36.愛娘の進化
数日後、海の離宮。
避暑地であっても、時には謁見の必要があるために建てられた宮殿の中、謁見の間。
そこで、俺への論功行賞が行われていた。
皇帝がいて、避暑地までついてきた諸大臣らがいて、俺とエヴァがいる。
「今回の反乱をわずか三日で鎮圧ができたのは、ひとえにマテオ卿の功績によるものだと余は思うが、異論のあるものは」
玉座に座る皇帝はそういい、諸大臣らを睥睨した。
誰一人として、異論を唱えるものはいなかった。
そんな中、ベルンハルトが一歩進み出て、皇帝の問いかけに返答した。
「この度のロックウェル殿の働きは、誰もが理解できるものだが、他の誰も実現は出来ないもの。唯一無二の功績を挙げられたことを称えて、戦功第一と数えるべきかと」
「うむ、よくぞいったベルンハルト。余もそう考える」
ベルンハルトの言葉を、皇帝が追認した。
すると、同席した他の大臣らが次々と俺を称えだした。
「さすが竜の騎士ですな」
「戦いの常識が変わりますな」
「時代まではかわりますまい、何しろロックウェル殿にしかそれができぬのだから」
皇帝とベルンハルト、実力者二人が話の方向性を決めた後に、それに乗っかって俺を称えだした場の空気。
ベルンハルト以外は全員風見鶏っぽい感じをうけた。
「さて、そうなるとどのような褒賞を与えるべきかだが……実は既に考えてある」
「どのようなものでございましょう」
ベルンハルトが聞き返した。
「現在、帝国には第一から第四軍、そして親衛軍の五つの軍があったな」
「はっ」
「そこで第六の軍、空軍を設立しようとおもう」
「くう、ぐん……?」
ベルンハルトが首をかしげた。
まわりの大臣らもざわざわし出した。
俺も不思議に思った。
くうぐんって、なんだ?
初めて聞く言葉だ。
そんな俺達の戸惑いを見て、皇帝は得意げな表情を浮かべた。
「文字通り空の軍とかいて、空軍だ。将軍は無論マテオ卿。当然だろう? マテオ卿以外空を制する者はいないのだから」
そこで一旦言葉を切って、俺の方を向く皇帝。
「どうだマテオ卿、引き受けてくれるか?」
「えっと……うん、わかった」
俺は少し考えて、引き受けることにした。
今更断るほどの事じゃないと思ったからだ。
既に俺は「竜の騎士」で、「空の王」になってる。
今更空の軍の将軍になったとしても、肩書きが増える程度の事でしかない。
だから引き受けるといった。
なの、だが――。
「恐れながら申し上げます、陛下。軍となれば、その規模は――」
「他の軍の定数に準拠する」
皇帝がいうと、謁見の間が爆発的にざわついた。
なんだ? なんだこれは。
規模になんか問題があるのか?
他の軍と同じってことなんだろう? だったらなんの問題もないんじゃないのか?
「他の軍に準拠するとおっしゃいましたが陛下、現在最少なのは親衛軍の一万名。その予算は年間にして金貨三千七百枚」
へえ。
軍ってそんなに金がかかるのか。
などと、俺は新たに得た知識をのんきに感心してたが。
「それと同程度の予算を空軍に使うとおっしゃるのでしょうか」
「え?」
「うむ、そのつもりだ」
「えええええ!?」
俺は盛大に驚いた。
俺にそんな大金を?
いやいや、俺じゃない、軍にってことだ。
俺が自由に使えるお金じゃない。
軍だから、兵士達への給料とか、普段の食事とか住む場所とか、色々経費とか。
そういうのに使うお金だ。
だから――
「空を翔ることが可能なのはロックウェル殿だけですぞ。一人にそれほどの予算を使われるおつもりですか?」
あっ……。
そうだった。
空を自由に飛べるのは俺とエヴァだけだ。
空軍を設立するといっても、他の者達を空まで連れて行けるという訳ではない。
俺に……金貨3700枚も?
しかも予算だから、それ、毎年ってことじゃないか。
予想以上にすごい話だった。
「そのような話、前代未聞です」
「何事も最初は前代未聞だ」
「しかし、いくら何でも」
「余は、安い買い物だと思っている」
「むっ」
「空を制したマテオ卿。今回の反乱を、他のどの軍がこれほどの速さで鎮圧に導けた?」
「そ、それは……」
「今後もだ。マテオ卿がいる限り、帝国に辺境なるものは存在しないと言っていい」
「む、むむむ……」
「それを鑑みれば、安い買い物だとは思わぬか?」
皇帝が次々と理由を並べて、ベルンハルトを追い込んでいく。
「そ、そうだとしても――今回の功績、そしてこれからの事を考えれば、それはあくまで通信と輸送の域。軍ではなく隊の話であるかと」
「確かにその通りだ」
「はっ、だから――」
「だが、お前はまだ勘違いしている」
「むむっ?」
皇帝は真顔で、笑っていない目でベルンハルトをみた。
「帝国のあらゆる事は皇帝の一存で決めてよい。そして今の皇帝は余だ」
「むむむ……」
今までで一番やり込められた、って感じの反応をするベルンハルト。
それでいいのか?
