61.月の再生
俺達は家の外にでた。
長は翼を羽ばたかせて、ふわりと飛び上がった。
「あ、あの!」
俺もそれに倣って跳ぼうとしたら、カルラが声をかけてきた。
目を向けると、彼女がものすごく不安そうにしているのが見えた。
そのまわりには翼を生やした月の住民がいる。
カルラはそれをちらちらと気にしてて、若干怯えている様子だ。
「大丈夫、一緒に行こう」
「――っ、はい!」
「じゃあ僕につかまって」
手をのばす。
カルラが手をつかむと、彼女を引き寄せて腰に手を回した。
そして、俺も六枚の翼を羽ばたかせて、ふわりと飛び上がる。
「おまたせ」
「では、こちらへ」
長はそう言って、俺達が来た方角とは反対側に向かって飛びだした。
俺はカルラを抱き寄せたまま、長の後についていく。
徐々に高度と速度をあげて、目的地に向かって飛んでいく。
高度を上げると、あることが分かった。
地上にいたときはただの荒野だと思っていたのだが、この高度から見下ろすと、広範囲にわたって地表が凸凹しているのがわかった。
「寂しい風景だね」
「かつての厄災の名残です」
「その爪痕が今でも残ってるって事なんだ」
「はい。かつてはこっちも、緑豊かな大地が広がっておりました」
「そうなんだ……」
今の光景からじゃ想像もつかなかったが、不毛の大地からは「破壊された跡」というのがはっきりと見て取れたから、きっと長のいうようにかつては緑豊かだったんだろうな、と思った。
しばらくまっすぐに飛んでいき、俺達がやってきた青い大地が地平線の向こうに隠れて見えなくなった。
そして、月の裏側に回ったくらいの距離を飛んだ先に――あった。
あたりが薄暗い中、そこだけが淡く光を放っている。
間違いなく目的地だ。
そこに、長に続いて着地する。
見あげたそこには巨大なクリスタルがあった。
淡い光を放っているクリスタルの中には、一人の老人の姿があった。
六枚の翼を背中に持ち、まるで彫像の様な老人。
「……そっかぁ」
見た瞬間、何となくわかってしまった。
はじめて見るはずなのに、心の底から懐かしさと安らかさが沸き上がった。
「これが、あなた様が残していった半身でございます」
「うん、分かる」
「そうなんですか神様」
「うん。この体――海神の体と反応している」
今までで初めて覚えた感覚だ。
なのに、それが二つの肉体の共鳴だとはっきり分かる。
俺は翼を羽ばたかせて飛び上がった。
飛び上がって、クリスタルにそっと触れる。
瞬間、光が更に増した。
それまでは淡く穏やかな光だったのが、急に氾濫し出したかのように、光の奔流がクリスタルの内部からあふれだした。
その光に当てられたか、クリスタルが「溶けた」。
溶けて、光になってまわりに飛び散った。
光の中で、俺はもうひとつの肉体と対面する。
まるで「記憶」を思い起こすかの如く、手をさしだして、老人の肉体の胸に触れた。
光が更に増した。
まるで爆発したかのように増大する。
「神様!?」
地上からカルラの叫び声が聞こえた。
驚きと、俺の安否を案じている様な声だ。
ドン!
何かが体の中に入ってきた。
形のないもの、しかしものすごく強いもの。
それが、体に押し入ってきた。
力が体の隅々まで行き渡る。
指の先端までもがパンパンとなってしまうほどの力。
しばらくして、それが収まっていく。
大量に何かを食べた後、一時的に腹が膨らんで苦しくなるが、消化するとともに収まっていく。
それと同じように、体が破裂しそうな位の力が入ってきたが、それが徐々に体の元の力を融合していった。
目の前からはクリスタルと老人の肉体が消えた。
それらが全て俺に――この海神の肉体と同化した。
「感じる……」
体の中から感じる。
白と黒の、二種類の力があることを。
今までは黒の魔力しかなかったのが、白の魔力までもが体の中にあるようになった。
変換しなくても体の中に存在する二種類の魔力、俺は早速、その魔力を使って魔法をつかってみようとした。
「わああ……」
「おおっ!!」
地上から、カルラと長の感嘆する声が聞こえてきた。
二人がそうしたのは、俺の変貌を見たせいだ。
自前の黒と白の魔力を使って魔法を行使しようとした瞬間、全身から黄金色のオーラがあふれ出した。
それだけじゃなく、髪の毛まで黄金色に輝きだしたのだ。
カルラは呆然と俺を見あげてきたが、長はその場で跪いて俺に平伏した。
「……紡げ」
これまた、「記憶」を思い出すかの如く、魔法の術式が頭に浮かび上がってきた。
俺はその魔法をつかった。
すると、足元から魔法陣が広がっていく。
それに一呼吸ほど遅れて、緑も足元から広がっていく。
どこまでも広がる荒野が緑に染まり、豊かな大地が戻り始めていた。
そして――見える。
緑が広がっていく大地の一角に、黄金色に輝くスポットがあることに。
「約束の地」
あれこそが、本当の約束の地なんだと。
融合を果たした肉体によみがえった記憶が、俺にそう教えていた。
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