05.フリースタイル
「みゅー!」
その一方で、生まれたばかりのちびは、大喜びで俺に飛びついてきた。
またまたじゃれ合ってくるちび、俺は頭を撫でてやった。
ふと、頭の中にある考えがよぎった。
俺はちびの頭を撫でつつ、男の方を向いた。
「ねえ、一ついいかな」
「なんでございましょう」
「この子は僕の魔力を受けて成長を早めたんだよね」
「そうとしか思えません」
「だったら、もっと魔力をそそいだら成長早まるんじゃないの?」
「いえ、そう簡単な話でもありません」
「なんで?」
「多くの生物と同じように、ドラゴンもまた、親の血肉を受け継ぐのは生まれる瞬間まで、ということでございますので」
「そっか。例えがうまいね」
俺は素直にそう思った。
親の血肉を受け継ぐ、という説明の仕方をされると納得するしかなかった。
「かかか、それを瞬時に理解するマテオはやはり賢いのじゃ」
「え?」
「知能、つまり賢さに差がありすぎると会話が成り立たぬからのう。例え上のものが下のステージに降りようとも、下のステージの者がたぐる言葉そのものを理解できぬ事が多々ある」
「えっと……」
「馬鹿に話が通じない、と言う意味じゃ」
じいさんは身も蓋もないまとめ方をした。
いや、それはそうなんだろうけど。
「でも、そっか。もうちょっとちびを成長させてやれたらよかったんだけどな」
「みゅー?」
「こうやって成長させてやれればな、って意味だよ」
俺はそういいながら、ちびの頭を撫でる手で、さっきの事を思い出した。
卵の殻に触れた瞬間の感触、放った光――それらを思い出す。
すると――再び手が光り出した。
「なんじゃ?」
「問題ありません、マテオ様から放たれた魔力です。レッドドラゴンはもう卵から孵ったので、魔力は霧散するだけです」
「そうか――」
男の説明でじいさんが納得しかけた、次の瞬間。
ちびの体が急速に膨れ上がった。
それまでの子犬の様な小さくて、愛らしいフォルムが一変。
屋敷よりも巨大で、勇猛でいかにもな「ドラゴン」の姿に変わった。
「ぐおおおおおおお!!!」
うなり声ににた咆哮。
地面が揺れて、ズボンの裾がビリビリと震えた。
「な、なんじゃ!?」
「――っ!!」
驚くじいさん、驚愕して尻餅をつき、腰を抜かした男。
二人が驚く中、レッドドラゴンはゆっくりと身を屈んできた。
「マテオ!!」
じいさんが叫ぶ――が、じいさんが懸念するような事態にはならなかった。
身を屈んできたレッドドラゴンは、そっと――その巨体から考えたらものすごくそーっとな感じで、俺に頬ずりしてきた。
「おー、よしよし」
頬ずりしてきたのを、(サイズ差故に)抱きかかえるようにして撫でてやると、ものすごく喜ばれた。
嬉しそうだった。
「すごい! すごいぞマテオ!」
レッドドラゴンが俺に懐いてるのを見て、じいさんはますます興奮した。
「馬鹿な……こんなのあり得ない。聞いたこともない」
男は、ますます驚いた。
「あっ」
巨大なレッドドラゴンの姿を維持できたのは30秒程度だった。
元々のちびの姿に戻ったレッドドラゴンは、やはり俺に飛びついてきた。
三回目ともなるともう慣れたもので、俺はちびを抱き留めながら、男に聞く。
「これはどういうこと?」
「えっと……お、おそらくはやはり産まれた後なので、血肉にはならず、一時的な強化になっただけ――かと」
語尾が尻すぼみで、自信のない感じだ。
「も、申し訳ありません。はっきりとしたことが言えず」
「かかか、なんのなんの。よい、よいよい」
申し訳なさそうに謝る男と対照的に、じいさんはものすごく上機嫌になった。
「おじい様?」
「それだけ前代未聞のことだということじゃろ?」
「はい、それは間違いなく」
「であればしようがないのじゃ。マテオがすごすぎる、想像の上をいった。それだけの事じゃ」
じいさんはそういって、再び「かかか」と愉快そうに笑った。
ここに来て、じいさんは完全にいつもの調子にもどった。
孫を溺愛するじいさん、俺の全てを肯定するローレンス公爵。
という、いつも過ぎる感じに戻った。
広告の下の☆☆☆☆☆からぜひ応援をお願いします。