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51.本当に神だった!?

 数日後、海での避暑が終わって、俺は皇帝と一緒に都に戻った。


 行きと同じように、帰りも皇帝と同じ神輿に乗って、見世物だか君臨してるんだかよく分からない大行列だ。

 エヴァとかの空路でもなく、この夏休みの間に身につけた水間ワープでもない。


 人間として当たり前の、ゆるゆるとして陸路での帰還だ。


 ちなみにマテオボディで乗っている。

 神輿は人目につきすぎる――権力誇示の意味合いもあってあえて見せている――から、反乱を止めたときにあっちこっちで顔を出した海神ボディはもしかしたら騒ぎになると思って、そっちじゃなくて普通のマテオボディで乗った。


 海神ボディは海の底に置いてきたが、水間ワープでいつでも取りに行けるから問題ない。


「この中に」

「え?」

「何割、マテオの信者がいるのだろうな」


 皇帝はいきなり、面白がっているような口調でそんなことを言いだした。


「僕の信者? あっ、ルイザン教のって意味だね」


 いきなり何を言い出すのかと戸惑ったが、一呼吸あけた後それを理解した。


「うむ。相当の数だろうな」

「五分の一じゃないかな、普通に。僕が反乱を止めたときも、正規軍の方にいたのもそれくらいだったし」

「今となってその程度では済まないのかもしれんぞ」

「え? どういうことなの陛下」


 聞き返すと、皇帝はにやりと口角を持ち上げた。


「あの一件以降、ルイザン教の動きを密に探らせているのだが」


 密に……まあ、そりゃそうか。

 反乱を起こしかけたんだから――いや実際には起きてるけど、俺が止めたし被害は微小だったから、頼み込んでなかったことにしてもらった。


 公式記録ではそうなってても、皇帝の立場からすれば監視を続ける必要があるんだろうな。


「ここ最近、信徒の数が急増しているらしい」

「え?」

「入信、洗礼。そういったものの増加数は通常の十倍以上。実際にマテオの奇跡を目撃している者達が戻っていた村などに限れば百倍のところもある」

「そんなに!?」

「実際に奇跡を目撃したのだ、当然であろう。マテオだって、それを見られていると分かっているから、その姿にもどったのであろうに」

「そ、それはそうだけど」


 俺は複雑な表情を浮かべてしまった。


「このペースで増加していけば、じきに5分の1ではすまなくなるだろうな」

「そ、そうかもね」


 俺はまわりを見回した。

 皇帝の神輿を一目見るために集まってきた沿道の民衆の目は、行きと何ら変わらないもの。

 この目がマテオボディじゃなく、海神ボディで来てたらどうなってただろうな、と思った。

 怖いもの見たさな気分でやってみたいという気もする。


「……ふっ」

「今度はどうしたの、陛下」

「あれを見ろ」


 皇帝はいたずらっ子のような顔をして、斜め前を指さした。


 皇帝のさした先には、なんと。


「あれは……僕?」


 俺の――海神の像が造られていた。


「既にいろいろと効果が出ているようだな。さすがだマテオ」

「あう……」


     ☆


「ふぅ……」


 途中で皇帝とわかれて、俺は自分の屋敷に戻ってきた。

 リフレッシュのために海に行ったのだが、人魚達の事とかルイザン教の事とか、色々ありすぎて、むしろより疲れて帰ってきた感じだ。


 屋敷に戻ってきたのはまだ日が高い昼過ぎなんだが、今日はもうこのまま休んでしまおうかと思った。


「みゅー?」

「エヴァか、どうした?」

「みゅーみゅー」

「ごめんそっちだとちょっと理解するのに頭使う、普通の言葉で――って無理か」


 頭が回ってなかった。

 エヴァが普通の言葉を喋るのには、レッドドラゴンの本来の姿に戻す必要があることがすっかり頭から抜け落ちていた。


 気を取り直して、エヴァが今いった事を反芻して、意味を理解する。


