12.基礎と応用
氷を出すことができた、たぶんこれは結構初歩的な魔法だろう。
規模が小さいし、何よりも氷の粒を出したというだけ。
じいさんに拾われてこの屋敷に住むようになってからはたくさんの本を読んできて、いろんな知識をつけてきた。
知識の中には「魔法を使った事例」も多くあって、魔法ってのはこんなもんじゃないっていうのが分かる。
俺はカールを見つめ直して、聞いた。
「ねえ先生、魔法ってどう使えばいいの?」
「え?」
「いろんな魔法を使ってみたいな。僕にも使えるんでしょ、これができるんだから」
「そ、そうだな」
カールは頷き、驚き戸惑っていたのを取り繕った。
心なしか、言葉使いをちょっとだけ「先生っぽく」した。
「では、少しだけやってみようか」
そう言いながら一冊の本を取り出して、教壇から降りて俺の所に来て、机の上に置いていった。
「これは?」
「いくつかの魔法の魔術回路を書き記した物だ」
「魔術回路?」
「氷を出せたということは、体感で白と黒の魔力をこれくらいの割合と、これくらいの分量で、こういう風に混ぜたら氷を出せるようになる――ってのがもう分かるな」
「うん」
カールの言う通りだ。
混ぜる、という言葉が一つのきっかけでもある。
例えるのなら――パン作りだな。
これくらいの水と小麦粉の分量で、こういう風に混ぜて、こういう風に焼いたらこんなパンになる。
それと似ている話だ。
とは言え、それを自分の中で納得するのは勿体ない。
せっかく教師――質問に答えてくれる歩く本が目の前にあるんだ、ちゃんと答え合わせをしておこう。
「なんだかパン作りみたいだね」
「うん、いい発想だ。そういう風に言う人も居る。そう、その考え方ができるのなら、この本はレシピだと思えばいい」
カールは感心した様子でいい、本に軽く触れて俺を褒めた。
答え合わせをして、俺の考え方が間違っていない事を確認して、本を開く。
開いた先のページは、何かの図だった。
二種類の線が混じり合った図面になっている。
「これは――」
「ふむふむ、こうかな」
俺は図面通りにやった。
二種類の線――それぞれを白の魔力と黒の魔力に見立てた。
体の中でまず黒の魔力を必要分の白の魔力に変換してから、二種類の魔力を図面通りに巡らせ、混ぜて、行使する。
すると、氷の時のように突き出した両手の間にパチパチと稲妻が走った。
「――な、なんと!?」
「そっか、これ、雷の魔法か」
「よ、読めるのか?」
「うん、だって、こっちの実線が白の魔力で、破線が黒の魔力でしょ?」
「……」
あんぐり。
そう言うタイトルをつけて額縁に入れて保存したくなるくらい、カールは見事にあんぐりして言葉を失っていた。
「どうしたの? 何かまずかったかな」
「い、いや。まずいことは何もない。ゴホン。その通り、この術式の通りに魔力を使えば、魔法が使える事になる」
「そっか-。……って事は魔法を使うには、この術式を覚えてなくちゃいけないんだね」
「そういうことだ」
カールははっきりと頷いた。
「慣れてくると体が勝手に覚えているものだ、文字だってそうだろう? 複雑に見えて、種類がたくさんあるように見えて、でも慣れてくれば何も考えずに書くことができる」
「文字と同じなんだ」
「これも一種の文字に見えないか?」
「……確かに」
カールの言う通りだった。
二種類の線で描かれている図は、絵というよりは一種の文字に見える。
「……」
文字。
文字、か……。
俺の頭の中にある物が浮かび上がった。
カールのいう通り文字のようなものなら、それができるのかも知れない。
いや、パン作りと似ている、というたとえの所からも連想出来た物だ。
ただ、「文字」のそれが、より身近で連想しやすかった。
「どうしたんだマテオくん」
「ちょっと待ってね先生」
俺は頭の中で考えをまとめた。
まとめた上で、開いている本に見えている図、白と黒の魔力の交わりを、それに合わせて「崩した」。
崩したものを自分で再現。
白と黒の魔力を練って、放出。
すると――できた!
真っ黒な、漆黒と呼ぶにふさわしい雷がでた。
「なっ!」
またまた驚愕するカール。
「できた」
「こ、これは」
「この術式を『崩した』ものだよ」
「く、崩した?」
「うん! ほら、文字だってちゃんと書くのと、崩したり簡略したりするのってあるよね。それを応用してみたんだけど、上手くいったね」
「文字を崩す……そんなの子供の発想じゃ……いや」
と、信じられないって顔をしていた。
今までも、似たような事をしてきたからなあ。
やっぱり、エヴァのおかげだ。
魔力をそそいで全身をレッドドラゴンに戻すのと、それを「崩して」前足だけ戻すの。
それをやっていたから、黒い稲妻は簡単に出せたんだ。
なんだが――。
「魔法って、こんな使い方ができるのか……」
カールは今までで一番愕然としていたのだった。
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