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14.命の恩人

「その回復魔法というのが、失われた古代魔法なのじゃ」

「ええっ!?」


 俺は驚いた。


「そうなの?」

「うむ。傷を癒やし治す、その最果てには失われた命を取り戻しよみがえらせる。今となっては神の御業、奇跡といわれていることじゃ」

「そういえば……本の中にそういうの書いてあるの見たことあるかも」

「そうじゃろ」


 俺は自分の両手をじっと見つめた。

 回復魔法自体、そんなに難しい物(、、、、、、、、)じゃなかった(、、、、、、)

 エヴァと触れて、その術式があると気づいて、使ってみたらできた。


 それだけの話なんだが……。


「マテオよ、それはどれくらいまでの傷を癒やせるのじゃ?」

「え? ど、どうなんだろう。実際に試してみたことはないけど……」

「ふむ――誰か」


 じいさんは使用人を呼んだ。

 呼び方で微妙にくる使用人が違う。具体的にはこの屋敷につめている使用人か、じいさん直属の使用人か。


 今回は屋敷の使用人――一人のメイドが入ってきた。


「お呼びでございますか、大旦那様」

「屋敷のなかで、誰か怪我をしている者はおらんか?」

「怪我でございます?」

「なんでもよい、いたらここによんでくるのじゃ」

「かしこまりました、少々お待ちください」


 じいさんの、普通に考えて変な命令でも、メイドはちょっとだけ首をかしげただけで、従順に実行した。


 部屋から出て行き、しばらくして別のメイドが戻ってきた。


 メイドは腕に包帯を巻いている。


「それはどういうものじゃ?」

「はい……料理をしている時に、包丁を落として、それが跳ね返って」

「ふむ、見せるのじゃ」

「は、はい」


 メイドは戸惑いつつも、包帯をはずしていく。

 最後のあたりは傷口にくっついてて、剥がすときにちょっと眉をひそめた。


 包帯の下から現われたのは、血は止まっているけどまだ塞がっていない傷だった。

 いや、いま包帯をはずしたことで、ちょっとだけにじみ始めている。


 それを見て確認してから、じいさんは俺の方を向いた。


「どうじゃ、マテオ」

「分からないけど、やってみる」

「うむ」


 じいさんが頷き、俺は立ち上がった。


 メイドに近づき、手をかざす。


 目を閉じて、よりはっきりとイメージができるようにする。

 思い出してイメージした術式にそって――今度は崩さないように基本的にやって、回復魔法を使う。


 白い光が溢れる、温かいそれはメイドの腕を包み込む。


「こ、これは……」

「おおお!?」


 メイドとじいさん、二人の驚嘆の声が聞こえた。


 魔法を使い終えてから、目を開ける俺。

 すると――メイドの腕から傷が消えた。


「本当に治ったのじゃ」

「……」


 じいさんは大いに興奮した。

 一方で何も分からないメイドは、自分の怪我が一瞬で治ったことに、狐につままれるような顔をしていた。


「本当に古代魔法を復活させたのじゃ。すごい、すごいぞマテオ!」

「そ、そうかな」

「うむ! 回復魔法ともなれば、もはや偉人級の快挙といっても差し支えぬ」


 じいさんはますます興奮した。

 いってることがどんどん大きくなって、正直こっちが苦笑いで冷静になっていくくらいだ。


「おっとこうしてはいられん。ウォルフのヤツに自慢してこなくては」


 じいさんはぱっと立ち上がり、そのまま部屋から出て行った。

 まるで風のような去り方だ。


 じいさんらしい、といえばらしいな。


「あ、あの……」

「ん?」


 残ったメイドがおずおずと声をかけてきた。

 見ると、何か言いたげで、けど勇気が足りなくて言い出せない。

 そんな顔をしている。


「どうしたの? なにかいいたいことがあったらいってみて」


 主人である俺に後押しされて、メイドは思いきって切り出した。


「ご主人様は、魔法で……ケガを治せるんですか?」

「うん、どうやらそうみたいだね」

「じゃ、じゃ――」


 メイドは、必死な形相になっていた。


     ☆