「うん、遊びに行っていいよ。あまり遅くならないようにね」

「みゅっ!」


 エヴァは嬉しそうに部屋から飛び出していった。


 入れ替わりに、メイドが一人入ってきた。


「おくつろぎの所すみませんご主人様」

「ううん、なにか用?」

「お客様がお見えですが、如何いたしましょう」

「……ああ」


 やっぱり頭があまり働いてなかった。

 屋敷の中で、パーラーメイドの用件なんて一つくらいしか無いもんだ。


「誰なの? おじい様?」

「ニコ・ヴァルナと名乗っておられます」

「ニコさんか。他に誰かいる?」

「お一人です。従者は大勢いましたが、敷地の外で待ってます」

「大勢?」


 俺は立ち上がって、窓から外を見た。

 すると、結構長い屋敷の塀に、ずらりと並ぶ長い行列の上部分がみえた。


 馬車の屋根やら何やらで、数十メートルにも及ぶ行列だ。


「なんだろうねえ……うん、会うよ」

「かしこまりました」


 俺は伸びをして、頭をシャキッとさせる。

 そうしてから自分の部屋を出て、応接間にむかった。


 応接間に入ると、立ったまま俺を待っているニコの姿がみえた。


 その姿にパーラーメイドは不思議そうな顔をした。


 俺の姿を見るなり、ニコはぱっと頭を下げようとした。


「この度は――」

「ちょっとまって、それはいいから」


 俺はニコを止めた。

 ちらっとパーラーメイドを見て、ニコにいう。


「あまり大事にはしたくないんだ」

「す、すみませんでした」

「座ってよ」


 ニコにそう促して、メイドには微笑みながら合図をして、応接間から出て行ってもらった。


 二人っきりになったところで。


「この度は本当にありがとうございました、助かりました」


 ニコはぼかしにぼかした表現でお礼を言ってきた。

 これならただのお礼だから、大丈夫だろう。


「ううん、気にしないで。それよりも今日はどうしたの? また何かあった?」

「実はか――ゴホッゴホッ! ま、マテオさ――殿とお会いしたいという方がいまして」


 ニコは必死に言い換えながら、用件を伝えようとしていた。

 それを見てちょっとおかしかったし、かわいそうにおもった。


 ルイザン教の神官だ、神だと思った俺の言うことはもう「絶対」で、それを守ろうと必死に言葉使いを変えようとしている。


 ここで指摘するとますます混乱させかねないから、スルーして話だけ進めさせてもらった。


「僕に会いたいって、誰?」

「大聖女様です」

「大聖女?」


 何者なんだろう。

 名前からして、かなり偉いっぽい感じがするけど。


「恐れ多くも」

「うん?」

「地上における神の代行者――と、いうことになっております」

「え? じゃあルイザン教のトップみたいな人?」

「はい、トップでございます」

「わわ」


 俺は驚いた。

 さすがにこれは驚く。


 帝国人口の5分の1、かつ状況次第では超団結して命すら投げ出すルイザン教のトップ。


 ベクトルは違うけど、皇帝に負けず劣らずの大物だ。


 それが俺に会いたいと言ってきている。


「あうのはいいけど……いつなの?」

「既に屋敷の外においでになってます」

「へえ……ああ」


 ああ、そういうことか。

 だから屋敷の外にあんな長い行列ができてるんだ。


 頭の何割かは働いてないから、察するまでに数秒かかってしまった。


 これはもう、会うしか無いだろうな。

 向こうの立場からしたら、降臨した神に会わずにはいられないんだろう。


 そうなると、この場で断っても意味ないなと思った。


「わかった、会うよ」

「感謝致します!」


 ニコはそう言って、ぱっと立ち上がって、外に出た。

 俺は声をあげてパーラーメイドを呼んで、ニコが連れてくる人間を通すように命じた。


 しばらくして、ニコにつきそわれて、車椅子に乗った老人が現われた。


 80歳? 90歳?

