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118.神は死んだ?

 無邪気な感じで話すオノドリム。

 それが聞こえたヘカテーとノワールは争いとピタッと止めて、俺とオノドリムのやり取りに耳を澄ませるという感じのそぶりを見せた。


 二人もきになるみたいだが、俺も気になる。

 改めて、とオノドリムに聞いた。


「オノドリムのよりしろって、どういう事なの?」

「あたし、昔はちょこちょこ人間の格好をして、人間の生活を体感してきたんだ」

「そうなの?」

「うん! まだあたしを信仰してた人間が多かった頃、人間に混じってあたしのお祭りに参加とかしたりさ」

「お茶目なんだね、オノドリムって」

「楽しかったんだもん」


 お茶目と評されたオノドリムは気を悪くすることなく、むしろ更に楽しげな笑顔になった。


「で、そういう時は依り代をつくって、そこに乗り移ってからやるんだ」

「そうなんだ……でもどうして? 今みたいにぼくたちと話してるこんな感じじゃダメなの?」

「話すだけならいいけどさ、例えばお祭り――収穫祭とかに参加する時さ、みんなでわいわいしながらお酒飲んだりごちそう食べたりするのよ」

「ふむふむ」

「最初はこの格好、本体で参加したけど、途中で『よっぱらうともっと楽しいかも?』って思ってさ」

「……そっか。精霊って酔っ払わないんだ、人間のお酒で」

「うん! お酒だけじゃないけどね。薬とか毒とかも全然きかない」

「あはは、そりゃそうだよね」


 笑う俺。オノドリムの言葉がちょっとおかしくて、楽しかった。

 こうしてフランクに話してくれるし、明るくて可愛くて、まるで隣家の綺麗なお姉さん的な空気をだしているけど、彼女は大地の精霊オノドリム。

 今までも埋蔵金やらなにやら、地中に埋まっているものなら全て把握している所を見せていたりして、人間を遙かに超越した存在なのは間違いない。


 そんな彼女が普通に酒を飲んでも酔えないから、依り代――たぶん人間と同じようなボディをつくって、それに乗り移って酔っ払いにいった話はシンプルに面白かった。


「それってまだ残ってるの?」

「ううん、前のはもうないよ。人間と同じ体だから、とっくに腐って土に還った」

「なるほど」


 人間と同じ、という理由には納得した。


「でもすぐに作れるよ。庭に出よ?」

「やっぱり土地から?」

「もっちろん!」


 オノドリムはテンションを更に一段階上げる様な感じで、親指を立てながらいった。

 そんなオノドリムと一緒に庭にでた。

 後ろからヘカテーとノワールが一緒についてきた。


 庭に出ると、オノドリムはしゃがんで、芝生に手を触れた。

 そこには何もないはずなのに、オノドリムの手はまるで何かを取り出すかのようなうごきだった。


 土の地面だが、まるで水の中に手を突っ込んで水中から何かを取り出すのと同じ感じで、土の中から「人間」を取り出した。

 服を来ていなくて、真っ裸のそれは――。


「僕?」


 俺そっくりの、マテオそっくりの人形? だった。


「うん! いつも君のことばっかり考えてるから、これが今一番作りやすいの」

「そ、そうなんだ……」


 俺はあはは、と照れ笑いをした。

 君のことばかりを考えてる。

 そんな言葉をオノドリムのような可愛い子に言われるとめちゃくちゃ照れてしまう。


「でもすごいね。僕よりも……なんていうんだろ、生きてる感じがする」

「どういう事?」

「海神ボディに乗り換えた時、マテオの体に魂がはいってないじゃない? 本物の僕の体なんだけど、魂が入ってないからかなんか足りない感じがしちゃうんだ。それに比べてこっちはいまにも動き出しそうな感じ」

