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吸血鬼ちゃんと月夜の剣  作者: ルゥ
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始まり

衝動的投稿

更新続かない可能性大

 

「………はぁ……まだ止んでないかぁ……」


  教室のガラス窓越しに見上げる、陰鬱な灰色の空。別段、嫌いというわけでもない。水滴が花に付いていると綺麗だし、なによりダムに水が溜まる。渇水が回避される。うどんがいっぱい作れる。

  灰色という色そのものも嫌いじゃない。寧ろ落ち着いた雰囲気で好きな方だ。

  けれど……


「流石に、二週間もずっとじゃねぇ……」


  雨は時々降り、綺麗な姿を見せてくれるのがいいのだ。スコールみたいなのを期待しているわけじゃないし、こんな異常な長雨もあまり好きではない。

  梅雨だから仕方ないのかもしれないが。


「さて。課題も終わったし、帰りますかね……」


  机に立て掛けた竹刀を一瞥すると、鞄を手に持ちドアに向かって歩き出す。しかしドアのすぐ側にある傘立てに手を伸ばしかけたところで、ある重大な事実に気が付いた。

 

  「あ……傘忘れたんだった」


  今日の天気予報は、ここ最近の悪天候には珍しく晴れだった。

  そのせいで気分が昂ってしまい、天気予報が外れているということを予想出来なかったのだ。確かに朝は快晴で、雲も無かったはずだけど……折り畳み傘でも持って来ればよかったか。


「はー、結構降ってるなぁ……おっとぉ?雷鳴ってるし」


  教室を出た先にある廊下の窓から外を覗き、恨めしげに独り言を零すも、それで雨が止むわけでもない。それにこのまま学校にいたら一生家に帰れないので、濡れることを覚悟で玄関へと足を進める。


「いや、鞄濡れるのはちょっとな……」


  階段を降りきったところで、少し思い直し立ち止まる。

  別に私の本体が濡れるのは全く構わないのだ。確かに服が肌に張り付いて気持ち悪くなるのは予想できるが、家に帰れば洗濯出来るし、風呂に入れば身体も暖まる。けれど、鞄の中は別だ。


  割と高いお金を出して買ったノーパソや、試験に備えて一応真面目には書いているノートや教科書が入っている。

  あとは単純に鞄が乾きづらく、明日に響くというのもある。

  それらが無駄になるというのは私も本意ではない。


「どうしようか……泊まる?」


  食事は問題無い。購買で買えるだろう。飲み物も自販機で150円くらいで買える。

  寝床は体育倉庫のマットで確保出来る。

  しかも今日、親は出張で居ないし、心配されることも無い。

 

  しかしそういう問題ではないのが現代社会のつらいところだ。機密や防犯の問題もあるし、倫理的にも危ないかもしれない。


  そんなの本人が気にしてなければいいと思うが。


「しょーがない、帰るか」


  どうせ頭の固い教師陣は泊めてはくれないので、さっさと帰ることにする。

  嗚呼ノーパソ、教科書、無事でいてくれよ。


  とはいえ、怖いものは怖い。

  精密機器君は水に弱いのだ。

 


  一応は覚悟してきたものの……


「……ふー、どう考えても水没ルートでは?」


  玄関に立ち、生で見る雨はもはや『滝』だ。轟音を伴って降り注ぐそれは、突如として上空にナイアガラの滝が出現したと言っても驚かないレベルだ。

  いや、それは言い過ぎか。


  無い知恵をさらにどうでもいいことに振り分けて考えていると、それは第三者の介入により中断させられることとなる。


「……………ぴとっ」


  …………………


「ひゃあああ!?」


  首筋に突如として押し当てられた冷たい感覚と、ちょこんと触れた爪と肌の感触。

  私はそれに驚いて悲鳴……というには間抜け過ぎるような気もするが、ともかく声を上げてしまった。


「ちょ、藍夜アヤ!?心臓止まるかと思ったんだけど!?」


「その程度でお前が死ぬことなど有り得んだろう?なぁ、紅華コウ?」


  私にドッキリを仕掛けてきた、特徴的な口調……もとい、少年の心を忘れられない少女。

  そして彼女の手元を見ると、赤銅色の丸い物体……つまりは10円玉が摘まれていた。

 