 ここは屋敷の隅っこ。

 メイド達が使う部屋をまとめて押し込んでいる一角。

 その中の、寝るスペースくらいしかない、若いメイドが使う部屋に俺は連れてこられた。


 その小さな部屋の中に、一人の少女が横たわっていた。

 少女は包帯でぐるぐる巻きにされている。


「これは?」


 俺は、ここまで連れてきたメイド――包丁の切り傷を治してやった子に振り向いて、聞いた。


「アンナは、昨日うっかり熱した油をかぶってしまって……」

「ああ……」


 それだけで話が分かった。

 前後の事情は分からないが、それだけ分かれば色々十分だ。


「お医者様に見てもらうお金もなくて、明日にはもう屋敷から出て行くようにって」

「ふむ」


 俺は横たわっている少女をみた。

 ぐるぐるまきにしている包帯の面積を見るに、かなり広範囲にかぶったんだろう。


 この様子じゃ、明日出て行く……というのも歩いてでるのかそれとも死体になって運び出されるのか分かったもんじゃない。


 それくらいの大けがだ。


 なるほど、それで俺にすがった訳だ。


「ど、どうですかご主人様」

「うん、ちょっとやってみるよ」


 俺は少女に近づいた。

 人が近づく気配を感じたのか、少女はうっすらと目を開けたが、意識があるかどうかも怪しい感じで目がぼうっとしている。


 俺は目を閉じた。

 さっきのよりも遙かに大けが。

 魔法もちゃんとかけないといけないと思った。


 だから目を閉じて、より集中して、回復魔法を使った。


「あっ……」


 背後からメイドの声が洩れて、聞こえてきた。


 それを気にせず魔法を続ける。

 手の平から温かいものを感じる。

 自分でも感じる、回復魔法の温かな光。


 それを続ける。


 延々と続ける。


 魔法を変換して、練って、放出。


 回復魔法をずっとかけ続けた。


 それを――約三分。


「う、……ん」

「アンナ!」


 俺は目を開けた。


 目の前の少女――アンナが目を開けていた。

 大きくてくりっとしている目が俺を見て、まわりを見て、不思議がっている。


「私……?」


 アンナは体を起こした。

 普通に、すっとおこした。


「ああっ!」


 背後のメイドが声を上げる。


「ア、アンナ、本当に治ったの!?」

「なおった?」

「どこか痛いところは?」

「え? あれ? 私、あれ?」


 徐々に記憶が戻り始めたのか、アンナは自分の手を、全身を見ていった。


「油をかぶって、あれ? やけどは……」

「見せて!」


 二人は包帯を剥がしていく。


 白い包帯に黄ばんだ体液がこびりついていたが、それを取った後に見えた肌は白く、綺麗なものだった。


 やけどが、治っていた。


「ありがとうございます!!」


 メイドはパッと振り向き、俺に土下座した。


「ありがとうございます、ありがとうございます!」

「カティちゃんどうしたの?」

「ご主人様があなたのやけどを治してくれたのよ」

「ええっ!?」


 アンナは驚いた。

 数秒後、彼女も俺に土下座を始めた。


「あ、ありがとうございますご主人様」

「本当にありがとうございます!」

「ご主人様は命の恩人です!」


 二人は米つきバッタのように、次々と頭をさげた。


 過度の謙遜は嫌みになる――というじいさんの言葉を思い出した。

 命の恩人は言い過ぎとかじゃないと思ったから、俺は泰然とその感謝を受け取ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の人も書いているけれども 主人公の住む屋敷のメイドが、用済みになればポイ捨てされる扱いなのは無神経すぎて引くどころじゃないわー
[一言] 仕事中にした大怪我だが働けなくなったと追い出す仕様は受け入れられませんね。 メイド(使用人)は使い捨てですか。 これだと拾った子供が無才だっら直ぐに棄てるのでしょうね、又は肉壁。
[良い点] いつもながら、ストレスなく安心して楽しませてくれます。
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