58.約束の地
「えとえと……あの……」
女は三十代の半ばから後半といったところか。
実年齢に似つかわしくなく、入室直後から慌てふためいているのが印象的だ。
「こちらが大聖女様であられる」
「あ、ああっ! お、おおおおお目にかかれて――」
女はものすごく慌てて、ヘカテーに平伏した。
片やおそらくは一般信徒、そして片や神の代行者たる大聖女。
そりゃこうなるよなあ、と納得する俺だった。
ちなみに俺はマテオボディだから、特に見られることもなにか言われることもなかった。
「楽になさい。あなたに聞きたいことがあるの。まず、あなたが写した本を読んだわ、とても素晴らしかったわよ。神への信心がものすごく伝わってきたわ」
「――っ! こ、こ、光栄です!!」
大聖女直々に信心の深さを褒められて、彼女はものすごく感激した。
「えっと……お名前は?」
「カルラと申します」
「カルラね。神へ思うことを聞きたいの」
「神様に、ですか?」
「ええ」
ヘカテーはちらっとこっちをみた。
俺はにこりと微笑み返し、「全部任せる」と目で伝えた。
齢300歳を超える大聖女。
方向性がちゃんと伝わっているのだから、俺が下手に口を出すよりもヘカテーに一任した方がいいと思った。
ヘカテーは俺にだけ分かる程度に小さく頷いて、更にカルラに聞いた。
「人はそれぞれの人生、それぞれの物語を持つ。神にそれほどの信心を持つのなら、間違いなく他の人間とは違う人生、ちがう物語を持つ。わたくしに聞かせて? あなたと神の物語を」
「は、はい!」
ヘカテーの言葉を更なる肯定ととらえたカルラ。実際肯定なんだろうなとは俺も思った。
そうとらえたカルラは、更に感激した様子で語り出す。
カルラが話す「神との出会い」は目新しいものじゃなかった。
人生のどん底、失意の底に落ちていた時に、ルイザン教=神と出会い、それによって心を救われたと言う話。
美しく、感動的な話ではあるんだけど、ごまんとある話――でもあったりする。
それを、俺とヘカテーは集中して聞いていた。
ありきたりな話だが、彼女の信心は本物だ。
根拠は俺が今見えている、彼女の色。
圧倒的に光り輝く黄金色。
それがある限りカルラは他の信徒達とは違う、その話は聞く価値があると俺もヘカテーも思っている。
「それで、神様は私に言ったんです。始まりの地で待つ、共に二つ目の希望を手にしようって」
「神がおっしゃった? それはどこで?」
与太話に聞こえるものをしかし、ヘカテーは否定することなく聞き返した。
「その……えっと……」
が、カルラが言いよどんでしまった。
もじもじして、ばつが悪そうな感じで目を背けてしまう。
「話して、神との邂逅は、例えどれほど荒唐無稽であっても、神がなす事は総べて正しく、荒唐無稽だと思う我々人間の常識の方が間違っているのですから」
「あっ……」
カルラはハッとした。
俺は「上手いな」と思いつつも、ヘカテーがもしかしたら本気でそう思っているのかもしれないともおもった。
ルイザン教の教義は一事が万事そうで、神は間違えない、神の行いがおかしい訳ではなく、人間がおかしいのだ。
それをおそらく、カルラもよく知っている、ずっと聞かされて来たのだろう。
だからヘカテーが言うと、カルラはすぐに納得した。
「その、夢の中、です」
「夢の中」
「はい。何度も夢にでてきました。神様が。そして私に約束の地で待つって言ってくれたんです」
「そうでしたか。その約束の地がどこなのかは分かりますか?」
「すみません……あっでも、仰られた場所なら」
「言われた場所? 夢の中ではないのですか?」
「夢の中なんですけど、毎回同じ場所なんです! どこかの橋の下だと思うんですあれは」
「橋の下」
「あっ……」
俺は思わず声を上げた。
するとヘカテーもカルラも、ヘカテーの部下たちも。
全員が一斉にこっちをむいた。
「どうかしたのですか?」
カルラの手前か、ヘカテーは恭しさを抑えた口調で聞いてきた。
「橋の下なら心当たりがあるかも」
「そうなのですか?」
「うん。ねえカルラさん、ちょっと一緒についてきてくれないかな」
「えっと……」
カルラはヘカテーをみた。
この子供はなんだ? という顔をしている。
「落ち着いたらゆっくり説明します。今は――彼に協力をしてあげてください」
「わかりました、大聖女様がそういうのなら」
「ありがとう」
俺はお礼の言葉を口にしつつ、水筒を取り出して、地面に水たまりを作った。
「カルラさん、こっちに来て」
「ええ……」
なにをされるんだろう、という顔をしつつもこっちに向かってくるカルラ。
俺は彼女の手を取って、そのまま水たまりの中に飛び込んだ。
水間ワープで飛ぶ。
飛んだ先は――橋の下。
六年前に、俺がじいさんに拾われたあの橋の下だ。
「えっ、えええええ!? こ、ここはどこ、いきなりなにがあったの?」
「それも後でゆっくり説明するよ。ねえ。ここなんじゃないの? 橋の下って」
「え? ……あっ、似てる」
「似てるんだ」
なるほど、と俺は思った。
約束の地で、橋の下。
それを聞いた俺が最初に思いついたのはここだった。
気がついたら赤ん坊の捨て子になって、橋の下にいた俺。
俺に関わっている「橋の下」ならここしかあり得ないだろうと思った。
そして、本当にここなら。
ここで何かがおきるはずだ。
俺はまわりを見回した、待った。
じいさんに拾われてから、初めてここに戻ってくる。
そこで何かがおきるのをまったが……何も起こらなかった。
「おかしいな、違うのかな」
「えっと?」
「ねえ、僕――じゃなくて、神様は他に何か言ってなかった?」
「何かって?」
「約束の地以外で」
「二つ目の希望を共に手にしよう、のこと?」
ヘカテーの時と違って、カルラは子供に話すためのフランクな口調で答えた。
「二つ目の希望……」
それってどういう意味なんだろう。
俺はあごを摘まんで、その言葉の意味を考えた。
「二つ目……二つ目……」
それを重点的につぶやきつつ、考える。
二つ目の希望という言葉に、より「何かがある」と聞かれると、間違いなく「二つ目」なんだろうと思う。
二つ目ということは、一つ目がまずあるという事だ。
一つ目の希望って何だろうかとかんがえた。
この橋の下ということは、じいさんがらみか?
それとも――
「あっ」
「今度はどうしたの?」
「……ちょっとここで待っててくれる?」
「え? うん、いいけど」
「ごめん、すぐに戻るから」
俺はそう言って、橋の下の小川に飛び込んだ。
水間ジャンプ、そのまま海底に飛ぶ。
いつものように預けていた海神ボディにレイズデッドで乗り換えて、マテオボディを預けてから、また水間ジャンプで橋の下に戻ってくる。
「きゃっ! え? あ、あなたは……?」
海神ボディで現われた俺に驚くカルラ。
これも「後で説明する」と言おうとした、その瞬間。
橋の下の地面、とある一点が光った。
そこは――。
「僕がいたところ……」
赤ん坊の俺が捨てられていたとこの地面から光が浮かび上がって、俺に取り憑いてきた。
光が大いなる力の奔流となって、体の中に流れ込んでくる。
そして――
「か、神様……神様なの!?」
カルラが言った。
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