ベルンハルトはやり込められた。
皇帝のごり押しで。
しかしごり押しであったがために、場の空気はものすごく微妙な物になった。
このままじゃよくない。
なんとかしないと。
ここは俺が辞退した方がまるく収まるはず。
そうおもって――。
「みゅー」
エヴァが俺の足元でないた。
微妙な空気で静まりかえっていた分、エヴァの鳴き声はものすごく目立った。
全員がこっちをみた。
「エヴァ?」
「みゅみゅ」
「大きくして? なんでいまーー」
「みゅっ!」
エヴァが珍しく、「いいから早く」って感じでねだってきた。
俺は皇帝の方を向いた。
「あの、陛下。エヴァがなんかいいたげなんだけど、いいかな」
「差し許す」
皇帝からの許可がでた。
俺はしゃがんで、エヴァに触れて魔力をそそぐ。
エヴァは元の姿に戻った。
『我が名は』
「え?」
驚く俺。
エヴァは更に続く。
『レッドドラゴン・エヴァンジェリン。偉大なる父マテオの子にして空を翔る者』
エヴァが……喋った?
まわりがざわつく。
この喋りが、まわりにも聞こえてるみたいだ。
「喋るようになったの? エヴァ」
『偉大なる父マテオよ。父マテオの魔力が更に強まり、我を更に成長せしめたのだ』
「そうなの!?」
俺は驚いた。
『大地の精霊の力、そして人間どもがつかった魔力の再利用。それらの魔力が、父マテオを更なる上のステージへと押し上げた』
「あー……なるほど」
納得した。
俺だけじゃなくて、大地の力もはいってるからってわけか。
そりゃ……強くもなる。
『故に、我はようやく、真なる力を取り戻した』
「真なる力?」
次の瞬間、まわりの景色が一変した。
あかるさが変わったのだ。
それまでは昼間の、窓から射しこまれる日光で普通に明るかったのが、一瞬にして光が赤光になり、まわりは赤く・暗くなった。
「な、なんだこれは」
「外を見ろ!」
「た、太陽が――赤く……」
大臣らはざわつきだした。
窓から外を見た人間が一様に驚愕している。
『これが、我がレッドドラゴンと呼ばれるゆえん。真なる姿に顕現せしめた時、太陽の力を食らい、このような色にしてしまうのだ』
「な、なんと……」
「バケモノ……」
「おい! それは失礼だぞ!!」
大臣らはざわつく。
青ざめる者もすくなくない。
『ベルンハルトといったな』
「な、なんだ」
『今後は偉大なる父マテオを見下し、愚弄するような発言は一切ゆるさぬ。我がその気になれば、人間の国など三日で平らにできることをわすれるな』
「うっ……」
あっ、それは「エヴァンジェリン」の方の話だな。
竜王エヴァンジェリン。
まだ邪竜王と呼ばれていたころ、三日で当時の地上を総べていた帝国を滅ぼした話。
俺が本で読んでるくらいだ、ベルンハルトもしってるんだな。
『父マテオよ、今すこし父の力をいただけないだろうか』
「魔力って事? いいけど、どうするの?」
『人間は「軍」の形をほしがっているようなので』
「……? よく分らないけど、はい」
俺はエヴァに触れて、魔力をそそいだ。
その魔力をつかって、エヴァが魔法を使う。
しばらくして、窓の外から何かが降ってきたのがみえた。
ドスンドスンドスン、と大きな音を立てて外に落ちた。
「なにがあった」
「ド、ドラゴンです。ドラゴンが百頭近く!」
誰かが悲鳴の様に叫んだ。
俺も窓から外をみた。
エヴァより二回りは小さいが、それでも人間は楽に乗せて飛べるドラゴンが、軽く百頭は庭に着陸して、大人しくしていた。
『あれが、我が統率できるトカゲどもだ。人間は確か亜竜とかよんでいたな』
「あ、あれが……」
『偉大なる父マテオの力を我が行使すれば、この世のすべての亜竜は父の前に跪く。これでも軍としては不足か?』
「「「……」」」
大臣らはポカーンとした。
話の規模の大きさに言葉を失った。
「これで、文句はないな、ベルンハルト卿よ」
「は、ははー」
力を見せつけたおかげで。
大臣達の抗議は、一瞬にして跡形もなく吹き飛んだのだった。
「面白い!」
「続きが気になる!」
「エヴァよくやった!」
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