40.海底のお宝
「これは……?」
まわりをみた。
俺が水ワープで飛んででてきたところは湯気だっている。
まわりはタイル張りの密閉した空間だ。
「浴場か、ってことはここ陛下の」
海底宮殿からワープで地上の離宮宮殿に飛んできた俺は、意図しなかった浴場にでてきた。
女王がいう「海神」に興味があってもっと話を聞きたかったが、その前にさくっと皇帝に状況報告して、安心させなきゃと思った。
だから地上の宮殿に飛んできたのだが、水のあるところに飛ぶこの力のせいで、浴場にでたようだ。
とりあえずここからでよう――むっ!
浴場の出入り口、磨りガラスの向こうに、うっすらと人の姿がみえた。
はっきりとは見えないが、胸は結構ある。
シルエットだけで女だと一目で分かる。
皇帝の妃か!?
浴場をメイドが使わせてもらえてるとは思えない。
宮殿で、浴場を使える、その上女。
となれば皇帝の妃くらいしか考えられない。
まずい、これはまずいぞ。
さすがに皇帝の妃の裸を見てしまうと厳罰は免れない。
俺は慌てて湯船の中に飛び込んだ。
「マテオ――」
「え?」
湯船に飛びこんで、水でワープする俺。
直前に女が磨りガラスの向こうで俺の名前をつぶやいた。
その直後にも何かをつぶやいたようだが、ワープしてしまったので耳に入ったのはそこまでだ。
宮殿の湯船から飛んだ先は、避暑地の俺の家にある、キッチンの水がめだ。
この家を使っていいと言われたとき、家の中を一通り見回したから、キッチンに貯水用の水がめがある事を覚えた。
だからそこにとんだ。
そこにひとはいなかった。
俺は今し方の出来事を考えた。
皇帝の妃が俺の名前を呼んだ。
なんでだ?
……いや、深く考えないようにしよう。
皇帝の妃とは関わらない方がいい。
変な誤解を持たれてもまずいしな。
今の俺はまだ六歳児だからさほど問題が起こるとも思えないが、ちゃんと避けて通るに越したことはない。
水がめから水筒に水を汲んで、それを持ってキッチンを出て、家からも出た。
ワープは使わないで、歩きで宮殿に向かった。
万が一まだ浴場に飛んだら、今度こそ鉢合わせになってしまう。
それを避けるための歩きだ。
宮殿にやってきて、門番に取り次ぎを頼んだ。
「マテオです、陛下に謁見を申し込みます」
「マテオ様! しょ、少々お待ちを!!」
門番の一人が宮殿の中に飛び込んでいって、すぐにまた戻ってきた。
「どうぞ! 陛下がすぐにお会いになるそうです」
「わかった、ありがとうございます」
俺はそう言って、宮殿の中にはいった。
建物の中に入ると、官吏の一人がついて、俺を先導した。
先導してやってきたのは、謁見の間。
中に皇帝がいた。
「おお、マテオよ。今までどこに行っていたのだ」
玉座に座る皇帝は、俺を見てほっとしたのと喜んだのと、それがない交ぜになった様な表情をしていた。
そして、髪が少し濡れている上に、頬も上気している。
まるで湯上がりの姿だ。
って、事は。
皇帝は妃と一緒に入ってたのか。
よかった、鉢合わせにならなくて。
俺はほっとしつつ、皇帝に答えた。
「ごめんなさい陛下、ちょっと用事があったの」
「そうかそうか。いや、無事ならばなにも言うことはないのだ、余は」
「それで陛下、用事がまだ終わってないから、何日かお休みをもらっていいかな」
「ふむ? 手助けはいるか? とりあえず1000人くらい連れて行け」
「だ、大丈夫!」
いきなり1000人とか。
相変わらず皇帝の溺愛とスケールが大きい。
「自分でできることだから」
「そうか。何か手助けがいるときは遠慮無く言うのだぞマテオ」
「うん、ありがとう陛下」
俺は立ち上がって、身を翻して歩き出した。
ふと、立ち止まって皇帝を見る。
「……」
「どうしたマテオ、やはり助力が必要か」
「ううん、陛下ってやっぱり綺麗なんだねっておもっただけど」
「ーーんな!」
皇帝は驚き、上半身をわずかにのけぞらせた。
「あっ、ごめんなさい。何でも無いです」
俺は慌ててその場から逃げ出した。
なんとなく想像してしまったのだ。
美しい皇帝が、たぶんやっぱり美しい妃との入浴する光景。
それはきっと美しい光景なんだろうな、と思ってついつい口にしてしまった。
普通ならそれも皇帝への冒涜だから、俺は慌てて逃げ出した。
「また……綺麗って言ってくれた……」
最後に聞こえた皇帝のつぶやきが、奇妙だが気分を害した様子ではなかったから、ちょっとだけほっとした。
俺はそのまま謁見の間から飛び出して、宮殿からも飛び出した。
そして人目のつかないもの影で、持ってきた水筒の水を地面にぶちまけた。
その水たまりに飛び込む。
水を使ってのワープ、海底の宮殿に戻ってきた。
地上は水のあるところにしか行けないけど、海の中はそもそもが全部が水だからどこへでも行ける。
だから俺はまず、ちゃんと宮殿の外に戻ってきたのだが。
「お帰りなさいませ、海神様」
「えええ!?」
女王とサラ、そして人魚達は待っていた。
俺が一旦地上に戻るといった時とまったく同じ格好のままで同じ場所にとどまっていた。
「ま、待ってたの?」
「はい」
「そんな事しなくてもよかったのに」
「とんでもありませんわ!」
女王は声を張り上げた。
「海神様が戻られた時に誰もいなかった、なんて無礼な事はできません」
「そうだとしても」
俺は微苦笑した。
女王と王女御自らがずっと待ってる必要なんてどこにもなかったろうに。
「そ、それはいいから。海神の言い伝えをもっと教えてくれるかな。えっと、できれば中でゆっくりと」
