この命ある限り *Walter side
番外編、ウォルター視点です。(リクエストのふにゃ〜な感じに出来ているか…な?)
時系列は現世ヴィクターと同時期、戴冠式前です。
フェリーシナに、リゼットやヴィクターにも言えない、魔法を使えなくなった彼の本心を話すというお話です。
―――……ふと偶に思い出す。
亡くなった母さんが、口癖のように言っていた言葉。
“私達はこの魔法を、考えて使わなくてはいけないの。
そうしないと、自分の命を削るだけでなく、周りを不幸にさせてしまうからね”
その言葉の意味が幼い頃は良くわからなかった。
その意味が初めて嫌という程思い知らされたのは、私と同じ“短命”という運命を持つ母さんを目の前で失くした時。
“透視魔法”を持つ自分は、弟のヴィクターや父さん、メアリーさんとは違い、周りに不幸を与えてしまう。
結果的にそんな家族をバラバラにしてしまったのも……、私の所為だ。
(私のこの魔法は、“呪縛”)
本来、人が持つべき能力ではなかった。
ただその能力を、何の因果かこうして手にしてしまった。 生まれながらにして一生つきまとう“呪縛”は、その名の通り命も、心さえも蝕んでいった。
そして、母さんはこうも言った。
“貴方は、悔いの残らないように生きなさい”
それが、生前最期に言われた言葉だった。
「……悔いの残らないような生き方なんて、何処にもある訳がないじゃないか」
そう吐き捨てるように口にした言葉は、宵闇が広がる空へと溶けていったのだった―――
「……うん、魔法による副作用は現れていないわね」
そう言って彼女は、ブロンドの髪をさらりと揺らし、翡翠色の瞳を優しく細めて笑った。
「あぁ、有難う。 フェリーシナさん」
「どう致しまして」
彼女はサラサラと、何かをメモに書いていく。
「? 何を書いているの?」
「これはね、私の後……後世の“古の魔女”に伝える為の資料を作成しているの。
要するに、解呪魔法を使ったことによる術者である私と、かけられた貴方に起きた体の異変とかを記録として残しているの」
「なるほど、私達は実験体ということか」
「……まあ、そうなるわね」
何でもない風に言うのね、と彼女は苦笑いを浮かべて言った。
そんな彼女に、「まあ慣れているからね」と笑って返せば、彼女はふっと笑みを消して言った。
「……貴方は、本当に“後悔”していないの?」
突然かけられた言葉に、一瞬言葉を失ったがすぐに口を開く。
「……何のこと?」
「隠さなくて良いわ。
……リゼットちゃん達には“大丈夫”と言っていたけど……、本当は、突然魔法を使えなくなって不安なんでしょう?」
「! ……はは、フェリーシナさんにはやっぱり、何でもお見通しなんだね」
「まあ、私は“古の魔女”だから」
そう言って彼女は曖昧に笑った。
その笑みが少し気になったものの、私はギュッと拳を握り……、“本音”を口にした。
「本当は……、怖いんだ。
今迄手に取るように分かっていたものが、突然分からなくなってしまったから」
生まれた時……とは言ってもあまり覚えてはいないけど、少なくとも物心がつくより前から、人の目を見るだけで心が読めるようになった。
その人が何を考え、何を感じているのか。
それは大人になるにつれて、より詳しく分かるようになっていった。
「……握手をしただけでその日の夜、その人の記憶らしき夢を見たり、戦争で敵国の戦略を把握する為に、遠距離にいる人の心を読めるようにもなった。
そういった魔法は……、大人になるにつれて突然現れるようなものもあって。
……徐々にその魔法と共に汚い大人達の心を読んでいく内、自分の心もコントロールすることに慣れていった」
そんな自分が怖くなった。
心が、感覚が麻痺していく。
人に対して嫌でも見る目が変わり、どんどん自分が強かになっていく気がして。
いよいよもって自分が嫌になって、早くこの運命から逃れたい。
そう思っていたある日。
「私の目の前に現れたのが、彼女……、リゼット嬢だった」
「! ……彼女が、此処へ来た時ね」
フェリーシナさんの言葉に頷き、私は自分の掌を見つめる。
