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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第1章 日常の喪失

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言葉なき再会

 翌日の朝、ミクズムに住む者たちがそれぞれに仕事を始めた頃、街に入る門付近にルカはいた。


 昨晩ナテスアの部下らしき人物にそこで待つように言われたため来たのだが、そこにはまだ誰もいない。


 もちろん彼にはここに来ないという選択肢もあった。

 本当に彼女の部下であるかも怪しかったがそれでも来たのには理由がある。


 ルカは手のひらにある理由へと視線を落とす。


これ(金貨)も返したいし)


 ルリナに関する褒賞はすでに貰っている。

 この金貨が原因でスカウトにより強気に出られても困る。


 そんな問題を解決したいがためにルカは少し怪しみながらも呼ばれた場所に来たのだ。


 門から出ていく者、逆に入ってくる者などを心半ばに見ながら待つこと10分。


「おっ待たせ〜」


「すまん。少々遅れた」


 現れたのはナテスアとミカエラだった。

 ナテスアが来ることは予想していたがミカエラもいるのには予想外でルカは驚きの声を上げる。


「あれ? ミカエラさんもですか?」


「うむ。そうだ」


「私1人だと制度上飛べないからね〜。私が呼んだんだ」


「は、はぁ、そうなんですか」


 ルカの頭には「制度上飛べない」という単語がナテスアの口から出たこと、2人がアグゼアリークロスを着ている理由がいまいちわからなかったため気の抜けた返事をするしかなかった。


 その時、ちょうど頭上を2機のデメテリスが通過した。


 警備としてはよくあることに加え、ルリナがワイバーンに追いかけられたこともあった。

 その辺りの調査もあると考えればなにも不思議なことではない。

 

 ただ、彼らの上空を飛ぶそれらは両手でなにかを大きな物を掴んでいた。

 しかも、その何かは細かい部分に差はあれど何度か見たことがある。


 ルカが心に一抹の不安を抱え始めた中、ナテスアが声をかける。


「んじゃ、行こうか」


 そう言い、門の外へと向かい歩き始めた。

 ミカエラもそれに頷き続いたが、ルカは何のことかさっぱりわからない。


「ちょっ、ちょっと待ってください。行くってどこに」


 ルカの問い質そうとする言葉にミカエラはピタリと足を止めて彼の方を見る。


 困ったように疑問符を浮かべるルカからすぐにナテスアの方へと視線を飛ばし、言葉を投げる。


「ナテスア、これはどういうことだ?」


「あっはっはっ! 言ったら来なかったかもしれないだろう?

 だから伏せてたんだよ」


 ある意味でいつもと同じ彼女の物言いにミカエラは大きなため息をついた。

 そして疑問符を浮かべるルカに説明する。


「ナテスアは君のスカウトについて村長と直接話すつもりだ。

 村へはウェスバを使って向かう」


「あ、ルカ君はアバードね。流石に天使団に入ってない者をウェスバに乗せるわけにはいかないから」


 訪れたのは沈黙だった。

 2人の言ったことを頭に取り込み、咀嚼を終えた。


 瞬間ーー


「え、えええぇぇぇええ!!?」


 その場にルカの絶叫が響き渡った。


◇◇◇


 2人になだめられたルカたちがミクズムから出て草原を歩くこと約20分。


 そこには格納状態のウェスバが2機とそれを持ってきたのであろうデメテリスが2機いた。


 ウェスバの格納状態は飛行形態という意味合いも持っている。

 飛行形態ということもあり、飛ぶことは十二分に可能なのだが、装備者が生身になってしまうため戦闘時にはあまり使われることはない。


 それでも機能としてあるのは専用のコンテナユニットを乗せることで荷台として使用するためだ。

 中破程度の損傷機体を荷台として活用することで兵站はもちろん撤退することも考慮した使い方ができる。


 そんな格納状態のデメテリス上部に跨るように四つん這いになりながらミカエラは4つある穴にそれぞれ手足を突っ込む。


「ウェスバ・クラッド」


 言いながら手を引き上げて上半身を起こすと腕、胸部、背部の装甲が展開し装着。

 続いて立ち上がると上半身と同じようにミカエラの足を装甲が覆っていく。


 最後に下腿が少し伸び、足首から伸びる翼が空吹かしを行って頭部アーマーがセット、頭部のバイザーが淡い光を放った。


 同じようにナテアスもウェスバを纏っているのだが、それはデメテリスとは少し形が違っていた。


 全体的にバランスよく配置された装甲によりデメテリスのような機械的ながらも柔らかい印象は消えている。

 足首にあった大型の翼は小型化され、代わりに腰あたりには下方向へと伸びた翼状のユニットがある。


 デメテリスと似た装飾が所々にあるが全体的な印象としては燕尾服のように見えた。


「かっこいいですね」


「ふっふ〜ん。だろぉ?

