19.自慢の孫
その日のうちに、じいさんは再びレイフをよびだした。
呼ばれてきたレイフは、急だったからか、前回のペットは連れて来てなくて、代わりにソファーの上でウンコ座りをしていた。
俺とじいさん、そしてレイフの三人が屋敷のリビングで顔をつきあわせていた。
「で、今度は何」
「うむ、あるものをみて欲しいのじゃ。魔法工学の専門家であるレイフの意見が聞きたくてのう」
「そんな事で慌てて引っ張ってきたの?」
レイフはジト目でじいさんをみた。
「マテオのためじゃ、当然じゃろ」
「ごめんなさいマートンさん、迷惑かけちゃったね」
「……ふう、スポンサーの意向は大事だからね。いいよ」
レイフはため息一つついて、意識を切り替えて、改めて、と聞いてきた。
「それで、なに?」
「うむ。マテオや」
「うん、わかった」
俺は座っている横に置いてあった例の剣を手にとって、鞘から引き抜いた。
引き抜いた瞬間、魔力が吸われて、刃の部分から光が溢れる。
その光が膨らんで、刃が溶けて見えなくなった。
レイフをちらっとみる、無表情だ。
分かってないのか? と思いつつ、無形剣――じいさんがつけた名前の、透明の刃でソファーの前にあるテーブルを斬った。
ズバッ、とテーブルの角が斬りおとされた。
「と、言うわけじゃ」
一通り見せるものを見せた後、じいさんがレイフに言った。
「これはどういう物なのか、マートンなら知っておるじゃろうと思ってな」
「知ってるよ」
レイフはけろっと言った。
「知っておるのか……」
じいさんは何故かちょっと落胆した。
なんでそこで落胆?
……ああ。
もしかして、「天才さえも知らなかったわしの孫すごい」、っていうのを期待したのか?
いやいやまさか、そんな安直な――。
「知っていると言うことは前例があるのか……しょんぼりじゃ」
――ってその通りなのかよ!
安直だと思ってたらそのままだった。
じいさん……ブレないな。
そのじいさんはすっかり肩を落として、しょんぼりとソファーに座りこんでしまった。
レイフはじいさんをみて小首を傾げている。
「なに、説明はいいの?」
「あっ、教えてくれると嬉しいな」
じいさんはもうそれどころじゃないっぽいから、俺がレイフに頼んだ。
無理矢理いきなり来てもらって、それで何もさせないというのじゃ二重に悪い。
俺だったらせめてもとめられてることはやっていきたいって思う。
だから聞いた。
「オーバードライブでしょ、それ」
「オーバードライブ?」
「そう、魔力の出力が大きすぎたとき、物体が原形を留めておけなくなる現象。ただの破壊と違うのは、使わなくなったら元の形に戻ること」
「確かに」
俺は頷き、無形剣を鞘に収めた。
すると、収めた瞬間から、見えない刃が見える普通の刃に戻った。
「普通に解明されてる現象じゃったか……」
じいさんがまたぶつぶつ言ってる。
よっぽど期待してて、その分の落胆がひどいんだな。
「まあ、この天才を呼んだのは正解だったかな」
「どういう事なのマートンさん」
「歴史上、オーバードライブを引き起こせたのは、聖魔戦争の時の天使連中だけだからね」
「せいませんそう? てんし?」
「今のぼんくらどもじゃ、その事すらも知らないんじゃないの?」
レイフはあっけらかんとそういって、メイドが入れた紅茶に、角砂糖をドバドバと入れて、それをかき混ぜて飲んだ。
意味があまりよく分からない――が。
キュピーン、って音が聞こえたような気がして、じいさんの目に精気が伸びた。
「それはつまり、人間では初めてだということか?」
「そう言ってるけど?」
レイフはやっぱりあっけらかんと、普通に言い放った。
「本当か!?」
「だから、そういってるけど?」
じいさんに詰め寄られて、レイフはげんなりとした表情を浮かべた。
それでじいさんはまた元気になる。
「そうかそうか、人類初か! うむ! そうこなくては、さすがマテオじゃ!」
「あは、あはははは……」
乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
わかりやすすぎるだろ、じいさん。
「ふはははは。しかし、そうなると、この剣もたいしたことないのじゃ」
「それは違うね」
「なに?」
「試しに普通の武器に今のをやってみなよ」
レイフがそう言った。
「ふむ? よし、やってくれるかマテオや」
「わかった」
どういう事なのか分からないけど、俺は頷いた。
そして、メイドを呼ぶ。
もう俺のメイドで、じいさんは「わきまえて」呼ばないから、俺が呼んだ。
やってきたパーラーメイドに向かった。
「屋敷に武器あった? 無かったら包丁とかでもいいけど」
「ロングソードでよろしいでしょうか?」
「うん、それを一本持ってきて」
「承知致しました」
メイドはそう言って一旦下がり、一分くらいでロングソードを持って戻ってきた。
「早いね、ありがとう」
「恐縮です」
俺に褒められたメイドは、嬉しそうな顔をして退出した。
俺は受けとったロングソードを持って、レイフに向き直る。
「これで同じことをすればいいの? マートンさん」
「ん」
「わかった――」
マートンに頷かれて、俺は同じようにして、ロングソードを引き抜いた。
「あれ?」
魔力を吸われた感じがしなかった。
「自分で吸わないだろ? そっちが込めるの。量産品だろうからそれ」
「そっか」
なるほどそういうことか。
まあ、それはできるからいいけど。
エヴァで覚えたやり方で、同じように魔力をそそいだ。
すると、ロングソードが光りだす。
「あちっ!」
思わずそれを手放してしまった。
次の瞬間、ロングソード「だったもの」は地面に「こぼれ落ちた」。
「こ、これは……溶けておる」
驚愕するじいさんの言うとおり、ロングソードは溶けていた。
とけて、灼熱した鉄のどろどろとした感じになって、地面にこぼれている。
「どういう事なのじゃレイフ」
「はあ、まったく凡人は面倒臭い」
レイフは大量の砂糖が入った――こっちもどろどろな紅茶を一気に飲み干して、いう。
「量産品じゃそもそも力にも耐えられないって事。オーバードライブに耐えられるのは、それだけで名工級、伝説級なの」
「なるほど!」
じいさんは納得した。
そして、腕組みしてうんうん頷く。
「そうじゃな、そう来なくては」
「おじい様?」
「その辺のなまくらじゃマテオの力に耐えられもせん。うむ、素晴らしい!」
ああ、そういう。
じいさんが喜ぶ理由を、俺は納得した。
「よし、マテオのためにもっと様々な物を集めるのじゃ!」
そしてじいさんは宣言した。
新しい生きがいを見つけたじいさんは生き生きしてて。
俺はますます、溺愛されそうだと予感したのだった。
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