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【書籍全二巻発売中】その政略結婚、謹んでお受け致します。〜二度目の人生では絶対に〜【コミックス第一巻発売中】  作者: 心音瑠璃
第1章

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5.

 

「ど、どうしてここへ?」


 ヴィクターの“関わるな”という言葉が脳裏で蘇る。


(流石にこんなに堂々と、彼方から現れるなんて思わなかったわよ……! というかヴィクターに伝わったらまた面倒なことに……)


 思わず頭を抱え込みたくなるこの状況に反し、ウォルター殿下はさらりと言ってのける。


「こうでもしないと、あのやきもちやきのヴィクターが君を私から引き剥がそうとするからね」

「や、やきもち……?」


 ウォルター殿下はヴィクターが、そんなに私に執着しているとでも思っているのか。

 それは大きな勘違いだ、と心の中で呟きながら私は至って冷静に言葉をかける。


「では、どのような御用件で?」

「おっと、冷たいね。 用がなければ来てはいけないのかい?」

「いえ、そういうわけでは……」


 私は第一王子を怒らせてはいけないと思い口を閉ざせば、ウォルターは「あぁ、大丈夫怒ってないから」と笑って言い、私の向かいの席に座った。


「えっと……」


 その状況がよく分かっていない私に対し、ウォルター殿下はチラリとアリーを見て言った。


「ごめんね、少し席を外してもらえるかな?

 すぐ終わる話だから」

「! は、はい!」


(ゔぃ、ヴィクターから“ウォルターを近付けるな”とは言われていないのかしら……?)


 そんな心配をよそに、アリーはすぐにその場を退出し、私とウォルター殿下の二人きりになってしまった。


(……うっ、何この状況)


 ウォルター殿下とこうして面と向かって話すだなんて、ありえないと思っていた。

 しかも、こんなに早く……。


「……手短に。 単刀直入に聞いて良いかな?」

「……え?」


 ウォルター殿下の青い瞳に見つめられ、私は思わず返しが遅くなってしまう。 それに気付き、慌てて「はい」と返事をすると、ウォルター殿下は微笑みながら言った。


「そんなに緊張しなくて良い。

 ……ヴィクターに“関わるな”くらい言われているだろうけど、別に私は君を敵視していたりなんてしないから。 むしろその逆」

「そう、ですか……」


 私の曖昧な返事に、ウォルター殿下は苦笑いしたものの、話を切り出す。


「さて。 ……そうだな。

君は、ヴィクターのことをどう思っている?」

「!? ヴィクター、殿下のことをですか?」

「うん」


(急に聞かれても……、どう答えたら良いのか)


 私は一瞬逡巡したが、少し考えてから言葉を紡いだ。


「……掴めない、方」

「! ……ぷっ、掴めない人ね」


 私の言葉に吹き出して笑うウォルター殿下に対し、私は慌てて謝罪する。


「申し訳ございません、ウォルター殿下」

「いや、何も謝る必要はないよ。

 確かに、側から見たらその通りだからね」


 まあ、私もだけど。

 そう言ってふっと笑うウォルター殿下には、自嘲が込められている気がした。

 私が何か言おうと口を開きかけた時、殿下が先に口を開いた。


「“掴めない人”……、確かに、今はそうかもしれない。

 ただもしかしたら、この先……、君の言動一つで、大きく彼が、未来が変わるかもしれない。

 それを願って私は、君に頼みたいことがある」

「?」


 疑問を浮かべる私に対し、彼は……、頭を下げた。


「!? で、殿下!?」


 頭をお上げください!

 慌ててそう言った私に対し、ウォルター殿下は頭を下げたまま、口を開いた。


「……ヴィクターと、正面から向き合ってやってほしい」

「……え」


 私は思いがけない言葉に驚く。

 ウォルター殿下は頭を上げて、こちらを見たその表情は真剣だった。


「君なら、ヴィクターを……、あの子を救ってあげられる」

「す、救うって、何を……」


 私の問いに対し、ウォルター殿下はじっと私を見て言った。


「君なら、分かるはずだ。 あの子の抱えているものが。

 ……私にはもう、救えないから。

 君の力が、必要なんだ」

「……!」


 “私にはもう救えない”。

 その言葉とその表情で思った。

 ウォルター殿下は、ヴィクターのことを心から思っている。 だからこうして、あの人の目を盗んで私に会いに来ているんだと。


(だからって……)


「……私には、何も出来ません」


 私は膝の上で拳を握った。


(だって、それがもし前世で出来ていたら、私が今ここにいる意味だって)


「それは、一体誰が決めたの?」

「え?」


 ウォルター殿下に尋ねられ、私は口を閉ざす。

 だがウォルター殿下は、その後すぐに耳を疑う言葉を私に投げかけた。


「……君は、“未来”を変える為にここへ来たのではないの?」

「!?」


(……ど、どうしてそれを……)


 ウォルター殿下が知っているの……?


