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198.理解できること

 傭兵達が全員悪魔に姿を変えた。

 人間に化けていたのが悪魔の姿に戻って、それが人間の姿の時よりも表情が獰猛で、攻撃的だった。


 その姿はノワールとよく似ていた。

 だから俺の頭の中にノワールとの激戦の記憶がよみがえった。


 ちらり、とイシュタルを見る。


 ノワールの記憶がよみがえった俺は、それと同じ「悪魔」の大群と戦いながら、イシュタルも守らなきゃいけない事に不安を覚えた。


 ヒョウタンからコマがでたのはいいけど、コマが多すぎてここはいったん引くべきかもしれない、とも思ってしまう。


「大丈夫、任せて」


 俺の表情から何かをよみとったのか、オノドリムが安請け合いにも聞こえるような軽い調子で言ってきた。

 その直後、イシュタルの足元、地面から土がまるで生えるように伸びてきた。

 それはグングンと伸びて、やがて球状になってイシュタルを包み込む。


 イシュタルは最初こそ驚いたが、オノドリムが何かをしたというのを理解するとすぐに落ち着きを取り戻して全てを受け入れた。

 イシュタルを包み込んだ球状の土は地中に沈んでいく。


「これで大丈夫」

「ありがとう」


 俺は本気で安堵した。


 世の中にはいろんなかくれ方があるだろうが、地中――それもきっと地中深くに隠れられるのなら、想像できるものの中で屈指の安全さを誇るものになるだろう。


 大地の精霊オノドリムがそうやってくれるなら安心だとほっとした。


「……ねえオノドリム、このあと――」


 俺はオノドリムに耳打ちした。

 オノドリムは「ふんふんふむふむ」と俺のいう事に耳を傾けた後。


「わかった、任せて」


 と、親指をたてつつウインクをして、そのまま地中に潜っていった。

 イシュタルが潜って、オノドリムももぐって。

 残ったのは過去のオノドリムと俺になった。


 あたしにもなにかを? と、そういう顔をするオノドリム。

 そんなオノドリムに何か言おうと口を開きかけた瞬間。


「人間の子供!」


 がなる声が聞こえて、俺はそっちに振り向いた。

 悪魔の姿にもどった、リーダーらしき悪魔が俺を睨んでいた。


「さっきの女をどこにやった」

「彼女には隠れてもらったよ、まもりながらじゃ戦いにくいから」

「誰かの復讐か」

「え?」

「この姿をみても驚きも怯えもない。悪魔に親兄弟が取り入った所でも目撃していたのか?」

「……やっぱり望みを叶えて魂を奪っているの?」

「やはり知っていたか」


 獰猛な表情ながらも、口調はさっきの傭兵の姿とはちがう、つよい知性と理性を感じる。

 人間の望みを叶えた上で魂をうばう――望みを叶えるのに知性や理性が必要不可欠なんだろうなというのがなんとなく想像できた。


「誰にやられた」

「……ノワールって、知ってる?」

「――っ!」


 聞いてくる悪魔――だけじゃない、悪魔全員が一斉に雷に打たれたような驚愕した表情をうかべた。


「……お前何者だ」

「よかった、ちゃんとノワールはいたんだ」

「一緒にきてもらうぞ。貴様は野放しにはしておけない――おい」


 悪魔がいい、他の悪魔達が応じた。


「殺すな、手足を切りおとしてつれていくぞ」


 その命令に他の悪魔が声を上げて応じた。

 どうやら俺を抵抗できない状況にしてつれて行くつもりのようだ。


 手足を縛るのではなく切りおとす所に悪魔らしさを感じたが、それもやり過ぎというだけで理解はできること。

 その「理解できる」ことに俺はちょっとだけほっとした。


 その安堵は長くは続かなかった。


「くるよ!」


 過去のオノドリムが叫ぶ、瞬間、悪魔が一斉に襲いかかってきた。


 それで俺はまたちょっとホッとした。


 傭兵である人間の姿から悪魔の姿になって、スピードもそしておそらくはパワーも上がっている。

 人間を軽く凌駕したパワーとスピードになっている――戻っている。

 俺に押されて本来の姿に戻って本気を出したという感じだ。


 それを俺は、ホッとした。


 悪魔の姿を見た瞬間ノワールを想像して少し不安になったが、実際に襲われて思ったのは、確かに人間の姿よりも数ランクは強そうだが、悪魔の姿をみて連想したノワールには遠く及ばない事だった。


 完成された悪魔、いやはてのノワール。


 そのノワールよりも遙かに簡単な相手だと分かって、ホッとした。


 俺はオーバードライブしたままの剣をふるって、無形の刃で悪魔らを迎え撃った。

 ノワールよりは弱いが、しかし数は多い。

 だが、どうにもならない相手ではない。


 意識を集中し、限界まで集中力を高めて、無形の刃で一人ずつ切っていった。


 見えない鞭のような軌道をする刃はやはり強くて、パワーもスピードもあがった悪魔たちだったが、それは抵抗できる時間がすこし延びただけで、一人ずつ斬り倒されていく事にかわりはなかった。


 むしろ、人間の姿ではなくなったことで、俺の精神的ブレーキが外れて、手加減を考えなくて済む分戦いやすかった。


 次々に倒していくと、次第に悪魔達が及び腰の逃げ腰になった。

 それを更に倒していくと一部の悪魔が逃げ出した。


 逃げないで最後まで向かってくる悪魔をきっちりと斬り伏せた後、まわりをぐるっと見回して、手の甲で汗をぬぐった。


「ふう……」

「お疲れ、何人かにげたけど大丈夫?」


 ずっと観戦していた過去のオノドリムが聞いてきた。


「うん、それなら大丈夫。わざと追わなかったんだ」

「わざと? なんで?」

「オノドリムなら分かるとおもうけど……」


 そういって俺は足元――地中をみるように視線を下に向けた。

 俺の視線を追って同じように下をみた過去のオノドリムははっとして、一部の悪魔がにげていった方角に目を向けた。


「追いかける」

「うん。オノドリムとイシュタルに追いかけてもらってるんだ」

「なんであの娘もいかせたの?」

「追いかけていった先にあるものを人間の目でみた感想もほしかったから」

「へえ……そこまで考えるんだ。君、本当に普通の子供じゃないんだね」


 俺の説明をきいた過去のオノドリムが心底感心した表情をした。


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