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102.二人の握手会

.

 街から離れた郊外。

 宵闇の中、俺はエクリプスと二人っきりでいた。

 オノドリムはなにやら気を使ってくれたらしく、ついてこないで俺とエクリプスを二人っきりにした。


 というか、エクリプスに俺と二人っきりの時間を作ってくれた、が正解なのかな。

 「長い間寂しかった」が共通点なオノドリムとエクリプス。共感するところがあってそうしたんだろうなと思った。


『ごしゅじんさま、ろうしたのれす?』

「ああいや、なんでもない。えっと……ここでいいのかな」

『はいれす、たくさんいるれす』

「うん、たしか何年か前に大きな合戦があった所だね」


 俺はまわりを見回した。

 まるで新月のような真っ暗な中にいてもよくわかる、だだっぴろい原っぱだった。

 昼間であれば地平線が霞んで見えるような、それくらいとにかく開けた空間だった。


 エクリプスの指示に従って、ここにやってきた。


 俺は視線を下に向け、地面を見つめた。


「……やっぱりたくさん?」

『すごくたくさんなのれす』

「まあ、合戦があったわけだしね」


 俺は納得して、頷いた。

 納得はしたが、心境は複雑なままだ。


 たくさんある、というのは遺体の事だ。


 やはりというかなんというか、エクリプスは自分の力が俺の役に立てる事を嬉しがった。

 夜の太陽、闇の力。

 死者を操り動かす力。


「ネクロマンサー……っていうのかな、これって」

『ちょっとちがうれす』

「なにがちがうの?」

『にんげんのネクロマンサーはかららにむりやりたましいをいれてうごかすのれす』

「ふむ」

『エクリプスのちからはかららをうごかすらけなのれす、たましいはいらないのれす』

「あ、そうなんだ」


 俺は「へえ」と思った。

 同時に、少しだけ気分が楽になった。


 いや――大分、かな。


 なんとなくだけど、俺は「死者を冒涜している」的な気分になっていたのだ。

 遺体を操り動かすとなるとどうしてもそういう考え方が頭をもたげてくる。


 だけどエクリプスの説明がほんとうなら、遺体は遺体、魂は魂。遺体を操ることは魂を無理強いし冒涜する事にはならない。


 だから気が楽になった。

 もともと人間としてそういう考え方もあったけど、たぶん、マテオとして転生し前世の記憶を持ったままという状況が、「魂」というものの存在を常日頃から意識している事もあって。

 だから、魂に無理強いしないというのをしってかなり気が楽になった。


 そうなると、むしろ興味を持ち始めた。

 この力でどこまでできるのだろうか、と。


「じゃあやってみるね」

『はいなのれす!』


 俺は海神ボディがもつ力で、エクリプスから授かった技を行使した。


 すると、瞬く間に。

 畑の萌芽の如く、次々と地中からガイコツが出てきた。


 大半は白骨化した腕をまず突き出してから、土を「ぶち破って」でてくるのだが、すくないけど中には足からとか、頭からとかのパターンもあった。

 そうして「にょきにょき」がつづいた結果、三分と立たないうちにガイコツが数百と地中から現われたのだ。


「これはまた……すごいね」

『ごしゅじんさますごいれす、たくさんよびらしたれす』

「細かい操縦はできそうかな、と」


 俺は意識をそっち(、、、)に集中させた。

 なんとなく、赤ん坊に転生した直後のような感覚だった。


 体の動かし方は分かるのに、いまいち思いどおりに動かない。

 そんな不思議な感覚だった。


 それでもやっていくうちにコツがつかめてきた。

 コツを掴んで、ガイコツの一体を操縦して、エクリプスの前まであるいて来させた。


「エクリプス――えっと、その翼、手みたいにできる?」

『ろういうことなのれす?』

「こんな感じ」


 俺はそういい、自分の手をつきだした。

 握手をする様な仕草で突き出した。


『こうれすか?』


 それをみたエクリプスは白い翼の一枚を似たような感じで突き出した。

 逆さまになっている顔の、ほっぺの横を通り過ぎるような形で前に突き出した。


 その翼にむかって、ガイコツを操縦して、手を突き出して掴んだ。

 掴んだまま、上下に動かす。


『ごしゅじんさま? なにをしてるれすか?』

「握手」

『あくしゅ?』

「そう」


 俺はまず頷いた。

 頷き、更に操縦する。


 握手したガイコツの手を離し、下がらせる。

 そして別のガイコツを操縦して、またエクリプスの前に来させて、翼を握って「握手」した。


『ろういうことれす?』

「握手……会? かな、そんな言葉ないけど」


 俺は少し考えて、この状況に一番ぴったりそうな言葉を作った。

 次々とガイコツを操縦して、代わる代わるエクリプスと握手をさせた。


『ごしゅじんさま……?』

「ごめんね、自己満足なんだ」

『じこまんぞく?』

「そう、エクリプスがこうやって人気者で、ちやほやされてる姿。なんかそういう光景がみたくなったんだ」

『ごしゅじんさま!』


 エクリプスはガイコツを体当たりで突き飛ばして、俺にもタックルしてきた。

 そのまま俺を押し倒して、俺のうえでごろごろする。

 逆さ顔の巨体が俺に甘えてきた。


『ごしゅじんさま、ごしゅじんさま! ごしゅじんさま!!』


 まさしく感極まった、という感じで俺にじゃれつくエクリプス。

 よかったとおもった。

 長い間さみしがってた子だ、それをすこしでも喜ばせたい。

 そう思ってやってたから、上手くいってよかった。


 しばらくじゃれ合ってから、エクリプスはなにやら「はっとした」ような感じになって、俺の上から退いた。

 そのまま俺の横に並んできた。


『ごしゅじんさま、するれす』

「ああ」


 俺は起き上がった。頷き、またガイコツを操縦して握手を再開した。


『ごしゅじんさまもするれす』

「俺も? こういうこと?」


 首をかしげつつ、別のガイコツを操縦して、自分と握手させた。

 ガイコツを操縦するだけじゃなくて、自分と握手までさせるという、ものすごく不思議な感覚になった。

 ガイコツだから文字通り「骨張った」手なのがまた不思議さに拍車をかけた。


『はいれす、いっしょにするれす』

「そうか」


 俺は頷き、そうすることにした。

 それでエクリプスが嬉しくなってくれるのなら、ちょっと操縦の手間が増えるだけでやらない理由はない。


 俺とエクリプス、二人の握手会が繰り広げられた。

 次々とやってきては、握手をして離れていくガイコツ。

 エクリプスは高いテンションを維持し続けたので、俺もそれに付き合ってやった。


 最終的に「何周」する事になるのかな、と、そんな事を思っていると。


 むにゅ――って感触がした。

 握手した手が「骨張った」手じゃなかった。


 どういう事だ? と、流れ作業になりつつあって見ていなかった握手の相手をみた。


 すると、そこにいたのはガイコツじゃなかった。

 執事服を着た、宵闇の中でも際立って見える漆黒の髪をした青年だった。

 それだけじゃなく、目の白目と黒目の部分も「逆転」している。


「お初にお目にかかります」

「……君は?」

「私の名はノワール・マヴロ」


 青年はにこり、と微笑んで。


「あなた方が悪魔と呼んでいる存在ですよ」


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