33.黄金のほこら
「えっと……あれは何?」
屋敷のバルコニーから、まわりを見回した。
普段なら景色を眺めて楽しむもんだけど、今目に入っているものが気になって、景色どころじゃない。
そんな俺の疑問に、ヤン・ゲーニッツ――商業組合長が答えた。
「立ち退いた者達の建物を片っ端から取り壊している段階です。数日で終わりますのでお待ちいただければ」
申し訳ない感じで説明をするヤン。
俺の屋敷のまわりは普通に民家に囲まれている。
その民家が、片っ端から取り壊されているのだ。
それに不思議がったら、ヤンから回答が得られた。
のはいいけど――
「立ち退きって、どうしてなの?」
「マテオ様の屋敷を広げますと、敷地が今よりやや狭く感じられますので、敷地を広くさせていただくことにしました」
「敷地を広く……え? あそこも屋敷の敷地になるの?」
「さようでございます」
「えー……」
さすがにびっくりする。
今、取り壊されている分の民家を見る。
それはぐるり、と三百六十度の屋敷の全周に渡っている。
目算だけでも、敷地は今の屋敷の五割増しか、下手したら倍になるレベルだ。
「そんなに――」
「マテオ様にお受け取りいただけると知って、組合員から出資が殺到致しました」
「さっとう」
びっくりして、生返事の様になってしまう俺。
そういうのって、殺到するようなもんだっけ。
「皆、マテオ様に献上できる光栄に震えております」
だから断らずに受け取ってくれ、という。
ヤンの強い目で見つめられた。
こうなったら断る訳にもいかないか。
「うん、わかった。ありがとうゲーニッツさん」
「もったいないお言葉」
「マテオ」
俺とヤンが話しているところに、オノドリムはどこからともなく現われた。
「オノドリム? どうしたの?」
「オノドリム……あれが大地の精霊……」
ヤンのつぶやきが聞こえたが、その顔は感動しているようでもあり、ちょっと怯えているようでもある。
オノドリムの存在にそうなっているのは明白、今はあまり触れない方がいいと思って、俺はオノドリムの方に集中した。
すると、オノドリムが。
「家が広くなるの?」
「え? どうしてそれを?」
「マテオの土地の事ならわかるよ」
「そうなの? 僕の土地っていっても人間同士の契約の決め事なんだけど、そんな事が大地の精霊にもわかるの?」
「わかるよー。土地とか家って、その人の魂の色が移るから」
「魂」
「人間でいうと、部屋に体の臭いが染みこむ、みたいな?」
「ああ」
そういう感じか。
たしかにそれはよくある。
他人の家に行くとはっきりするし、自分の部屋に戻った直後でも「ああ自宅の匂いだ」って感じるもの。
それと同じことを、オノドリムも感じるってことか。
「うん、そうだね。そこにいるゲーニッツさんの厚意で、屋敷の敷地が拡大されることになったんだ」
「そっか、じゃあ加護の範囲も広げなきゃね」
「土地にもそうしてるの?」
「もちろん! 大事な人だからね、マテオは」
「……おお」
じっと話を聞いていたヤンが感嘆した。
精霊にそこまで言わせるなんて――ってのは聞かなくてもわかってしまう。
「ありがとう、オノドリム」
「いいのいいの」
「でも、オノドリムがわざわざ来てやらないといけないんだね。わざわざ手間をかけさせるのはちょっと心苦しいよ」
「気にしなくてもいいよ、そんなこと」
「でも……なんかいい方法ない?」
俺はオノドリムに聞いた。
屋敷の敷地を広げるって聞いたのがまさにそうだ。
この先も、俺の意向とは関係なく、気がついたら広げられることが増えてくるかもしれない。
なぜかいろんな相手に溺愛されてて、そういうことが多いのだ。
それでいちいちオノドリムになんかやってもらうのも悪いなって思った。
「それなら、屋敷の中にほこらか、神殿を建てるといいよ」
「ほこらか神殿?」
「うん! それであたしを祀っとくの。あたしがいくらマテオに加護をさずけてもマテオは別人だから。でも神殿とかほこらとかだと、あたしの代理だから」
「あっ、分霊ってやつだね」
前に本で読んだのを思い出した。
「そうそれ! やっぱりマテオ賢い!」
なるほど、ほこらか神殿か。
うん、だったらそれを――。
「話は聞いた、わしに任せるのじゃ」
「うわ! お、おじい様! どうしたのいきなり」
