、支配されるのです。

 その国にとって良い結果をもたらすことはないというのは考えるまでもないでしょう」


「戦場でどれだけ勝ち続けようとも国の中で敵が酒を飲み交わしていれば戦争は負けだ。

 そして、それがウェスバが生まれた理由でもある。わかるか、ルカ」


「戦場じゃなくて戦争に勝つため……?」


「ああ、そうだ」


「あれ? でもウェスバってドラゴンと戦うために作られたものだって聞いたことありますけど」


「最初は、な」


 アバードは1人1人で姿が異なる。

 武器はエレマフォトンから作り出すためある程度は統一することはできていたが、それにも限界はある。


 加えて損傷は自己修復頼みであったり、練度の差も如実に出て連携という点においてはあまりにもやり辛さが目立っていた。


 それを解決するために作り出されたのが擬似アバードことウェスバである。


 資源や金を使い、整備も必要であるが、かわりに装備は共有され管理もしやすくなった。

 加えて、各能力が統一されたことにより部隊展開も画一化することができるようになったのだ。


 詰まる所、ウェスバの実戦投入により組織での戦闘レベルが飛躍的に上昇したのだ。


「結果、ドラゴンとの戦闘も次第に洗練され、仕事として処理できるようになった。

 それと同時に相手は次第に人へと向かう」


「なんでドラゴン討伐で終わらなかったんですか?」


「防衛に余裕ができたからだろうな。安定したことで発展のために資源を求めるようになったのだ。

 特に初期はウェスバの開発と量産が始まったことで今以上に資源はいくらあっても足りない状況だっただろうしな」


「足りないならお金で買えばいいんじゃ……」


「自分より弱い存在であれば奪えてしまいますから。

 そうすればお金を払う必要もなくなりますし、あったとしてもかなり自分に有利な条件で買えるようになります」


 ルカは普通の農村で生まれ、戦うといっても相手はドラゴンがほとんどだった。


 自分が住んでいる世界の外ではそのようなことが起きている、考えられているなど思ってもいなかった。


「ヴェルシー王国は幸運なことに資源も豊富で技術力もあります。今のところ誰もどこかへ戦争を仕掛けることは考えておりません。

 ですが、他国はまた状況が違います」


「ああ、彼らも彼らで自国やそこに住む民のために戦争を始める」


「でも、だからって降伏したら……」


「ああ、そうだ。この国がめちゃくちゃにされる。

 それを防ぐために我々天使団は戦場に立ち、戦争をするのだ」


 真剣な面持ちで告げたミカエラの圧に押されてルカは生唾を飲んだ。


 敵は天使団の敵はドラゴンだけではない。同じ人間や他の種族の者と戦うこともある。

 今はないが、これから先もずっとというわけではない。


『ルカ、1つ言っておこう。

 世界とは君が思うほど平和を望む者ばかりがいるわけではないのだ』


(あの言葉はそういう意味だったのか……)


 テーブルの下でギュッと拳を握りしめたルカへとミカエラは言う。


「君のような存在が立つことはないよう努力するが、頭の片隅にでもそれは置いておいてほしい」


 それはおそらく天使団に所属する者としてではなく、ミカエラ自身の願いだろう。

 彼女がどこかぎこちないながらも柔らかい笑みからルカはそう思った。

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