243.実家のような安心感
「そうなの?」
「そうだっていわれてるんだ」
これはヘカテーに教えてもらった知識だった。
爺さんとイシュタルが集めてくれた本の中にはなくて、ヘカテーの300年生きてきた人生の中でえた知識にちょっこっとだけあった。
ヘカテーも「そうらしい」くらいで、確実な話ではなかった。
と、いうのも。
ここ数百年もの間、エルフはほとんど人間の前に姿を見せていない。
ともすれば絶滅したのではないか、といわれるほど姿を見せていない。
だからエルフに関する情報とか知識とか、全てが曖昧な感じのものだった。
「どうする?」
「……」
ナナとカナは互いをみた。
数秒間互いをみて、頷き合った。
そして二人は俺の方を向いて。
「「森に行く」」
☆
水間ワープで、二人を連れて森の中にやってきた。
ウォルフ侯爵の領内じゃなくて、俺の屋敷に一番近い、爺さんの領地の中にある森だ。
水間ワープだから、ウォルフ領に限定する必要はなくて、俺が一番知っている森だ。
「な、何これ!?」
「……どういう魔法?」
初水間ワープを体験したナナとカナは目を丸くさせていた。
直前までやしきにいたのが一瞬で森の中に移動させられて大いに驚いている。
「一瞬でいきたいところに飛ぶ魔法だよ」
「そんな魔法があるの?」
「ぼくの場合、水のあるところにしかいけないんだけどね」
「へえ……あんたって結構すごいんだ」
「わりと、今更」
感心するカナに、それを指摘するナナ。
見た目がそっくりな双子だけど、付き合いが深くなるにつれまたちょっと違いが分かる様になってきた。
深く考えずにまず「ぱっ!」と反応するのがカナで、そのカナに指摘をするように少し考えてから口を開くナナ。
とはいえカナも頭が悪いとかそういうわけじゃない、ナナに突っ込まれてじっくり考えると同じような理解ができる。
つまりは理解する前に反応するのがカナで、理解してから反応するのがナナ――という感じだった。
「ところで。どうかな、森に来てみて」
「うん」
「はじめて、だけど」
ナナとカナは周りを見回した。
話を聞いてちょっと驚いたけど、二人は「森」という場所に来るのはこれが初めてらしかった。
森だけじゃない、山にも行ったことはなかった。
それは祖父のウォルフ侯爵が過保護だから――と二人はいい、俺は何となく納得した。
たぶんだけど……亡くなった娘の忘れ形見だから、危ない所はつれて行かないというノをやっていたら森とか山とかから自然と足が遠のいたんだろう。
それは……まあ、何となく分かる。
俺も赤ん坊の頃は爺さんに同じことをされていた。
そんな、初めて森に来た二人は――目を細めて穏やかな表情をうかべていた。
「なんかさ、妙に落ち着くかんじ」
「実家、っぽい」
「ここを知ってるってこと?」
「ちがう、ここは知らない場所。でも――なんていうんだろ」
「空気が、落ち着く」
「そうそうそれ、空気が落ち着く。今までいたのが他人のいえで、ここが自分の家の自分の部屋って感じ?」
「そうなんだ」
わかるような、分からないような感覚だった。
が、二人がそれを感じているのは間違いなくて、だとすれば。
「やっぱり二人は森と深い関わりがあるのかな」
「……かもしんない」
「……」
カナがいい、ナナは静かにうなずいた。
「……そだ、魔法だよ魔法」
「そうだった」
「やってみようよ」
「うん」
二人はそういい、頷きあった。
そして手を取り合って、目を閉じて念じる。
次の瞬間、早速魔法が発動した。
「おー」
思わず声が洩れた。
最初に見たときと同じような、惚れ惚れする様な超高速詠唱だった。
魔力を変換する余計なプロセスがない分、二人は普通の人間よりも圧倒的な速度で魔法を使うことができる。
――のだが。
「なんか……一緒」
「うん一緒」
「同じだった」
カナはなにやら失望した様子でいい、ナナは淡々とした口調でつぶやくようにいった。
「もっかいやろ」
「うん」
カナがもちかけ、ナナが受け入れる。
二人は手をつないだままもう一度――に止まらず、何回も魔法を放った。
どれもこれも、惚れ惚れするくらいの超高速詠唱だったのだが。
「うん、やっぱりそう。別に早くも強くもなっていない」
「いつも、わたし」
「そうなんだ……じゃあ違うのかな」
「でも森は落ち着く」
「……」
ナナは黙ったまま頷く。
その頷き方にはたっぷり感情がこもっていた。
魔法なんかどうでもいい、ここにいる感覚が、「実家」にいるような感覚を二人は魔法云々以上に強く実感しているらしい。
そうなるとやっぱりエルフの血を引いてるのか? でもどうなんだろうか。
俺は判断にまよった。
そんなナナカナは互いを見つめて、静かに頷き合った。
「そうしよっか」
「しよう」
そう頷き合う二人に俺はきいた。
「なにをするの?」
「ちょっとこの森で何日かとまってく」
「……離れたくない」
森に来て魔法が強くなっていないと分かれば、普通はじゃあ家にかえろうとなるものだが。
二人の表情は明らかにここ、「森」に強く惹かれているような表情だった。