「えへへ……そりゃああたしが作った物だもん」

「そっか」


 さすが大地の精霊だと思った。


「じゃあはい、これ、試してみてよ」

「うん!」


 俺は頷き、オノドリムから俺そっくりの人形を受け取った。

 触れた瞬間、ああやっぱり人形だ、と思った。

 真っ裸の俺人形は体温がなくて、触った瞬間生命力を感じさせないような冷たさを感じた。


 ただ体温がないだけで、皮膚とかそういう体の柔らかさとか感触は人間そっくりだった。


 それに感心しつつ、魔力をそそぐ。

 俺の魔力がそそがれた俺人形はそのまま溶けた。


「おおっ!」

「成功したの?」

「うん。すごいよオノドリム。やっぱりオノドリムだ」

「え? それはなにが?」

「今までで一番すんなりオーバードライブが成功したかも知れない」

「一番すんなり?」

「うん。ほら、オーバードライブって見た目何かを溶かしてるって感じだよね」

「うん」

「それが一番スムーズに――っていうか、スルッといったんだ」

「へえ」

「オーバードライブに耐えうる道具は製作者の技量によるって教わったから……さすがオノドリムだね!」

「うふふ、まっ、大した事じゃないよ」


 オノドリムはそう言いながらも、顔はめちゃくちゃ嬉しそうだった。


 俺は改めて、オーバードライブで溶かした俺人形と向き合った。


「……あれ?」

「今度は何?」

「なんか動かないね」

「うごかない?」

「うん。オーバードライブで溶かしたのはいいんだけど、ホムンクルスみたいに動かないんだ」

「えー、なんで?」

「うーん……なんでなんだろう」


 俺は首をひねった。

 オーバードライブはすんなりいった。今までのオーバードライブで一番すんなりいった。


「オーバードライブしすぎたのがよくないのかな?」

「ふむふむ、君のコピーの出来が良すぎたからなのかな」

「たぶん?」

「じゃあ今度は……こっちはどうかな」


 オノドリムはそういい、俺人形の時とまったく同じ感じでもう一体の人形を地中から「取り出した」。


「おや」


 背後にいるノワールが反応した。

 そう、オノドリムが取り出したのはノワールに似ている(、、、、)裸の人形だった。


「今度は普通に似てるくらいなんだね」

「あの男このみじゃないもん」

「これは手厳しい」

「あはは……」


 好みの問題なのか、と俺はちょっと乾いた笑いがでた。いわれたノワールはまるで気にもしていないようすだ。


「試してみて」

「うん!」


 オノドリムに促されるがままに、ノワール人形にもオーバードライブをかけた。

 ノワール人形はさっきと同じように音もなく溶けた。


「あっ、うん」

「どう?」

「オーバードライブはちょっとつっかえるね。それでも今までの魔導具よりはすんなりいったけど」

「さすが精霊様、といった所ですね。手抜きをしてもその辺の人間よりは遙かに上だった、と」

「そうだね」


 ノワールの分析がたぶん正解だと重い、俺は頷いた。

 オーバードライブ自体は成功したから、そのままエクリプスの力で操作しようとする――が。


「うーん、これもダメだ」

「えー、なんでだろう。じゃあめちゃくちゃ品質の低いの――うむむむ、えい!」


 オノドリムは目を閉じ、なにやら唸ったあと、三度地中から人形を取り出した。

 それは顔がまったくない、ホムンクルスと同じ見た目のザ・人形だった。


「めちゃくちゃ適当につくってみた!」

「そうみたいだね。男の子か女の子かもわかないもんね」


 オノドリムが新た敷く作った人形は細部のディテールとかガン無視したような、マネキンのようなものだった。


 それに手を触れ、俺も三度、オーバードライブをかける。

 オーバードライブ自体は成功した。


「どう?」

「あ、うん。やっぱりまだ高品質だけど、すごい人間が作った、くらいにはなった」

「ふう……よかった。手を抜くのってやったこと無いから大変だったよ」

「さすが大地の精霊だね」