 その時。


「っ、ウォルター!!」


 バンッと、その声と共に扉が開いた。

 私は入ってきた人物を見て固まった。


「あーあ、時間切れ」


 もう少し遅いかなと思ったんだけど、と呑気に笑うウォルター殿下に対し、ヴィクターは鬼のような形相で彼に歩み寄ると……、彼の襟元を強い力で掴んだ。


「……何の話をしていた」


 そう地を這うような声に、思わず私は背筋が凍る。

 ウォルター殿下はそれでも、余裕たっぷりの表情で、まるで挑発するかのように軽口を叩く。


「相変わらず怖いね、ヴィクターは。

 ただ彼女に、少し興味があっただけだよ。

 あ、恋愛対象とかそんなんではないから安心して。 ね、リゼット」

「「!!」」


(ちょ、ちょっと!! どうしてそこでいきなり呼び捨てなのよ!?)


 ヴィクターもヴィクターなら、ウォルター殿下の本心も分からない。

 よく分からない状況下で、ただ、ヴィクターとウォルター殿下の温度差が凄すぎて、私は全身血の気が失せる。


(ど、どうしよう……!)


「っ、てめぇっ……!!」


 ヴィクターがウォルター殿下に向かって拳を振り上げる。


「!! ちょ、ちょっと待って下さいヴィクター殿下!!!」

「「!」」


 兄弟同士で喧嘩をするのは仕方がないかもしれないが、彼らは王族。 話は別である。


(しかも戦場を駆け回るヴィクターの拳なんてまともに食らったら、大怪我だわ!)


 なんて思った私は、咄嗟に間に割って入り、ヴィクターの拳を止めた。

 ヴィクターは私が掴んだ手を見ながら、氷点下を下回る目で私を見て言った。


「……どうしてこの男を庇う」

「あ、貴方が喧嘩で手を出そうとしたから止めただけです。

 ……それに、ただ私はウォルター殿下と他愛もない話をしていただけで、大丈夫ですから」

「それの何が大丈夫なんだ」


 そんな押し問答を繰り広げる私達に対し、ウォルター殿下は突然、あははと大きい声で笑い出した。


「……何がおかしい」


 ヴィクターは私と口喧嘩をするより大分低い声で、そう口にすると、ウォルター殿下は笑いながら言った。


「いや、気を悪くしたなら謝るよ。

 だけど……、そうだね、君は良いお嫁さんをもらったね」

「……許嫁なんだが」

「行く行くは君と結婚するってことでしょ。

 ……まあ、その手を離されないように頑張ってね」

「!!」


 ヴィクターの拳がもう少しで上がりそうになったのを、私は慌てて押さえると、ウォルター殿下はククッと笑いながら去って行った。


(……まるで嵐のようだった……)


 そんなウォルター殿下を見送った後、どっと疲れが出た私は席に座ろうとしたが……、その私の手を強引に引っ張り、ヴィクターは再度席に着くことを許さなかった。


「!? ヴィクター殿下?」

「……来い」


(ひぃぃぃ怒ってる……!)


 私は何となく身の危険を感じ、何も言わずにただされるがまま、大人しくその言葉に従う。

 私達が部屋から出た時、待機していたアリー達が驚いているのが見えて、私は手で「ごめんなさい」の意味をこめて掴まれていない方の手を縦にして顔の前に置いた。


(あぁ、折角の美味しい料理が台無しに……)


 そんなことよりこの後、私は無事に解放されるかが心配で、ただただ自分の無事だけを祈ることに集中することにした。






 ヴィクターに連れて行かれた場所は、薄暗い部屋だった。


(……って、ここは)


 私は見覚えのある部屋に、再度頭を抱えこみそうになった。


(ヴィクターの自室……!)


 わざわざこんな場所に連れてきて、ヴィクターは一体何がしたいのか。

 もうよく分からない、どうにでもなれと思っていた私に対し、ヴィクターは私を寝室まで連れて行き……、って寝室!?


「ちょ、まっ……!?」


 嫌な予感は的中する。

 反転した視界。 そしてその視界には冷たい表情のヴィクターの顔が広がったのだった。


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