91.魔力+魔力
「おっと」
ふらついて、エヴァの背中の上で尻餅をついた。
『どうした!?』
エヴァの心配そうな声が聞こえてきたので、安心させる為に微笑み返してやった。
「大丈夫、魔力を使いすぎて力抜けただけ」
微笑みながら答えたが、俺自身ちょっと驚くくらい、声がすこしかすれていた。
神ボディとはいえ、さすがに全魔力を使い切って無事じゃすまなかったみたいで、気づいたら目の前がチカチカしてて、それが頭にも響いていた。
急に立ち上がった時とか、風呂でのぼせてしまったとか。
ああいうのの、数倍くらいはキツいヤツが俺を襲った。
「……」
『父マテオ?』
「ああ、うん。大丈夫……ふぅ」
一回目を閉じて、深呼吸して身も心も落ち着かせる。
少し魔力が回復してきて、楽になった。
再び目を開けると、目のチカチカはすぐにはおさまらなくて残像のような感じで残ったが、他の不調はあらかた引いてくれた。
「もう大丈夫だよ」
『何か出来る事はあるだろうか』
「大丈夫、このまま僕を乗せてってくれたらそれで。……あと相談にも乗ってくれると嬉しいな」
『たやすいご用だ』
「ありがとう……見えたんだ。昼の太陽から夜の太陽へ何かが流れていくのを」
『それは力か、それとも物質的なものか』
「何らかの力だと思う」
『魔力とは違うのか?』
「わからない、普段とは違う状態じゃないと見えない力だから、単純な魔力じゃないのは間違いないと思う」
『そうか。しかし父マテオの言葉を総合し、更に予測も加えれば――』
「うん」
俺ははっきりと頷いた。
エヴァの言いたいことはわかった、俺でもする、ごくごく当たり前の発想だ。
「昼の太陽が分け与えてる力を解明し、それをこっちがしてあげることが出来れば。状況は改善できる」
『であればその力の解明が急務であろうな』
「そうだね……ねえエヴァ」
『うむ?』
「ぼく、今からちょっと無茶するけど、止めないでね」
『……我に出来る事はないだろうか』
「うん、なるべく揺らさずに飛び続けて。体に必要以上の負担はかけたくないから」
『……承知した』
苦々しく頷いたエヴァ。
俺はそんなエヴァの背中に寝っ転がった。
回復した後はあぐらを組むように座っていたのが、完全に仰向けになって寝っ転がった。
そして、空を見上げたまま、魔力を放出する。
白も0、黒も0の状態にする。
すると、またその力が見えた。
昼の太陽から夜の太陽へと渡っていく力がみえた。
空っぽの状態から来る体の不調は、寝っ転がった状態にする事でかなり軽減できた。
その状態のまま見つめる。
魔力が少し回復しても、さらに吐き出して見つめ続ける。
まじまじと見つめると、その力に見覚えがあった。
更に見つめると、それは錯覚などではない、確固たる「見覚え」だ。
つまり俺の記憶の中、人生の経験の中でそれかそれに近いものを見た事があるという事だ。
しかも……感覚的にはそう昔の事ではない。
なんだろうか、どこで見たのだろうか。
俺はその力を見あげたまま、自分の記憶を探る。
いまにも思い出せそうだ。
いわゆる「のど元まで出かかっている」見たいな状態になった。
なにかきっかけがあれば一気に思い出せる、そんな確信があった。
だから考えた、めちゃくちゃ集中して考えた。
集中して考えた結果、魔力の絞り出しを怠ってしまって、その力が見えなくなった。
「おっといけない――むっ」
まだみていなきゃ……そう思って魔力を搾り出そうとしたが、ビクッとなってとまった。
引っかかった、いやはっとした。
この光景だ。
見えると見えないの境目にある光景。
この光景を俺は思い出そうとしている。
「あっ……それか!」
俺はハッとして、パッと体を起こした。
『わかったのか父マテオよ』
「うん、たぶん」
『おお、さすが偉大なる父マテオ』
「ありがとう。ねえエヴァ、もうひとつ協力してくれない?」
『なんなりと』
「ありがとう。エヴァは魔力を何らかの形で――物質として具現化させることが出来る?」
『ふむ………………このようなものでよいのか?』
エヴァはそういい、しばらく黙ったあと、顔の前に力を集中させた。
魔力が集中――凝縮した結果、宝石――いや真珠のような小さなたまになった。
空中に浮かんでいる魔力で作った、小さな玉。
エヴァはそれを器用に俺に渡した。
『これでよいのか? 父マテオよ』
「うん……これを、あっ、ちょっとまって」
俺は微苦笑した。
こっちの魔力が戻りきっていない。
俺は水間ワープをつかった。
エヴァより下には雨雲がある。
今日も昼の太陽が沈まないだろうから、あらかじめ用意してあった濃い雨雲がある。
雨雲の中は水がたっぷりだから、俺は雨雲に飛び込むようにして、水間ワープをつかった。
海の中に飛んで、ほとんど空っぽの神ボディからマテオボディに戻る。
そして水間ワープで空の上にもどった。
「うわっ! ひっぱってエヴァ!」
エヴァに助けを求めた。
水間ワープで戻ってこれるまではよかったけど、戻った先は雨雲の上、立てない場所だ。
だから慌ててエヴァに助けを求めた。
エヴァは急降下して、背中で俺をキャッチして、またもとの高さにもどった。
「ふう、ありがとう、エヴァ」
『造作もないことだ』
「ちょっと焦っちゃった……多分あってると思うから」
『ふむ。父マテオはそれをどうするのか?』
「こうするんだ」
俺はそういい、エヴァの「玉」を両手で包み込むように持った。
そして、力を込める。
エヴァの玉に力を込める。
めちゃくちゃに魔力を込めると――玉は「溶けた」。
溶けて、見えなくなった。
俺は更に魔力をそそいで、「ゼロ」の状態にした。
「ああ……よかった、合ってた」
『どういうことだ父マテオよ』
「うん、あのね」
俺は微笑みながら、答えた。
「あれってたぶん、『魔力をオーバードライブした』ものなんだよ」
魔力ゼロの状態で空を見あげながら、エヴァに俺がたどりついた答えを説明した。。