 って位の老人で、たぶん女性――老婆だろう。

 老婆は車椅子に乗せられて、十人近い神官服を着た従者に囲まれて、部屋に入ってきた。


 部屋に入るなり、老婆は頷いて合図した。

 すると、神官服を着た者達が老婆を起こした。


 車椅子から起こすと、老婆は従者達の手を借りて――俺に平伏した!


「ご尊顔を拝し、光栄至極に存じます」

「あわわ! か、顔をあげて、起きておばあちゃん! ニコさん!」

「も、申し訳ない。大聖女様、この方は今それを望まないとのことです」


 まだ案内したメイドという第三者がいたから、ニコはやはりぼかしにぼかした。


 俺は手で合図して、メイドに出て行ってもらった。


 老婆は起こしてもらった。

 申し訳なさそうな顔をした。


「申し訳ありません。ご意志を知らず勝手な真似を致しました」

「ううん、大丈夫だよ。それよりも座って、じゃないとお話もできないから」

「かしこまりました」


 俺の言葉に何一つ抗弁する事なく、老婆は再び、車椅子に座り直した。


 そして、俺を見つめながら。


「きょ、今日はどうして?」

「神のご降臨を知って、生きている間にどうしても謁見をしたかったのです」

「そ、そうなんだ。ごめんなさい、こっちの体で」

「神が気に病まれることはございません」


 老婆は静かに首を振った。


「そのお姿でいることも深謀遠慮あってのことと理解しております」

「えっと、うん……」


 無いけどね、深謀遠慮とやらは。


 割と浅い考え程度なんだけど、いわんとこ。


「でもあまり無茶しないでねおばあちゃん。もう結構な歳なんだよね?」

「今年で、317歳となります」

「えええええ!? そ、そんなに」

「大聖女様は長生きなのです。私が生まれた頃には既にこのようなお姿でした」

「おー……」


 俺は改めて大聖女をみた。

 ものすごいおばあさんだと思ったけど、300歳越えとか……予想の遙か上をいった。


「この度は、一部のものの暴走で、神の手を煩わせてしまいました。許されないことなのはわかります、なんなりと処分をお申し付けください」

「え? いいよいいよ、そんなの。もうすんだことだから」


 処分なんて考えてもいない。そんなことをいきなり言われてむしろあせった。


「寛大なお心、感謝致します。では、神罰ではなく、教義にのっとって処罰をさせていただきます」

「え? ああうん」


 俺はうなずいた。

 それは止める事じゃない。


 信徒を扇動して、あのまま行けば敵味方あわせて大量の人間が死んでたんだ。

 相応の処罰は受けるべきだ。


 大聖女はそばにいる従者にいった。


「大聖女の名の下に、首謀者らを破門とする」

「はっ」


 言葉を受けた従者が駆け出して、外にでていった。

 伝達とかしに行くんだろう。


 破門か……。

 ある意味一番きっつい処罰だろうな。


 昔の歴史で、後宮でミスを犯した妃の一番重い刑が「追放」だと本で読んだことがある。

 通常、死刑が一番重いのだが、その時代は後宮の妃がすべて、各地から集められた奴隷に近い身分の女達だ。


 ほとんどの場合、実家が寒村とか貧乏な出だ。

 すると、後宮で贅沢な暮らしを取り上げられて、故郷の寒村に追い返されるのが一番キツい処罰なんだという。


 俺は転生者で、貴族の養子だからその感覚がよく分かる。


 世の中には、死刑よりもきっつい処罰があるんだなあ、とその時おもった。


 これもそうなんだろう。


 ふと、疑問が一つ頭に浮かんだ。


「ねえ、おばあちゃん」

「なんでしょう」

「おばあちゃんの名前は? 今、大聖女の名においてっていったけど、こういう時貴族の場合、肩書きの後ろに名乗るのが一般的だから」

「わたくしに名前はございません」

「えええ? どうして?」

「大聖女としてうまれたため、世俗の名前を持ちません」

「それは……どうなんだろうな」


 ガタン、と、窓の外で物音がした。

 エヴァが戻ってきて、窓にすがりついてこっちをみたが、なんか察したのかどこかに飛んでいった。