 オノドリムを褒めて、オーバードライブで溶かしたマネキンにエクリプスの力をむける。


「……うーん」

「またダメ?」

「うん。全然だめ、うんともすんともいわない」

「あたしが作ったのじゃダメなのかな」

「そんな事はないと思うけどね。オーバードライブが出来るって事は『めちゃくちゃすごい道具』ということだから」

「じゃあ死者を操る力だけ使えないのはなんでだろう」

「ねえノワール。あの人が最後につくったホムンクルスって、もしかして誰かの遺体を流用した物?」

「いいえ、一から作りあげた物です。ご主人様が今思っているような、材料が遺体かどうか、には該当しないかと思います」

「うーん」

「ちょっと待ってね」


 オノドリムはそういい、どこかに飛んでいった。

 それを待つ間、俺は水間ワープでホムンクルスの完成体と、海神ボディを取り寄せた。

 ホムンクルスはオーバードライブすれば操れるし、海神ボディは普通に操れた。


「力そのものがなくなったわけではないようですね」

「そうみたい」


 念の為の確認で力そのものは問題なしと判断した俺。

 現状を不思議がりながらオノドリムを待った。


 しばらくして、オノドリムは戻ってきた。

 手に小さな土偶をもっていた。


「これは?」

「大昔――ほんっっっっとうに大昔に、あたしを祀るために人間が作った物」

「原始的な偶像信仰ですね」


 これまで黙っていたヘカテーが口を開いた。

 信仰の事だから意見を出してきたってかんじだ。


「もうそんなに残ってないけど、埋まってて朽ちてないヤツを持ってきた」

「これをつかえってことだよね」

「うん」

「……これってすっごい歴史的な価値があるものだよね」

「どうなんだろ」

「学術的にはおそらく値がつけられないほどの代物かと。大地の精霊自らが本物だと証明しておりますし、なおさらです」

「だよね」


 オノドリムはけろっといったが、ヘカテーと俺はその価値を理解して、俺はそれにオーバードライブするのにためらった。


「いいからいいから、やってよ、ね」

「う、うん……じゃあ……」


 俺はおそるおそるオーバードライブを土偶にかけた。

 頼む壊れてくれるな――と神に祈りつつオーバードライブをかけた。


 幸いにも、オーバードライブ自体は成功した。

 土偶はいつものように溶けて形をかえた。


「どう?」

「うん…………動かせる」

「あれぇ!?」


 オノドリムは素っ頓狂な声を上げた。


「なんでなんで? なんであたしのがダメでこれはいいの?」

「なんでなんだろう……」


 俺は色々と考えを巡らせた。

 今までエクリプスの力で操作できるのもあわせて、頭の中で比較しながら考えた。


「もしかして、作っ――」


 言いかけた、口をつぐんだ。

 ちらっとヘカテーをみる。

 ヘカテーはきょとん、とした顔で小首を傾げ俺を見つめ返してきた。


 伝わってないようでほっとした。

 全くの推測だが、それでも伝わってなくてホッとした。


 が、一方で。

 ノワールは「わかっていますよ」的な顔をしていた。


 俺は苦笑いした。

 あくまで俺の推測でしか無いんだが。


 マテオボディ、ホムンクルス、そして土偶。

 それらの共通点に、もしかして「制作者が死んでいる」というのが頭にうかんだ。

 エクリプスの力は死者を操るちから。

 マテオボディはレイズデッドがらみである意味「死体」だが、オーバードライブを挟んだホムンクルスと土偶はまったく死体ではない。

 だから俺は、「制作者が死んでいる」と推測してしまった。


 して、しまった。

 そしてもうひとつ、操れたものがもうひとつ。


 海神ボディ。


 「神は死んだ」という言葉が頭に浮かんで、それは決してヘカテーの前では言葉にしてはいけないと慌てて口をつぐんだのだった。

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