 私たちが今開発している新型でね。名前は【デメヴィオ】っていうんだよ」


 声を弾ませながらナテアスはルカに見せつけるようにその場で一回転した。


 感嘆の声を漏らすルカを見て気分が乗った彼女はさらに高く飛ぼうとした彼女の腕をミカエラが掴んだ。


「待て。嬉しいのはわかるが、勝手に動くな。

 そもそも書類上は試験飛行なのだ。あまりはしゃぐな」


 ナテスアが露骨にブーイングを飛ばすが、それを無視して彼女は続けて2機のデメテリスへと軽く頭を下げた。


「感謝する。2人とも」


「いや、仕事だからな。構わんさ」


「それに局長を押し付けちゃったみたいで申し訳ないですし、これぐらいはしますよ」


 そう答えたのは男性と女性の声だ。

 内容から察するにナテアスの部下なのだろう。


 そんな2人はミカエラといくらか言葉を交わすとルカへと手を振り、浮かび上がった。

 どうやらそのまま周辺の警戒に向かうらしく、ミクズムとは違う方向へと向かって飛んで行った。


「はい。じゃあ、ルカ君もアバードを出して」


「は、はい。アバード・クラッド」


 戸惑いながらも指示に従い、ルカはアバードを展開。

 それを見て浮かび上がった2人に続いてルカ・アバードも空へと飛び出す。


「よーし、準備完了ってとこだね。

 さぁ、リジオ村へ行こうか!」


 そうして彼らはナテスアが駆るデメヴィオを先頭にリジオ村へと飛び向かった。


◇◇◇


 意気揚々とリジオ村へと向かって10分ほどが過ぎた。

 あともう少し飛べば村が見えてくる頃だ。


 その間に問題らしいことは何1つ起きることはなく、少し薄雲が広がりながらも平和な空を表の理由どおり試験飛行を行えていた。


 自分の先頭を飛ぶデメヴィオを見てルカがふと言葉をもらす。


「にしても少し意外です」


「ん? なにがだい?」


「ナテアスさんってウェスバを動かせたんですね」


「む、少し失礼だな。まぁ、わからなくはないけど」


 その言葉を皮切りに説明が始まった。


 各部署へ配属される前にそもそも天使団に所属する者として最低限の技術を身につける必要がある。

 ウェスバの操縦もその最低限の技術の中に含まれていることだ。


「訓練は己の向き不向きを理解するためだな。

 課程を修めた後に研究局へ行くか、実働部隊に行くか、各庶務や分野に進む」


「そうそう。懐かしいね〜」


「……もし、天使団に入ることになったら俺もその訓練を受けるんですか?」


「ん〜、流石に座学は受けなきゃだろうけど、そこは後からどうとでもできるからなぁ。

 ほら、やることは試作機の可動データ取ったり、新武装を試したりだから」


「私も同意見だな。

 技術面に関しては君は突出し過ぎている。共に訓練させるには少々危険だ」


「そう、ですか……」


 アバードを纏っているためもちろん顔は見えない。

 しかし、どこか残念がるような声へとナテスアは問いかける。


「ん〜? 行ってみたかったのかい?」


「はい。まぁ、興味はあります。

 普通に過ごしてたんじゃ、まず入ることはありませんから」


「まぁ、そこは力がありすぎることを恨むがいいさ」


 ナテスアがそう締めくくったところで彼らの眼下に村が映った。


「2人ともそろそろ降りるぞ。天気も悪くなってきたし、少し休めればいいのだが」


「そんなに気にしなくてもいいんじゃないかなぁ。濡れるのはウェスバだし」


「雨の中の飛び辛さを知らないからそんーー」


 降下しながら繰り広げられそうだった言葉の掛け合いの中で真っ先に気がついたのはミカエラ。

 2人もそれに遅れたが気がついた。


「……なんだ、あれ」


 反射的に呟いたのはルカだ。

 目に入ったリジオ村の中央には重い何かが勢いよく地面に突っ込んでできたようなクレーターがあった。


 当然、そんなものは今までなかった。


 よく目を凝らせば所々には“人のようなもの”が地面にある。


 なぜ、人と断言できないのか。


 それは明らかにパーツが足りていないからだ。

 四肢のどれかがなかったり、下半身と上半身が分かれていたり、腹から臓物を飛び出させているものまである。


 それらを見た瞬間、ルカの脳裏に1人の少女が浮かんだ。


「……クリュー!」


「あ、おい!」


 それを止めようとしたミカエラの腕をナテスアが掴み、首を横に振る。


「私たちは先に少し調査をしよう。それからでも遅くはないはずだ」


 ルカが見るであろうものをすでに察したナテスアの言葉に同じくそれを悟ったミカエラは頷いた。


 そして、彼が見つけたのはボロボロに崩れ去った自宅とそこから少し離れた場所にあった頭を失ったクリューの死体。


 ルカがその亡骸の前に立ちすくむ中、まるで彼の心情を表すかのよう空から雨が降り始めた。

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