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16.主役強奪

 夜、馬車から降りた俺は、違う街にある本家の屋敷に来ていた。


 夜になったというのに、屋敷の内外は人であふれていて、ものすごく賑わっている。

 男も女も正装していて、これから開かれる催しがいかに正式な物であるのかを物語っている。


「お足元お気をつけ下さい、ご主人様」


 前入りして、俺を出迎えるメイドがそう言って、俺の手を引いた。

 子供の体だと馬車から降りるのも普通は一苦労だから、俺を案じてくれた格好だ。


「ありがとう」

「なんだ、マテオかよ」


 俺がメイドにお礼を言った直後に、野放図なイメージのする声が聞こえてきた。


 振り向くと、そこに一人の青年が立っていた。


 マルチン・ロックウェル。


 俺より歳上の、じいさんの血を引く、正真正銘のじいさんの孫だ。


 そのマルチンが、今日で二十歳を迎える。

 そのための誕生日のパーティーが開かれた。


 この人だかりは、公爵家の嫡男の二十歳を祝うために集まった者達だ


 俺もその一人だから、マルチンに向き直って、正式に頭を下げた。


「本日はお招き頂き、ありがとうございます」

「ふん、今日は大人しくしてろよ」

「え?」

「普段からじいさんに可愛がられてるからって調子にのるなよ。今日は俺が主役だからな。いいな」

「うん、わかってるよ」


 そんな事言われなくてもわかってるけど。

 というか、誰もそうじゃないって思わないって。


 公爵家の嫡男の、二十歳の誕生日だぞ。


 だれがどう考えても今日の主役はマルチン以外あり得ない。


 なのにわざわざ絡むような口調で言い放ってくるなんて……なんか気にくわないことでもあったんだろうか。


 マルチンは捨て台詞の様に鼻をならして立ち去った。


 俺は改めて、まわりをみた。

 そこそこに注目を集めているのが分かった。


「なんでこんな所に幼い子供が?」

「あれよ、公爵様の秘蔵っ子」

「ああっ、例の!」


 俺を見て、ひそひそと――聞こえてるけどひそひそと話してる人たちの言葉をひろっていくとすぐに理由がわかった。


 俺くらいの子が珍しくて注目を集めて、それを事情の知ってる人間が教える。


 そのサイクルで、俺の正体が爆発的に広まった。


「おお、もう来ていたのかマテオ」


 それのダメ押しになったのが、同じく正装しているじいさんだった。

 じいさんが通る道は自動的に人がよけて、そうやって開いた道をとおってこっちに向かってきたから、俺はますます注目を集めてしまった。


 もう注目されないのは無理と、俺は開き直って、いつものように振る舞った。


「おじい様。今日はお招きいただき、ありがとうございます」


 俺は丁寧に、しかし子供っぽく。

 いつもより更にちょっと、大人びた子供を演じてそう言った。


「うむ、マテオも今日で社交界デビューじゃな」

「うん。初めてだからどうしたらいいのか……」


 これは本音だ。


 今までこんなことをしたことはなかった。

 本はたくさん読んできて、ある程度の知識はあるけど、実践したことがまったく無い。


 前の人生でもこんなことはなかった。


 初めて足を踏み入れたフィールドに、俺は少なからずドキドキして、緊張していた。


「そうか、よし、ならばわしが色々教えよう。しばらくはわしのそばについてくるとよいのじゃ」

「いいの? 今日の主役のマルチン兄さんのところについてやらなくても」

「なにをいう、あやつはもう大人じゃ、じじいがそばにおらなければ何も出来ない、なんてのは話にならんじゃろ」


 それは……うんまったくもってその通りだ。

 自分の屋敷でパーティーを開いた二十歳のホスト。

 初めてこういう場に出てきた六歳のゲスト。


 同じ孫でも、この場合祖父がどっちのそばについてる方がいいか――と聞かれたら十人中十人が人情で後者だと答えるだろう。


 だが――まわりはざわついた。


「公爵様がこっちを選んだ?」

「しっ! こっちとか言い方が失礼だぞ」

「まさか、跡目は……」


 どうやらこういう場では、そういう人情は関係ないようだ。


 じいさんが俺をエスコートする、って言い出した途端、まわりがものすごい勢いでざわつき、邪推し始めた。


 既に何人かが、うずうずした表情でこっちの様子をうかがっている。

 今か今かと、話しかけるチャンスをうかがっている。


 マルチンではなく、俺に取り入ろうとしてる、なんてのが見え見えな感じだ。


 俺はじいさんのエスコートで、屋敷の中に入った。


 高位の貴族の屋敷には必ずある、パーティー用の大部屋に入った。


 じいさん――公爵がついているから、沿道ずっと注目を集めっぱなしだった。


「なんだ、きてたのかマテオくん」

「ウォルフ侯爵。お久しぶりです」


 会場にウォルフ侯爵がいた。

 俺は腰を折って、礼儀正しく一礼した。


「ああ、久しぶり。今日はあの子はつれてこなかったのか? レッドドラゴンの子供」

「エヴァはこういう場には相応しくないと思ったから、置いてきました」

「そうかそうか。おおそうだ、今度うちにも遊びに来なさい。リンの事も紹介してやろう」

「はい、喜んで」


 俺はウォルフ侯爵と挨拶を交わした。

 こうやって、初めて来る場所に顔見知りがいると、なんだかものすごくほっとする。

 だから、前回と同じような感じで挨拶を交わしたのだが。


「ウォルフ侯爵ともお知り合い?」

「というか、孫娘を紹介する? まさか!」

「ロックウェル家とウォルフ家がいよいよ一つになるのか?」


 まわりは、更に邪推して盛り上がった。


 なんでそうなるんだ、と、俺は苦笑いしていたが、視界のすみでちらっと、あまり笑えない光景が目に入った。


 マルチンが、嫉妬の炎に燃えて、ものすごい目でこっちを睨んでいるのが見えた。

 うーん、あっちゃー……だな。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ、アルファポリスに移行するからバレてもいいやって感じでガンガンブーストしてるだろ なんのきっかけもなく急激に伸びたもんな ランキングが全然信用できんやん 話の中身も相変わらず…
[良い点] 存在するだけでも周りを刺激する人物…危険だな。 …周りが。 [気になる点] マルチン君が、どのように自滅していくのか…とても気になります☆
[良い点] 存在するだけでも周りを刺激する人物…危険だな。 …周りが。 [気になる点] マルチン君が、どのように自滅していくのか…とても気になります☆
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