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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第2章 クロスブレン

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知るために

 リヴァレはドアノブにかけた手をゆっくりと離し、扉からも数歩下がる。

 そこで視界の端に映る人影に気が付いた。


「ッ!? が、ガリス」


 驚いた様子のリヴァレを落ち着かせるようにゆっくりと近づきながらガリスは問いかける。


「どうした。入らんのか?」


「……はい。先客が居ますので」


「先客? ミカエラか? それとも局長?」


「ルリナ様ですよ」


 その返しを聞いた瞬間、目を見開いたガリスは頭を抱えて息を吐いた。


「ま〜た抜け出したのか……ミカエラの胃に穴が開くぞこれ」


「いえ、ミカエラは許していると思いますよ」


「そうなのか?」


「はい。隠れているようにも急いでいるようにも聞こえませんから」


 細かくなにを言い合っていたのかはわからないがかすかに泣き声のような者が聞こえる。

 確実に今はいるのはやめておいた方がいいだろう。


「盗み聞きか」


 そんな彼女へとからかうような笑いと共に言ったガリスは通路の壁に体重を預けた。

 そんな彼へと責めるような視線を向けたリヴァレは言葉にも不服な様子を含ませて返す。


「違います。偶然です。聞きたくて聞いたわけじゃありません」


 向けられる視線と声音にガリスは素直に謝るように眉を八の字にした。


 リヴァレの言うとおり部屋の中にルリナが居るのであれば邪魔をしない方が良いだろう。

 少なくとも彼女が入らないのであればそれより後に来た自分も彼らの話が終わるのを待とう、そう決めたガリスに問いが向けられた。


「……彼は本当に私たちと共にあるべきなのでしょうか?」


「言ったはずだが?

 彼はもう守るべき民ではなく隣に立つ天使である、と」


「それが私には認められないと言っているのです」


 壁を隔てた向こうにはルカとルリナがいるため声量はかなり抑えられているが語調には荒々しさが嫌という程にわかる。


 そんなリヴァレに対するガリスは極めて淡々と告げる。


「だが、君も報告書は読んだろう?

 彼の力は圧倒的だ。それでも君は彼を守るべき民だと、武器を取るべき存在ではないと言うのか?」


「言います」


 はっきりと毅然とした態度で即座にリヴァレは答えた。


 たしかに彼女は物をはっきりと言うタイプの人物であったが、その速さと語調の強さには彼女の在り方が現れているように感じられた。


 気迫に少し押され、返す言葉を探し始めたガリスへとリヴァレは続ける。


「どれ程の力があれどそれは我々のような守る為ではなく、生きるために振るわれてきた力です」


 どれ程の力があれどそれはルカ自身が生きるために鍛えていたはずだ。


 天使のように最初から己の身を呈して誰かを守るために鍛えてきた力や技術とは違う。


「中心が自分か他人か。

 その違いは僅かのようですが果てしない差があります」


 リヴァレにとって訓練校とは技術などを覚えるのはもちろんだが、その差を知る場所であり覚悟を持つための場所だ。


 そんな彼女にとってすれば訓練校を出ていないルカは“守る覚悟を知らない者”という認識しか持てない。

 だから彼を守るべき民という存在でしか見れず、とてもだが並ぶ者と扱うわけにはいかないのだ。


「実力はあるのでしょう。

 ですが、天使としての意識がない者を私は仲間としてみることはできない」


 心の中にあった靄の原因を全て吐き出した彼女は呆気に取られたガリスの顔を見て急に冷静になった。

 そして、先ほどまでの堂々とした様子は何処へやら、すぐに頭を下げておずおずと口を開く。


「す、すいません。熱くなり過ぎました」


 彼女の謝罪を受けてガリスも意識を現実に戻し、首を横に振った。


「あぁ、いや、すまない私も考えなしだった」


 つい数時間前、ナテスアに「急ぎすぎだ」と言ったばかりだというのに自分もまたそうであったことがわかると途端におかしく思えたガリスは小さく笑う。


「はっはっはっ、いやはや教導官から離れて長いせいか学ぶ姿勢を忘れていたよ」


「……教導官とは教える側ではないのですか?」


「いや、たしかにそうだがな。

 私も人だ。誰かに一方的に物を言うほどの存在ではない。

 学ぶことも多かったよ」


 その時のことを思い出しているのかどこか遠い目をしたガリスへとリヴァレは興味を抱き、問いかける。


「何を、学んだのかお聞きしても?」


 問いを受けたガリスは少しの間を置いてその答えを口にした。


「戦う理由さ」


「戦う、理由……?」


「ああ、そうだ。

 リヴァレ、君は民を守るために天使団に入ったのだろう。

 だが、ある者は自分の名誉のため、ある者は己の力量を知るため、そしてある者は誰かを見返すため……皆それぞれに理由があった」


 リヴァレとしてはあまり理解ができないことだ。


 力を持つ者には相応の責務が与えられる。

 その責務が民を守ることと彼女は考えているからだ。


 訓練校では他人を気にすることもなかった。

 加えて、どんな想いで彼らが訓練していたかなど興味がなかったため、全く覚えていない。


 それを悟っているかはわからないが、ガリスは問いかける。


「リヴァレは彼らをどう思う?

 君と違い、自分のために天使になった彼らを」


「理解は、できません。正直、よくもわかりません」


 俯きながら控えめに発せられたところからガリスはそれをリヴァレの正直な言葉として受け取った。

 ゆえにどこか満足気に頷く。


「理解はできずとも、知ることはできる。そのような考え方をする者がいるのだとな」


 今のリヴァレは先入観から否定や拒否をしているだけでまだルカのことを知らない。


 彼女の拒否感を払拭、とまではいかずとも軽くするには未知から既知へと変える方法しかない。


「君は知ること自体は拒否しているわけではない、と私は見ているが?」


 もしそこから拒否しているのであればそれをどうにかするところからだが、彼女は問いに言葉ではなく、無言を返した。


 迷っているのかもしれないが、少なくとも即座に首を横に振ることはなかったため、ガリスは肯定と受け取り、口を開く。


「ならば知るがいい。彼をな。

 存外、君と変わらん存在かもしれんぞ。私も知らんがな!」


 そう言い軽く笑い飛ばすガリスへとリヴァレは至って真剣に問いかける。


「……知るとは具体的にどうすれば?」


「デートよ!」


 ほんの少しだが乗り気になったリヴァレへと言葉を投げたのはガリスではなく、突如として現れたツェルトだ。


 耳に届いた言葉に疑問符を浮かべながらリヴァレは確認の言葉を向ける。


「で、デート?」


「知らない?

 お出かけよ。お出かけ」


「いえ、言葉の意味ではなく、それをする意味がよくわからないのです。

 出かけてわかるものでしょうか?」


「ふふっ、人となりを知るには日常を一緒に過ごすのが一番なのよ」


 未だよくわからないリヴァレへとにこやかにツェルトは言い切った。

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