「話は聞いたのじゃ」
俺は苦笑いした。
話聞いてない上になんかノリノリだ。
「その神殿の建築、わしに任せるのじゃ」
「えっと……いいの?」
「むろんじゃ。孫の住む家の改築に祖父として関わらぬことなどあり得ぬ事じゃ」
「えっと……うん」
それはそうかもしれない。
「たとえこわっぱが横車を押し通そうとしても、ここは譲れないのじゃ」
「陛下とあまり仲悪くしないでね」
「殊更ことを構えるつもりはない、が祖父として孫を可愛がるのまでは邪魔されるわけにはいかん」
言い切るじいさん。
まあ、それもわかる。
じじばばが孫を可愛がるのって止められないからな。
というか、止めたらやばい。
前世での知りあいがそれをやって、じじばばが死ぬほど落ち込んで、メシも喉を通らなくて一週間で一まわり痩せて寝込んだ事。
それに罪悪感を覚えた知りあいは、孫を遊びにいかせた。
寝込んでいるじじばばに事もあろうに、孫はドン! って飛び乗ってさながらボディプレスのようになったが。
「遊びにつれてって-」
っていったら、寝込んでる老人がへたしたら骨が折れかねないボディアタックを食らったのに、じじばばは瞬間に元気になって、孫を連れて遊びにでかけた。
じじばばにとって、孫ってのはそれくらいすごいもんだ。
ほこらの一つくらい、じいさんに任せるか。
「うん! お願いします、おじい様」
「うむ、まかされた!」
じいさんはそう言って、来たとき以上のスピードで立ち去った。
☆
次の日、屋敷の庭。
俺は絶句していた。
目の前のほこら? に戸惑って、ぎこちない動きで横にいるじいさんを向いた。
「おじい様」
「うむ? どうした」
「これって、なに?」
「なにって、大地の精霊のほこらじゃ」
「えっと……ほこら?」
「うむ。ほこらじゃ」
「……黄金に見えるけど?」
「そうじゃ。黄金で作らせたのじゃ」
「えええ!?」
驚愕する俺。
そして改めてそれを見る。
それは、縦五メートル、横が三メートルくらいの建物だ。
建物としては小ぢんまりなものだ――黄金製でさえなければ。
縦五メートルに横三メートルの、黄金製のほこらだ。
唯一黄金じゃないのは、透明にしなきゃいけない窓くらいなもので、それ以外は全部黄金製だ。
「大地の精霊よ、これでよいか」
じいさんは同席しているオノドリムに聞いた。
「うん。問題ないよ、じゃあこれにあたしの加護授けちゃうね」
「それはいいが一つきかせてほしいのじゃ」
「なに?」
「こいつは持ち運びが可能なのじゃ」
「持ち運び?」
「うむ」
じいさんはパチン、と指を鳴らした。
すると大量の使用人が出てきた。
使用人達は黄金のほこらをあれよあれよのうちに分解して、一メートル横にずらして組み立て直した。
まるで、積み木のような感覚だ。
「こうして、分解再構成をする事ができる。必要なら――そう、マテオの別荘に持っていくこともできるのじゃ」
「あっ……」
別荘、という言葉に心当たりがあった。
海がらみでそういう事を言った気がする。
「その場合、これを解体して向こうで組み直せしたとき、加護はどうなるのじゃ?」
「なにも欠けてないならそのまま続くよ。組み立てたこの状態で、偶像として加護を授けちゃうから」
「なるほど、ばっちりじゃな」
「じゃあ、やるね」
オノドリムは黄金のほこらに向かって手をかざした。
光が黄金のほこらを包み込んで、ただでさえ輝いている黄金が更にまぶしくなった。
「お、おじい様。これはさすがにやりすぎなんじゃ無いの?」
「なにをいう、祖父が孫にプレゼントするなど当たり前のことじゃ」
「いや、だからやりすぎ」
「老人にお金はもういらん、使わずにいてもあの世に持って行けるわけでもなし。だったら孫に使った方がしあわせじゃ」
「……ありがとう、おじい様」
やり過ぎの一点をのぞけばじいさんの言うとおりだし。
やり過ぎだっていってもじいさんはどうせ聞かないから。
俺はお礼を言うことにした。
「ふはははは、これからもどんどんわしに頼るのじゃ」
孫にお礼を言われて、じいさんは思いっきりご満悦のようだった。
「面白い!」
「続きが気になる!」
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