53.第二使徒エヴァンジェリン
「神に一つ、お許しをいただきたいことがございます」
ヘカテーは祈るポーズのまま、俺を見つめてきた。
「お許しを? なに?」
「今以上に、積極的に信徒をふやしていくことをお許しください」
「うん、それはいいけど……どうして?」
「わたくし――使徒が神のお力になれるように、一般信徒もまた、何かしらの形で神のお力になれるのではないか、と愚考した次第でございます」
「なるほど」
俺は頷き、考える。
今の所その兆候とかはないけど、今後そうなっていく可能性はかなり大きい。
それを考える、むしろ――。
「ありがとう、むしろぼくの方から頼むよ」
「もったいないお言葉。粉骨砕身し神の一助にならんことを誓います」
「そんなにかしこまらなくていいよ。もうちょっと砕けてくれるとうれしいな」
「いえ、さすがにそれは――」
「最初にあったときは優しいおばあちゃんだって思ってたから、そこまで謙られるとちょっと困るかな」
「やさしい……おばあちゃん……」
ヘカテーは唖然とした。
そんなことを言われるとはまったく思ってもいなかったって顔だ。
「あっ、ごめんなさい。もしかして気を悪くした?」
その可能性は充分にあるぞ、と俺はちょっとだけ慌てた。
どんな見た目だろうと、女性は女性だ。
そして、ものの本には「精神は肉体と連動する」って書かれてる。
若返ったヘカテーが、心まで若返って「女」が復活したら、おばあちゃん呼ばわりはまずいかもしれない。
だから俺は謝った――のだが。
「い、いいえ。そんなことはありません」
「そうなの?」
「はい……おばあちゃん……おばあちゃん、ですか?」
「どうしたの?」
「孫という存在ができるとは思っていませんでしたので、よく分かりません」
「孫、いないんだ?」
「この身ごと人生を神に捧げました、故の大聖女でございました。ですので……」
「……ああ」
言わんとする事が分かった。
修道女とかは生涯にわたって純潔を守り通すとかっていうしな。
大聖女ともなればなおさら、ということか。
それで困惑しているヘカテー。
困惑しているが、どこか期待しているようにも見える。
何か興味のある事を前に、やりたいけどやり方が分からない、そんな感じだ。
俺は少し考えて。
「こんど、おじい様を紹介するよ」
「おじい様……ローレンス公爵のことでございますか」
「うん、おじい様はすごく『おじいちゃん』だから、『おばあちゃん』のやり方を教えてくれるんじゃないかな」
「そうでしたか……神の御心に感謝いたします」
ヘカテーは再び祈りポーズで、目を閉じて軽く頭をさげた。
神への感謝はこのポーズで、って固まったらしい。
ふと、ガタン――ガタン、って音がした。
音の方を向くと、ちびドラゴン姿のエヴァが窓から入ってこようとしている。
体で器用に窓を上にスライドして開けても、入ろうとしたときに窓が落ちて元に戻ってしまう。
それを繰り返してうまく入ってこれないエヴァ。
俺は「あはは」と微笑みながら、エヴァに近づき窓を開けてやった。
エヴァはささっ、と部屋に飛び込んでくる。
「どうしたの?」
「みゅっ、みゅっ」
どうやら大した用事は無いらしい。
遊んでいるところに通り掛かって、俺の姿が見えたから入ってきた。
その証拠に、エヴァはそのまま、子犬のように俺に体をおしつけ、スリスリしてきた。
相変わらず愛くるしいなエヴァは……ん、エヴァは?
