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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第2章 クロスブレン

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力試し

 ミクズム城塞の訓練場はコロッセオのように円形のグラウンドのような場所だ。


 雨は多少小降りになったがまだ降り続けている。

 そんな中で黒いアバードとデメテリスが向かい合っていた。


 アバードの方はルカ。

 デメテリスは彼をこの場に誘った人物、ナテスアの部下と名乗った男性ガリス・シュパードだ。


 なぜ彼らがこうしているのか、それは2時間ほど前に遡る。


◇◇◇


 ルカがベッドで膝を抱えていると扉がノックされた。


 正直なところ出たくはない。答えたくもないほどに億劫だ。


 しかし、ルカはこの部屋を借りている身。

 そんな彼が失礼な態度で返せるわけもなく、ルカは心と体に鞭打ち起き上がると扉を開けた。


「やぁ。君が、ルカだな」


 扉の先にいた男性が気さくな笑顔で言った。


 ショートカットの金髪をオールバックで整え、肉食獣のような鋭く尖った赤い目を向ける男性。

 雰囲気は少々怖いがその声音は柔らかいものだった。


 まるで何度かあったような雰囲気があるがルカには見覚えはない。

 強いていうならば声にはどこか聞き覚えがあるような気がした程度。


 僅かな警戒の色を言葉と視線に含ませたルカは問いかける。


「あの、なにか?」


「ああ、いやなに。私とひと勝負しないか?」


「勝負?」


 突然の申し出にルカへと男性は続ける。


「そうだ。局長から聞いているよ。君はアバードで天使団を退けたそうじゃないか。それも余裕でな」


 局長、というのはナテスアのことだろう。

 そう思ったところで思い出した。


 彼の声はリジオ村へ行く直前に聞こえた男性の声だ。

 ということはよくわからなくとも完全に自分を騙そうとしている人物ではないのだろう。


 そのことに安心し、ほっと胸をなでおろしたが、そこで今度は疑問が頭をもたげた。


「あの、それでなぜ勝負をするのか聞いてもいいですか?」


「動きを見たいと思ったんだよ。

 君が倒した天使団の被害状況を見て局長は君をスカウトした。私もそれを見て同じ感想を得た。

 しかし、私は実際にそれを見たわけではない。

 だから、君の動きが偶然か否かを確かめさせてほしい」


「……でも、その、今は」


「今だからこそ、だ。

 しょぼくれるのも構わんが、動いて少し心を落ち着かせるのも良いとは思わんか?」


 たしかにそれは一理あるかもしれない。


 部屋にこもり、ベッドで膝を丸めて同じところをぐるぐると思い出しているよりは数段マシだろう。


「わかりました。えっと……」


「ああ、すまん。名乗っていなかったな。

 私の名前はガリス・シュパード。ガリスとでもシュパードとでも、まぁ好きに呼んでくれ」


「あ、なら、ガリスさん、で」


 ルカの言葉に頷いたガリスは彼を連れて天使団の訓練場へと向かった。


◇◇◇


 ルカは天使団を迎撃した時のようにアバードで、対するガリスも条件を似せるためにデメテリスを纏っている。


 背部の担架ユニットから剣を装備、中段に構えたガリスは声をかける。


「では、行くぞ。ルカ」


「……はい!」


 虚空から剣を取り出したルカは答えながら同じく中段に剣を構えた。


 それを見たガリスは頷き、告げる。


「先手は貰う!」


 頷いたルカは臨戦態勢として剣を握りしめ、そうしているかわからない程度に小さく腰を軽く落とす。


 対するガリスは深呼吸。

 大きく吐いたタイミングで両足の翼のようなユニットからエレマフォトンを噴き出させ急前進、剣を振り下ろした。


 ルカはそれを受け流すとしゃがむこみ、立ち上がる勢いに乗せ剣を突き出す。

 狙いはちょうど鎖骨のあたりだ。


 その攻撃はガリスが左半身を引いたことで回避された。

 本来ならばそこから反撃が来るのだろうが、そんな隙を与える気は無い。

 左手で手刀を作るとそれを振るう。


 反撃を加えようと踏み込みかけたガリスは奥歯を噛み締めながら大きく後ろへと飛び退いた。

 同時、ルカも後ろへと飛んだため、2人の間に大きく距離が開く。


 再び剣を中段に構えながらガリスは頭部アーマーの下で苦笑いを浮かべた。


(私の狙いはバレバレ、か)


 ガリスの狙いは単純。

 距離を詰め続け、ルカが得意としているであろう高速機動戦を出来ないようにすること。


 しかし、とガリスの頬を汗が伝う。


 密着してようやく互角に持ち込めるであろう、と予想していたが一度打ち合っただけで理解できた。


(彼の方が一枚上手、だな)


 迫る攻撃の防御とそこからの反撃。

 距離を詰めるというガリスの狙いを読んだ上でさらに追撃を行うことで詰めるはずだった自分から距離を開かせる。


 本来ならばそこからさらに接近、猛攻をかけるのだろうが今は警戒しているのだろう。


 正直認めたくはない。

 訓練を積み、教導隊に入り、更に精鋭と名高い研究局の実験部隊に所属した中で磨いた腕よりも村で自警団をしていただけの少年の方が強いという事実。


(だが、ははっ! 面白い!)


