22.お金と真心
「ご主人様、大旦那様から招待状と手紙が届いております」
朝起きて、メイドに着替えをさせていると、別のメイドがやってきて、そんな事を言ってきた。
「招待状と手紙? 読んで」
俺は着替えさせられている最中。
手が空かないから、メイドに読むように指示した。
「招待状は来週の大旦那様の誕生日のパーティーのものです」
「あっ、もうそんな時期か」
俺はハッとして、思い出した。
「手紙ですが――読みあげます」
メイドはゴホン、と咳払いをしてから、自分の言葉じゃなくて代理で読みあげている、ということを示すために、普段とは違う口調で手紙を読みあげた。
『マテオへ。来週がわしの誕生日じゃ。マテオは社交界にデビューしたから、来週来てもよし。わしの誕生日は地位が高いだけの面倒臭い連中が多くやって来るから来んでもよし。でも、来なくてもプレゼントだけは後日貰えると嬉しい。期待しておるのじゃ』
「との、ことです」
「おじい様らしい手紙だ」
およそ貴族らしくない文面だが、可愛がってる孫に向けられた手紙ともなればこんなもんだ。
「誕生日か……うん、プレゼントはちゃんと用意しよう」
着替えがすんで、ハウスメイドが下がっていく中、俺は考える。
さて、何を送ればいいのか。
俺は読んでもらった後、手渡された手紙を眺めた。
地位が高いだけの面倒臭い連中、という一文が目に入った。
きっと、じいさんの所に届けられるプレゼントは凄い物ばっかなんだろうなあ。
皇帝を「あのこわっぱ」って言って、色々とわがままが通るほどの大公爵なんだ、じいさんは。
プレゼントの数も質もきっと凄い。
ってなると、こっちがいくら高い物を用意してもかなわないだろうな。
似顔絵でも書くか?
うーん、悪くないけど、いまいち微妙だ。
俺は色々考えた。
考えながら、屋敷の中を歩いて回った。
何かヒントはないかと、屋敷の中とか、働いてるメイドとか、色々と見て回った。
ふと、廊下に飾られた花瓶が目に入った。
花瓶の目立たないところに、制作者を示す印がある。
サインの様なものだ。
「これだ」
俺の頭の中に、あるアイデアが浮かびあがった。
☆
俺は屋敷の庭で土をこねていた。
庭で掘り出した粘土に水を混ぜて、それをこねていく。
こねてこねて、良い感じになってきたところで、それを使ってコップを作る。
じいさんにプレゼントするコップだ。
粘土で作って、名前を入れて、竈で焼いて、渡す。
今の俺は六歳の子供だ、じいさんの孫だ。
可愛がってる孫相手なら、変に高い物を用意するよりは、手作りの物を渡した方がきっと喜ばれる。
というか、そっちの方が俺も「気が済む」。
今の俺は、じいさんの孫だ。
この屋敷も、メイド達も。
俺の名義で俺の物になっているけど、じいさんから貰った物だ。
そんな財産を使って、じいさんに何かをしても、今まで可愛がってもらった分の感謝の気持ちを伝えられたとは思えない。
だったらまだ、手作りの何かを渡した方が気が済む。
そうなると――。
「うーん、ダメだな。形が悪い。作り直し」
出来た物を見て、気に入らなかったから、つぶして粘土に戻して、また作り直した。
そうして俺は何度も作っては潰し、潰しては作る、と。
それを繰り返し続けた。
やっと気に入る形のコップが出来ると、今度はそれを焼くことにした。
地面を掘って、簡単な竈にする。
そこに薪をくべて、火をつける。
最後に出来た粘土のコップに、早速燃えてでた木の灰をまぶしてから、投入して焼く。
これで……よし。
☆
当日、じいさんの屋敷。
先日のマルチンの誕生日よりも数倍大きい屋敷で、数倍の客が訪れている。
公爵家の嫡男と現当主の差が如実にでた形だ。
これは……じいさんを見つけるだけで一苦労しそう。
「おまえ、来てたのか」
「え? あ、マルチン兄さん」
声に振り向く、そこに立っていたのは正装をしているマルチンだった。
マルチンは最初、不機嫌そうな表情で俺を見下ろしたが。
「なんだ? その手に持ってるのは」
「え? うん、おじい様への誕生日プレゼント」
答えると、マルチンは何故かにやっとした。
「へえ、じいさんに持ってきたのか。ほうほう」
「手作りなんだ」
「手作りぃ?」
マルチンは笑った。
ぷぷっ、って感じで笑った。
そこまで笑うことないだろ。
「ぷくく、いやすまんすまん、そうか手作りか」
マルチンは俺と、俺が持っている手作りのコップが入った箱を見てニヤニヤした。
「よし、じいさんの所に連れてってやろう」
「え?」
「お前も直接手渡したいだろ――ぷぷっ」
「うん、それはそう」
「だったらついて来い」
なんだか親切にされた。
先日の事、もう気にしてないのかな。
うん、それならその方が助かる。
別にマルチンに思う所はない。
敵視されるよりは仲良くできた方がいいのは間違いない。
俺はマルチンについて行った。
一直線に屋敷に入って、パーティールームが見える、すぐ外の廊下にやって来る。
すると――びっくりした。
まるで皇帝だ――というのが率直な感想だ。
皇帝の謁見の間だ。
皇帝の事は知っているけど、謁見の間は行ったこと無いから、今の所演劇で見たヤツだけど。