 俺がつけたものなんだけど、レッドドラゴンのエヴァでさえ名前があるんだ。


「名前がないのはちょっと寂しいな」

「で、では」


 ニコがまるで「勇気を振り絞って」って感じで俺に言ってきた。


「神にお名前を賜れれば」

「え? 僕がつけるって事?」

「ニコっ!」


 やめなさい無礼よ、って顔でニコを叱責する大聖女。


「大聖女様は教義によりお名前を持ちませんが、神がつけるのなら誰も文句は言えませんし、この上ない栄誉となります」

「なるほど」


 俺は少し考えた。


「うん、じゃあつけよう」


 本で読んだいろんな知識から探す。

 大聖女に相応しい名前を。


 すこしかんがえて、思いついた。


 口を開いて、それを言う――が。


「……」


 何故か声が出なかった。

 なんだ? これは。

 なんで声が出ない。

 まるで何かに押さえつけられているように、声が出ない。


 それが魔力のような目に見えない力だと分かった。

 俺は――力づくでそれを突破した。


 力でかちわったあと、パリーン! とガラスが割れる音がして、直後に声が出るようになった。

 頭の隅っこでなにかがまずいとおもいつつも、頭が完全に働かないので、そのまま言ってしまった。


「ヘカテー……でどうかな。神話よりも昔から生きてるとされる魔女の名前。300年も生きてるおばあちゃんにぴったりだと思う」


 そう言った瞬間、大聖女が何らかの反応を示すよりも先に。


 その体から光が放たれた。

 あふれる光が大聖女を包み込む。


「おばあちゃん!?」

「大聖女様!!」


 驚く俺達。

 数秒後、光が収まった。


 そこにいたのは――幼い女の子だった。

 六歳のマテオよりちょっと年上な、10歳前後の幼い女の子。


「お、おばあちゃん?」

「これは……もしかして!? ガイル、刃物を」

「え?」

「早く!」


 従者の一人が驚き戸惑ったが、女の子は一喝した。

 威厳のある一喝に、従者――ガイルは慌ててナイフのようなものを取り出し、彼女にわたした。


 女の子はそれを受け取って、なんと自分の手の平をきった!


「なにをするの!? あっ……」


 驚いた直後、更に大きく驚いた俺。


 なんと、少女の手の平から流れ出したのは青い血だった。


「使徒の尊き青い血……」


 つぶやく少女。

 彼女は驚き……それから納得した。


 そして、顔をあげて俺を見つめるなり。


「ええっ!」


 いきなり平伏してきた。


「神の使徒にしていただけたこと、身に余る栄誉でございます」

「え? 使徒?」

「まさか! 大聖女様! 使徒にして頂けたのですか?」


 驚愕するニコ。

 少女――大聖女――ヘカテーは、手の平をニコに見せた。

 そこには、青い血がべったりついている。


「この血が何よりの証拠よ」

「そ、そうですね」


 動揺から戻って来れない様子のニコ。


 使徒。

 神の力の一部を受け継ぎ、人間を越えた存在とされる。

 特徴は、人間では決してあり得ない青い鮮血。

 別名使徒の尊き青い血。


 ……え? それって。

 俺は、本当に彼らルイザン教の神だったって事?

「面白い!」

「続きが気になる!」

「主人公よくやった!」


と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちでまったく構いません!

何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ありそうであんまりない神様降臨物語。 こういう無双好きです。
[良い点] ルイザンの反乱が多い理由発見したのだぜ! 皇帝の神輿。  まあ、マテ夫が居るから神輿に乗ってるのかもね。 行きは馬車だったし、往復で『同じ』なのは『一緒に乗ってる』ことさ! [気になる…
[一言] なろう系で聖女って言ったら若い女とか幼女に見える人とかばかりで普通のおばあちゃんチックな人が出てきて喜んでたけど結局幼女になるのね
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