 ガリスの変わった雰囲気を真っ先に感じたルカは目を見開いた。

 一瞬走ったゾクッとする寒気、研ぎ澄まされた刃を向けられた感覚。


 それに警戒をした刹那、ガリスは動いた。


 スラスターを巧みに吹かしジグザグに動きながら地面を踏み込むと軽く飛び、剣を振り下ろした。


 ルカがそれを受け止めたため、2人の間にガギンッと重い金属音が響く。

 彼はもう一度初撃をいなした時と同じように流そうとしたが、それを許さないとばかりに剣が重くなった。


 その原因は突如として吹かされたスラスターだ。

 それにより生じた勢いをそのまま力としてルカへとぶつけているのだ。


「ッ!?」


 どうにかこの膠着状態から逃れたいところだが、下手に力を抜けばそのまま押し倒されることなど容易にわかる。


「なら!!」


 ルカも対抗し、アバード背部にあるバインダーからエレマフォトンを放出。

 ガリス機を押し返した。


 一気に壁へと押し付けようとしたが、その脇腹に鋭い横蹴りが刺さる。

 1発、2発と耐えたが3発目は堪えきれず、横合いへと飛ばされた。


 側転するように姿勢を整え着地、剣と足を地面に突き刺し勢いを押し殺し、顔を上げた瞬間、ガリス機が装備していた狙撃杖から5発の光弾が放たれていた。


 不意打ちの攻撃だったがルカの反応は早かった。


 剣を投げ捨てると長槍を作り出し、巧みに振り回す事で放たれたそれらの2発受け止め、2発を弾き、最後の1発は切り裂いた。


 切り裂かれた光弾は爆発。土煙が舞う。

 しかし、雨ということもありそれはすぐに消えるはずだったが、それよりも速く穿ち消すかのようにルカが投げ飛ばした槍がガリス機へと向かう。


 しかし、その場所にガリスはいない。


 すでに地面を這うかのように低空で飛行し、ルカへと迫っていたからだ。


 それを迎え撃つためルカが作り出したのは円錐の馬上槍。

 躊躇なくそれを迫るガリスへと突き出した。


 だが、彼は寸前でそれに気が付き、剣を突き出し、急旋回。

 左足のスラスター表面の装甲が削れたがそれだけだった。


 ルカの方は急旋回とほぼ同時に突き出された剣により左足に浅い傷を負っていた。

 そのことに驚いたが、過ぎ去った方向には姿勢を直そうとするガリス機の姿がある。

 もちろんこのまま驚いているだけでいるわけもない。


 彼を捉えた瞬間、ルカは2つの斧を作り出し、躊躇なくブーメランのように投げ飛ばした。


 それを視界に捉えたガリスは左の斧は狙撃杖で撃ち落とし、もう1本は剣で下から突き上げ落とす。


「ッ、そこ!」


 ルカの言葉に数巡遅れて何か強い衝撃を受け、ガリス機の手から剣が吹き飛んだ。

 驚愕の表情で視界の隅に吹き飛ぶ剣を捉えながらガリスはルカの方へと視線を投げる。


 その先にあったルカ・アバードが持っていたのは弓だ。

 考えるまでもない。彼はその弓で放った矢で剣を弾き飛ばしたのだ。


(まさか、俺がーー)


 ルカの纏うそれが持つ弓の部分には刃でも付いているのかそれを振るうために構えながら直進している。


 衝撃により後ろに重心が乗り、倒れかけている状態のガリスは回避行動が取れない。

 そのため、彼の一撃を自分の胴体にまともに受けることだろう。


(ーー釣られる、とはな)


 そう心の中で呟き、来るであろう衝撃に堪えようとした瞬間、声が響いた。


「待ってぇぇぇぇえええ!!」


「ぴぎゅ!?」


 その声のした方向を見た瞬間、ルカが横合いから飛び込んできた白い何かに突き飛ばされ、壁に激突した。


 ガリスは目をパチパチとさせながらそれが突っ込んだ方向へと視線を向ける。


 そこにいたのはルカ・アバードにネスデッドで突っ込み、雨に濡れることも気にせずそれを解除し、馬乗りになっているルリナだ。


「ルカさん! ダメです!

 ただ一時の感情で人を殺めるのは!」


「ち、違……お、れ」


 しかし、反論の言葉を上げる前にルカは気を失った。

 彼から力が抜けたことを示すように上げていた手がぽとりと地面に降ろされる。

 それに続くようにアバードも空間に溶けた。


「違、う?」


 どうにか「違う」という部分だけは聞き取れたルリナは頭に疑問符を浮かべ、ガリスの方を振り向いた。


「えーっと……」


 言い淀まらせるガリスの隣にはルリナについてきていたミカエラの姿もある。


 2人の問いかける視線にガリスはただ乾いた笑い声を上げるしかなかった。


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