「リゼット嬢は……、フェリーシナさんも知っての通り、不思議な魂の持ち主だった」
家族を守るため。
その思いを胸に、彼女は深い傷を負った原因でもあるこの国へ、前世をやり直すために嫁ぐことを決意してやって来た。
「そんな彼女の見てきたものが気になって……、私は彼女に自ら握手を求めた」
「!」
私の言葉に、フェリーシナさんが瞠目する。
そんな彼女を見て薄く笑みを作り、口を開いた。
「彼女の“夢”のなかの世界で私が見たのは……、変わり果てたこの家の末路だった」
「……っ」
フェリーシナさんは息を飲んだのが分かる。
私も無意識に、ギュッと拳を握った。
「誰一人、幸せになることのなかった世界。
それだけではなかった。 その中には当然、私の姿は一度も映し出されなかった」
何となく勘付いていた。
彼女には前世の記憶がありながら、私のことを知らないようだったから。
「やっぱり、私はこの“短命”という運命からは逃れられないんだと。
……そう、思っていた」
でも。
「彼女は……、リゼット嬢は諦めなかった」
「!」
私はそう言って、フェリーシナさんの……、綺麗な手をそっと握る。
驚き目を見開く彼女を見て、微笑み浮かべて口にした。
「諦めなければ必ず報われることを……、彼女は証明してくれた。
彼女には感謝しても感謝しきれないんだ。
こうして貴女に命を救ってもらえたのも、生きて貴女に出会えたことも」
「……!」
短い運命でも何でも良い、そう思っていた。
だけど。
「今は……、少しでも長く生きたいと、心から思っている」
この命が、心臓が、あとどれ位続くかは分からない。
フェリーシナさんは“本来ある寿命”まで生きられるとそう言ったけど、それがいつまで続くかも分からないし、下手をしたら明日、明後日かもしれない。
それに、絶対なんていう言葉はない。
だから。
「……私は、命ある限り貴女と時間を共にしたい」
「っ!」
そう言って、彼女の手を持ち上げ、そっと口付けを落とす。
そして驚く彼女に向かって……、口を開いた。
「それが私の、“悔いの残らない生き方”だと思うから」
生前、母さんに言われた言葉。
その言葉の答えが今、ようやく分かった。
(……私の考える、悔いの残らない生き方は)
―――……大切な人達と歩む一瞬一瞬の時間を大切にすること。
「その言葉は……、貴女のお母様が仰ったのね」
「!」
彼女は……、翡翠色の瞳から一筋の涙を零す。
その綺麗な涙に思わず見惚れてしまえば。
彼女はそんな私の顔に顔を近付け……。
「!」
そっと頰に口付けられる。
今度は驚く私に向かって、彼女は微笑みながら口を開いた。
「その考え……、素敵ね。 勿論、私も賛成よ。
……そもそも、私は貴方のことが好きでなければ此処にはいないわ。 王国は今まで敵とみなしていたしね」
「! ははっ、つまり私に下心があったから、此処に残ってくれたと」
「!? あ、貴方は本当に何でもストレートに物事を言うのね……」
その言葉に、少し笑ってみせる。
「わざとそうしているんだ。
魔法を持たなくなった今、自分の心を伝える為には回りくどい言い方ではなく、口にした方が良いことははっきりと言った方が良いと思うから」
「! ……ふふ、その考え方にも賛成だわ」
そう彼女は楽しそうに笑えば、「あ、そうだ!」と人差し指を立てて言った。
「貴方が魔法を使えなくなった代わりに、私が貴方に近付いてくる悪い考えを持つ方々を追っ払ってやるわ!」
私も大体は人の心が読めるし! と笑って言ってみせる彼女に、「勇ましいお姫様だね」と言って思わず二人、顔を見合わせて笑い出す。
そして、お互いの手を握り……、コツンと額を寄せ合った。
―――いつも無意識に探していた。
自分が生まれてきた意味を。
生きている意味を。
短命という運命を背負ってまで持ってしまったこの魔法は、
災いでしかないのだと。
そんな変えることなど絶対不可能な運命を変えてくれたのは、
他でもない大切な人達だった。
“貴方は、悔いの残らないように生きなさい”
今ならその言葉に対して、
はっきりと返せる。
“この命ある限り、大切な人達と共に過ごす。
それが私の、後悔しない生き方だ”と―――