「エヴァ……ンジェリン」
その名前を、舌の上に転がすようにつぶやいた。
「ヘカテー」
「なんでしょうか?」
「使徒って、人間だけ? ヘカテーが昨日調べた中には人間しかいなかったけど、それ以前にもってる知識の中に人間以外はいる?」
「そうですね……」
ヘカテーは思案顔をした。
「……いなかった、かと」
「いないんだ……」
「いきなりどうしたのですか……あっ、レッドドラゴンの仔……」
「うん」
俺達は同時にエヴァを見た。
レッドドラゴンの仔、俺を「父」と呼び、俺が名前をつけたエヴァンジェリン。
名前をつけた、という所はヘカテーと同じ。
「そういうことでしたか。……私見ですがよろしいでしょうか」
「うん」
「前例は寡聞にして存じ上げませんが、神であれば不可能ではない、と考えます」
「そうなの?」
「はい」
「じゃあ……どうしよう」
「もう一度名前を付け直してみてはいかがでしょうか」
「別の名前にするって事?」
「いいえ。信徒達の中には、父母が名前をつけた後、その名前を司祭に承認してもらう、という形をとるものたちがございます」
「承認」
「大変失礼ですが、人間・マテオがつけた名前を、神が追認する、という形を取ってみてはどうでしょうか。レッドドラゴンにエヴァンジェリン――わたくしと同じように、その名前には神から頂いた意味がおありですから」
「なるほど、そうだね」
そこは完全にヘカテーの言うとおりだ。
エヴァンジェリンというのは、歴史上もっとも有名なレッドドラゴンの名前。
そのレッドドラゴンと同じように立派になってほしいと思ってつけた。
いわばエヴァンジェリン二世とか、ジュニアとか、そういう意味だ。
俺自身呼び慣れた事もあって、エヴァンジェリンの名前は、できればそのままがいい。
「わかった、じゃあやってみるよ」
「はい」
「エヴァ」
俺はエヴァの名を呼んだ。
エヴァはスリスリするのを辞めて、俺を見あげた。
可愛らしく、つぶらな瞳を見つめ返しながら、俺は「再びエヴァンジェリンと名付ける」と思いながら、口を開く――。
「――」
声が出なかった。
何かが喉でつっかえて、声が出ない。
「さっきと一緒だ……あっ、こっちは声が出る」
もう一度名前をつけようと口を開く。
やっぱり、その時だけ声が出ない。
ヘカテーのときと同じだ。
名前をつけようとする時だけなんかの「抵抗」がある。
ヘカテーの時は力づくで突破した。
だから今回もそうしようとした。
「ぐぐぐぐぐ……」
が、できなかった。
ヘカテーの時以上の抵抗を感じた。
例えるのなら、倍は分厚くなってる壁をぶち壊そうとしている感じだ。
そしてその壁は、俺の力じゃ壊せそうにない。
「ごめん、二人ともチョット待ってて」
俺はそう言って、水間ワープで海底に飛んだ。
「海神様!」
「お疲れ様、体使うよ」
「うん!」
見張りの人魚をねぎらって、レイズデッドで海神ボディに乗り換えて、再び水間ワープで屋敷にもどる。
「みゅー」
「そのお姿……あなたが神ですか」
「うん、こっちの姿は初めてかな」
「はい。人相に関する報告を受けていますが、実際にあうのは」
「そうなんだ、じゃあこっちの姿も覚えていってね」
「はい」
「それじゃ――エヴァ」
「みゅ」
俺は再びエヴァと向き合った。
名前をもう一度つけると思った。
すると、マテオボディだったときに分厚く感じられた壁も、飴細工のガラスくらいうすっぺらいものに感じられた。
「君の名はエヴァンジェリンだよ」
言葉がすんなり出てきた。
そして、エヴァの体が光り出す。
ヘカテーの時と同じ、体が光って、見た目が変わる。
光の中から現われたのは――十代半ばの美少女だった。
一見人間のように見えるが、頭には角、背中に羽が生えている。
人間と竜の合いの子――竜人って感じの見た目だ。
「わあぁ」
「どうかなエヴァ」
「うん! なんかすごくきもちーよパパ」
「そうなんだ」
「さすが神でございます。レッドドラゴンさえも使徒とされてしまうとは」
ヘカテーが尊敬そのものの目をして、俺を見つめていた。
「エヴァはずっとその姿? それとも僕がまた力を与えれば姿を変えられる?」
「ううん」
エヴァは首を振って、目を閉じると――ちびドラゴンに変身した。
「みゅー!」
「おー、自力で変えられるんだ」
「みゅみゅっ――もうひとつのドラゴンの格好は屋敷壊すからやらないでおくね」
ちびドラゴンからまた自力で戻って、人間の姿になる。
「ってことは、三つの形態を自由自在になれるって事か」
「うん! パパのおかげ」
「そうか」
頷く俺。
こうして、ヘカテーに続いて、エヴァも俺の使徒となった。
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