「死にゃあしないけどさ……心臓麻痺るよ?」


「くく、人というのは脆いものだからな。直ぐに死んでも不思議では「ヘイ、ポリスメン?」やめてよ!?」


  一瞬、藍夜の素が出た。優しい私は聞かなかったことにする。

  もしそうなったら警察沙汰になるだけだ。というか、10円玉で殺された初の人物になるだろう。


  そんな死に方は絶対に嫌なので、意地でも意識は保つが。


「茶番はさておき……この雨はどうするのだ?この雨風では歩くことも難しいだろうに……」


「どうでもいい、凸る」


  藍夜が『お前マジか』みたいな表情でこちらを見てくるが、それは私も同じことだ。私自身、『私マジか』なんてことを思っている。


  覚悟を決めて走り出そうとすると、背後の藍夜に肩を掴まれる。


「私の右手を見てみろ」


  少しびくりとしつつ振り向いて見てみると、彼女の右手には半透明の幕と金属の骨、180度湾曲しているプラスチックの棒……つまりはビニ傘が握られていた。


「うぇ……?傘だね」


「そうだ。傘だ。だがコイツは、他のものとは少し違う……見ていろよ?」


  藍夜はそう言うと、少し開けた場所へと移動する。


「さぁ、初陣だ……それっ!」


  空気を押し出す音とともに、その全貌を現す。

  これは……まさか……








「……傘だね」


「これを見て反応それか!?」


  そう言われても、そうとしか言いようがないのだ。

  市販のものと比べて強靭そうな骨や、分厚く見えるビニール部分など普通ではないのだろうが、あくまで常識的な普通の傘だ。

  あぁ、そのビニール部分もかなり大きい。


「……大きい傘だね」


「それが妥当な感想だろうが、解せぬ………そうだ、コウ、今夜は私の家に泊まらないか?」


「え、いいけど……藍夜は大丈夫なの?」


  いきなりのお泊まり会のお誘いに戸惑う。

  しかし、私としてもデメリットはないので一応は了承する。問題は藍夜だが…


「大丈夫だから言っているのだろうに……まぁ決まりだな!」


「準備とか何もしてないんだけど……」

 

  杞憂だったようだが、流石に寝間着や洗面道具が無いと不安だ。藍夜に頼めば貸してくれるだろうが……何となく気が引ける。


「よし、さっさと行くぞ!」


  聞いていないか。


「ちょ、私傘持ってないんだけど?」


「私の傘を使えばいいだろう!二人くらい入るぞ?」


  やたらとテンションの高い藍夜に手を引っ張られ、玄関の外に引き摺られる。傘の問題については解決か。

 

  ……改めて、近くで雨音を聞くと凄まじい。これが本当に水が発する音かと。前にも考えたが、滝のようだ。


「見ろ、雨が滝のようだ!HAHAHA!」


「藍夜、大丈夫?危ないオクスリでもキメちゃった?」


  テンションが高いというより、調子に乗っているのか。


  そんなことをかんがえつつ、巨大傘を開いてその場でくるくると回る藍夜に近づく。


「おお、安心感が凄い」


  サイズが大きい分、風に煽られて顔に当たる雨水も少ない。流石に足先まではカバーしてくれないが、それは贅沢というものだろう。現に、私が左手で持っている鞄はほとんど濡れていない。


「ふふ、ネットで偶然見つけたんだ。中々にいいだろう」


  得意気に胸を張る藍夜は嬉しそうだ。意外と藍夜のこのような表情は珍しかったりする。


「ナイス選択だね。私も欲しいわ」


「やらんぞ?」


「いや、自分で買うから」


  流石に人のものを取ってまで欲しいとは思わない。もし本当に必要になったら買えばいいだろう。


  校門を出、歩道の脇を見てみるとそこはもう比喩抜きで小川だった。これは土砂災害警戒情報や洪水警報……もしかすると特別警報も出ているのではないだろうか。


  そんなことを考えていると、空に一筋の閃光が迸る。

  数秒後、轟音と共に『落ちた』。


「……近いな」


「そうだね…」


  ほんの僅かに、耳鳴りがしないことも無い。

  気のせいか衝撃のようなものも感じたので本当に近くに落ちたのだろう。


「近くに電柱があるから上手く避雷針になってくれるかもしれないけど…」


「直撃は笑えないな」


「それ、フラグ……」


  ス…と、私から目を逸らす藍夜。

  まぁ、大丈夫だろう。



  確か、雷がピンポイントで自分に落ちる確率は百万分の1程度だったような気もする。

  宝くじで一等当たる確率と同じだったような…

  余程運が悪くない限り、直撃はないだろう。電柱に巻き込まれる可能性はあるが。


「それで、夕飯はどうするの?適当に……」


「あぁ、昨日シチューの具材は買ってあるからな。それで作ればいいだろう」


  藍夜は中々に家事力の高い厨二病なのだ。基本的な家事は全てこなせるし、合間に子供の面倒くらいなら引き受けられる超人である。

  それに比べ、私は簡単な料理くらいしか出来ない。一人暮らしなら辛うじて……といったところか。


「やった、藍夜の料理結構好きなんだよね」


「っ!?本当か!?」


「え?うん」

 

  実際、藍夜の家に遊びに行くときには私の気分が分かっているかのように欲しい料理を作ってくれるのだ。

  食欲の無いときにはさっぱりした料理、お腹が空いているときには丼物など、レパートリーもかなり多い。


  ………藍夜のテンションが爆上がりしている。


「ふふ……気に入ってもらえたのなら嬉しいぞ」


「だって美味し………っ!?」






  ぞわり、と。

  突然、不気味な悪寒が身体中を走った。


「……?どうした、コウ?」


「嫌な予感がする……」


  先程の穏やかな空気を消し飛ばし、冷たい汗が額に浮かぶ。嫌な予感と言っても、何が起こるかは分からない。車が突っ込んでくるのか、塀が崩れて下敷きになるのか……はたまた、何も起こらないのか。


  こういう時間が一番怖いのだ。

  何が起きるか分からない不安が余計に恐怖を煽ってくる。

  この状況だと、一番可能性が高いのは……

 

  ……………豪雨……雷鳴……傘…………しまった!

 

「藍夜!傘から手を……っ!


 ───閃光─


 う…」


「っあ!?」


  耳を劈く凄まじい轟音と、視界を白く染めあげる光。


  ………雷に撃たれた。そんな予感と共に、白い視界は段々と黒く染まっていった。

 




 




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