11.魔法の天才
俺の屋敷の中。
普段は使われていない空き部屋。
そこを急遽、机と椅子、そして教壇と黒板を置いて、教室らしくした。
学校の「箱」が落成するまで、ここで授業を受けることにした。
俺がじいさんに「おねだり」して、授業だけ前倒しにしてもらった。
知識と同じで、魔法もスキルで、力だ。
それを身につける機会があるとなっては、逃す手はないってもんだ。
俺に「おねだり」されたじいさんは。
「おお! さすがマテオじゃ。その歳でその向上心……うむ、ならばすぐに教師だけでも来させよう」
と、大喜びで手配してくれた。
その教師が今、俺の目の前の教壇に立っている。
俺は教師と向き合って生徒として席に着いていて、チビドラゴンのエヴァは俺の足元で丸まって大人しく寝ている。
「初めまして。わたくしはカール・トラウンと申します」
「よろしくお願いします。マテオ・ローレンス・ロックウェルです」
心の中で思っているのと違って、俺は人前で話す年相応な口調でカールに返事した。
「はい、よろしくお願いします、マテオくん」
カールはそう言い、黒板にカッカッと、チョークで文字を書いた。
「今日はまず、魔法の前の、魔力についての総論を話したいと思います」
「総論、ですか?」
「はい。まず、魔力は二種類あります。呼び名は様々ありますが、もっともポピュラーなのは白の魔力と黒の魔力という分類です」
「ふむふむ」
俺は興味津々と頷いた。
いよいよ魔法の話になって、俺はカールが教えてくれることを一つも聞き漏らさないぞっていう感じで聞き入った。
「基本、人間の体内にあるのは黒の魔力のみです」
「モンスターが白の魔力を持っているのですか?」
俺は手を上げつつ質問した。
「いい質問ですね。でも残念、モンスターは白と黒、両方を持っています」
「そうなんだ」
それは意外。
白と黒という分け方だから、てっきり人間とモンスターが相反する物を持っているんだと思ってた。
「ここからが重要です、いわゆる魔法と呼ばれるものは、白と黒の魔力、両方を使わないと発動できません。二つの魔力に関する詳しい話は総論が終わった後になりますが、二つを練り上げて、世界の『普通』を変える現象を引き起こします。それが魔法です」
カールはそう言って、両手を胸のあたりで何かを包み込むような形をした。
両手から違う光が灯って、手の間に小さな氷ができた。
「なるほど……あれ? でも人間は黒の魔力しかないって今カール先生いわなかった?」
「いいですね、ちゃんと話を聞いてたようです。そう、人間は黒の魔力しか持っていません。こういうどっちか片方しか持っていないのを『ストレート』、両方持っているのは『クロス』っていいます。ああ、これは総論が終わった後にもっと詳しく説明しますので、今は覚えなくて結構」
カールはゴホンと一度咳払いしてから。
「魔法を使うというのは、疑似的にクロスにするということです。黒の魔力を一部白の魔力に体の中で変えてから、二つを混ぜて魔法を使うのです」
「なるほど」
そういうことだったのか。
「だから、人間はモンスターに比べて使える魔法が弱かったりするんだね」
俺は何かの本で読んだ――というより前の人生から体感的に知っている事を口にした。
「その通りです! 素晴らしいですよマテオくん。そういう推論する考え方、これからもずっと忘れない様にしてください」
カールが満面の笑みで俺を褒めた。
出来のいい生徒を見つけてご満悦って顔だ。
「そう、モンスターは最初からクロス、魔力変換する必要がないから、おのずと魔法が使いやすく、難しい魔法も使えるのです」
「……ってことは」
俺はあることを思い出して、両手を突き出し、さっきのカールと同じようにした。
手の平をお椀型にして、両手を向き合わせて球状にする。
その間に――氷。
魔力が光を放って、両手の間に一粒の氷ができた。
「なるほど、こういうことだったんだ」
「……」
「あれ? どうしたのカール先生。ぼく、何か変な事をした」
「え? い、いえ。魔法が使えたんですか?」
「ううん、今のが初めてだよ」
「じゃ、じゃあどうしてできるのですか?」
「エヴァに触れた時の事を思い出したんだ」
「みゅ?」
足元でずっと物静かに寝ていたエヴァが顔を上げた。
「そのドラゴンに触れた時?」
「うん、エヴァに魔力を送ってたけど、なんか自分のと違うなあ、って思ってたんだ。今の話を聞いて、ああそれがクロスで、白と黒だったんだ、って思い出して。だったらエヴァみたいにやれば、って」
「……」
カールは絶句し、目をみはった。
「そ、その程度の事でできるように……? 公爵様の度の過ぎた自慢ではなく、本当に天才……?」
と、信じられないって顔をしていた。
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