パーティールームはまるで謁見の間になっていた。
じいさんが玉座に座り、訪客が次々と呼び出されて、プレゼントを進呈する。
それをじいさんが「うむ」と言って、それで終わり。
正直マルチンの誕生日みたいなのを想像してたから、それを数ランク上のものを見せられてびっくりした。
「おい」
マルチンは呼び出し係を逆に呼び止めた。
「順番を入れ替えろ。次は俺、その次がマテオだ」
「何を言って――こ、これはマルチン様」
「いいな」
「は、はい、分かりました」
じいさんの孫だというのが知られているようで、マルチンはそれで無理矢理横入りした。
ついでに俺の分まで。
なんだか恥ずかしくなったが、今更いいや、とも言えない空気。
俺達は順番待ちしている、衆人環視のなか、呼び出された。
まずはマルチンだ。
呼び出されたマルチンは、実はずっとついてきていた、たぶん彼の部下らしき男から布を被せた何かを受け取って、中に入った。
そして、じいさんに跪く。
「ほう、マルチンか」
じいさんが言うと、部屋の内外がざわついた。
「あれが公爵様のお孫さんか」
「ふむ、キリッとしていい面持ちだ」
「そうか? 軽薄な感じがして私はすかん」
いろんな声の中、マルチンは声を張り上げて言う。
「誕生日おめでとうじいさん、これが俺のプレゼントだ」
マルチンはそう言って、持っていた物の布をとった。
すると、立てた額縁が現われた。
額縁は、点描の様な、じいさんの肖像画が描かれている。
「ほう」
「真珠を、合計1000個くらい使って描かせた」
「ふむ、良くやった」
じいさんは笑顔で頷いた。
「凄いな」
「真珠で肖像画だって?」
「絵を描くほどの小ぶりな真珠にしてもよく集められたな」
「どこの真珠なんだろう?」
まわりがざわつく中、それがじいさんの耳にもはいったのか。
「マルチンよ、それはどこの真珠だ?」
「え? そ、それは……」
マルチンは返答に窮した、目が泳いだ。
「なんじゃ、わからんのか」
「えっと……さ、最高級品を使いました」
「そうか。布の上に並べておるようじゃが、どうやって止めておるのじゃ」
「え? それは……えっと、接着、剤?」
マルチンは慌てて自分が持って来たプレゼントを見て、真珠に触って確認しつつ答える。
「……そうか。分かった。嬉しいぞマルチンよ」
じいさんはそう言った。
しかしそれは形式的なもので、なんなら棒読みだ、というのが俺にも分かる。
「自分が持って来た物の詳細も把握していないのか」
「ほら見ろ、俺は軽薄で頼りないって言ったんだ」
「詰めが甘いな」
周りの者達もそれを感じ取ったそうで、マルチンへの評価は散々だった。
マルチンは渋い顔をして、退出した。
そして、俺の名前が呼ばれる。
緊張しつつ、謁見の間の様になっている部屋に入る。
「おお、今度はマテオか」
じいさんが俺の名前を呼ぶと、周りはざわついた。
「あれがマテオ」
「公爵が今可愛がってる子か」
「利発そうでいいじゃないか」
様々な声の中、俺はじいさんに言った。
「お誕生日、おめでとうございます! おじい様」
「うむうむ、よく来てくれたのじゃマテオ、わしは嬉しいぞ」
「僕も誕生日プレゼントを持って来たけど、いいかな」
「おおっ! なんじゃ、見せてくれ」
じいさんに言われて、俺は持ってきた箱から、手作りのコップを取り出した。
瞬間、部屋中がざわつく。
「なんだ? あの歪な物は」
「しっ、黙ってろ、今それを笑うのは得策じゃない」
一部が失笑し、一部がそれを止める感じだ。
「ほうほう、何じゃそれは」
「僕が作ったコップだよ」
「マテオが?」
「うん、庭の隅っこで粘土を掘り出せたから、それを使って自分で作って、自分で焼いたの」
「焼いたのも自分でなのか!?」
驚くじいさん。
「うん」
「見せるのじゃ」
じいさんが言うと、使用人の一人がやって来て、俺の手から受け取って、じいさんに手渡した。
「ふむふむ、良く出来ているのじゃ。おっ、わしの名前が刻まれているのじゃ」
「うん」
「そうかそうか。しかしこの感触は珍しいのう、手作りで焼くとこんな感触になるのかのう」
「それは釉薬が違うからだよ。木灰を使った自然釉だから、ちょっと手触り良くないかもしれないけど」
「なんと! 釉薬の概念も知っておったか。しかもそれも手作りか」
「うん、今回は最初から最後まで自分で作ってみたんだ」
「おおおおおっ!」
じいさんは興奮した。
「うむ! これは嬉しいぞ。ありがとうマテオ、マテオの気持ち、確かに届いたのじゃ。今日で一番嬉しいプレゼントじゃ」
じいさんがそう言うと、周りから大拍手、大喝采が起きた。
「あれが受けるのか……」
「お孫さんだからさ、別枠だ」
「そうなると同じお孫さんでも……あっちはなあ」
大拍手で称賛される俺。
そんな俺を、マルチンは遠くから憎しみ全開の目で睨みつけてくるのだった。
「面白い!」
「続きが気になる!」
「マルチンざまぁ!」
とか思いましたら
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