「はい。サラ、海神様を乗せて差し上げて」
「うん! マテオ乗って」
サラが俺に背中をさしだしてきた。
「こら! そんな言葉使いはダメでしょうサラ」
「あっ、そっか」
「大丈夫だから、普通に話してくれた方が嬉しいよ」
「そう? どうするお母様」
「……海神様がそうおっしゃるのなら」
取り合えず必要以上のへりくだりは止められたかな。
俺はサラの背中に乗った。
海底に初めてやってきた時と同じかっこうだ。
宮殿の門が開いて、俺達は中に入った。
「あっ、謁見の間とかじゃなくて、リビング? みたいな所の方が話しやすいかな」
「わかりました」
女王は素直にしたがった。
謁見の間とか、今はまずい。
女王は下手したら俺を玉座に座らせてきそうだ。
そう危惧してリビングみたいなところを希望した。
結果から言って、それは全くの危惧じゃなかった。
注文通りリビングみたいなところに連れてこられたけど、おそらく普段は女王がつかっている席に俺は座らされた。
サイズが違いすぎて、女王の椅子は人間にとってキングサイズのベッドくらいはある巨大なものだった。
そこに座らされた俺。
落ち着かないが、気にしてもしょうがない。
まずは話を。
人魚達の数が減って、女王とサラ、そして数人だけになった。
「えっと、海神の話を聞かせてくれる?」
「はい」
女王は静かにうなずいた。
「海の一族に伝わる言い伝えです。数百年に一度、海の神――すなわち海神様が生まれ変わり、私達の前に降臨なさる、と。その海神様は海の全てを支配するお力をもっているとか」
「生まれ変わる……」
むむむ、って感じだ。
話を聞く前まではそんなばかな、って思ってたけど、生まれ変わりと聞いて「もしかして」っておもった。
まさに生まれ変わりって感じだ、俺は。
中身は中年なのに、気がついたら橋の下で赤ん坊に生まれ変わっていた。
本当に海神とやらに生まれ変わったのか? と思いはじめるようになった。
「それで、海神様がいらっしゃらない間少しかんがえました」
「え? なにを?」
「人間への宣告です」
「宣告?」
「古の慣例を復活させるのです。月に一度、人間に海神様への生け贄を要求します。言い伝えでは、歌声の綺麗な乙女が良いとされてますが、海神様はどのような娘がお好みでしょうか」
「生け贄!? そ、それはダメだよ」
「しかし、海神様復活を知らしめるためにも、生け贄は要求しなければ」
「いいから、それはだめ」
俺は強めに言った。
「生きてる人間に迷惑かけるのはだめ。供物とか金銀財宝とか要求するのもだめ」
「そ、そうですか?」
「どうしようお母様……」
「そうですね……」
人魚の親子は難しい顔をして考え込んだ。
海神と信じ切ってる俺に何かしたくてたまらない、って顔だ。
「生きてる人間に迷惑をかけてはダメ……海神様、では死んでいる人間であればどうでしょう」
「え? ま、まあ。死んだ人なら、いいのかな?」
何を言ってるのかよく分らないけど、とりあえず余地をのこしつつ、曖昧に頷いた。
「では、あれなどがいいのかもしれませんね」
「あれって?」
「海神様に直接見ていただいた方が早いかと思いますが、どうでしょうか」
「う、うん。わかった。どこなの?」
「サラ」
「はい、お母様」
サラは再び背中を差しだしてきた。
俺は彼女の背中にのった。
今度は女王とサラとの三人で、宮殿から一直線に外に出た。
二人の人魚とともに、海中を泳ぐ。
エヴァにのって空を飛ぶのとは、また違った爽快感があった。
しばらくして船が見えてきた。
海の底に沈んでいる船――沈没船だ。
「ここです」
「ここは?」
「人間の乗っていた船です。嵐に飲まれて沈んだものです」
「なるほど」
俺は軽く手を合わせた。
ひとまずとまった人魚の母娘は、俺を連れたまま船の中に入る。
甲板の上や窓越しに見える部屋の中には、そこかしこに白骨化した死体が見える。
「結構時間が経ってるんだね、これが沈んだの」
「えっと……あたしが二百年くらい前にみつけたやつだったかな、これは」
「そんなに……ん? これはって?」
「他にもたくさんあるから。人間の船はもろいから、嵐にあったらすぐに沈んじゃうからあっちこっちにあるんだ」
「そっか」
そりゃそうだ。
嵐で船が沈んだ話はちょくちょくきくもんな。
そりゃここ以外にもたくさんあるんだろう。
女王の案内で、船の奥にやってきた。
奥まった所にある部屋を開けると――中は宝物庫だった。
そこには金銀財宝が山のように積み上げられている。
「これは……」
「人間の財宝です。この船の人間のものですね」
「そっか」
「こういうのは……どうでしょう海神様。海神様に献上しても大丈夫でしょうか」
「あー……そっか」
そういう話だったっけ。
俺は少し考えた。
沈没船で、もはや持ち主のいない財宝。
それなら、もらっても問題はなさそうだ。
「うん、ありがとう。ありがたく受け取るよ」
「……ほっ」
「やった」
女王はほっとして、サラは喜んだ。
「サラ、他の沈没船からも財宝を引き上げるように、みんなに言ってきて」
「わかった」
女王が命じるのは止めなかった。
俺のために何かができる、という女王達は実に嬉しそうだったから、止めるのは野暮かなって思った。
これで、世界中の沈没船、その財宝は俺のものになるみたいだ。
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと溺愛させろ!」
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