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【コミックス第二巻4/30発売】その政略結婚、謹んでお受け致します。〜二度目の人生では絶対に〜【書籍全二巻発売中】  作者: 心音瑠璃
第2章

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10.

 メアリー様と別れ、城に戻る頃には、綺麗な星々が藍色の空で輝いていた。

 私はメアリー様から借りたランプに魔法で火をつけ、ヴィクターの隣を歩く。


「……リゼット」

「? 何?」

「有難う」


 彼の真っ直ぐなその言葉に、私は反射的に顔を上げた。

 ランプに照らし出された彼の真紅の瞳は、私を見ていて。 そんな彼に対し、「どう致しまして」と答え、私は言葉を紡ぐ。


「……正直、余計なお世話だと怒られてしまうかと思った」

「? 君が余計な世話を焼くことなんて、しょっちゅうだろう?」

「!? そ、それは迷惑って意味よね!?」


 私が思わずヴィクターの言葉にそう食い気味に言えば、彼は「い、いや」と首を横に振って言った。


「迷惑とか、そういうことではなくて……、ハラハラするというか、驚くことはあるが……、ってリゼット?」


(それって絶対、褒めてないわよね!?)


 ヴィクターの言葉に少し落ち込んだ私は、下を向いてしまう。


「……ごめんなさい、私、すぐ無茶して危なっかしいと父にも良く叱られたものだから……。 !」


 そう言った私の頭に、温かな手が乗る。 ハッとして顔を見上げれば、彼は困ったように笑って言った。


「謝らなくて良い。 それが君の良い所でもあるんだから。

 ……あまりにも無鉄砲過ぎる行動は、此方の心臓がもたないから考えものだが……、少なくとも俺は、感謝しているんだ。

 こうしてもう一度……、母と語り合える日が来るとは、思わなかったから」

「!」


 そう言って嬉しそうに微笑むヴィクターを見て、私も思わず笑みが溢れる。


「……ふふっ、それなら良かったわ」

「あぁ。 だから、自信を持て。

 ……俺は、そういうところも含めてリゼットが好きだから」

「!!」


 今度は、不意打ちを食らった私が顔を赤くする番で。

 彼も少し顔を赤くしながら、少し先を歩く。

 そして、「俺は」と口を開いた。


「君のように、真っ直ぐに言葉を伝えることは苦手で……、さっきのように、他者に誤解を与えやすいから。

 正直、リゼットが羨ましい」

「……!」


 初めて聞く彼の言葉に、私はギュッと彼の手を握った。

 そして驚く彼に向かって口を開く。


「確かに……、ヴィクターは他人に誤解を与えやすい方なのは良く知っているわ」


 前世の時からそうだったもの、と心の中で呟く。


(……でも)


「その言動は全て、貴方なりの優しさが含まれているということもちゃんと、私は分かっている。

 だからもし、ヴィクターが誤解を与えてしまうことがあったとしても、私は貴方の味方だし、その前にその誤解を解くことに努めるわ。

 だから貴方こそ、堂々と胸を張っていれば良いの。

 ……私も、その……、そういう部分も含めて、貴方のことが好きだから」

「! ……リゼット」


 彼の真紅の瞳が、ランプに照らされた炎によって妖艶に揺らめく。

 その艶やかな色を纏い近くなった距離にハッとして、私は慌てて口を押さえた。


「ゔぃ、ヴィクター! ここでは駄目!」


 公共の場だから!

 と私が言えば、彼は一瞬がっかりしたように見たのも束の間、心なしか嬉しそうに口を開いた。


「そうか、公共の場でなかったら良いのか」

「!? そ、そそそういうわけではな……っ」


 私がそう彼に向かって反論しようとすれば、嬉しそうに繋いでいた手にチュッと、軽く口付けされる。

 きっとこれ以上ないほど赤くなっているであろう私に対し、彼は耳元で囁いた。


「城に戻るのが楽しみだな、リゼット」

「〜〜〜〜か、からかっているでしょう!!」

「さあ?」


 そう言って何処までも艶めかしく笑う何枚も上手な彼に対し、私は口では怒りつつも、彼の言動に翻弄され、心臓が鳴り止まなかったのだった。





「……さて、これからのことなんだけど」


 翌朝。

 朝食を取り終えた私とヴィクターは、私の部屋へと移動すると、私から話を切り出した。


「メアリー様から頂いたこの手帳に書かれていたことに、ざっと目を通させて貰ったの」

「!? 昨夜は遅く帰って来たというのに、それから読んだというのか!?」

「……ま、まあそういうことね」


 ヴィクターの口調に怒気が孕んだのを感じ、私は慌てて言葉を発する。


「それは兎も角!

 ……この手帳には、メアリー様が長年研究して来た、彼等の魔法……、“透視”魔法の能力、それによる疲労や体への影響などが書かれていたわ。

 レベッカ様を対象としているようだから、ウォルター殿下と体力差なんかはあるかもしれないけれど、大体は一緒と見て……、やはりこのままでは、最悪2ヶ月で亡くなるというのは本当かもしれない」

「! ……そうか」


 ヴィクターの顔が強張る。

 私も「だから、」と慎重に言葉を紡ぐ。


「陛下から時間を頂いたこの1ヶ月……、を切っている今、時間に余裕はない。

 私達が少しでも判断ミスをしてしまえば、取り返しのつかないことになってしまう」

「……あぁ」


 ヴィクターは頷き、ギュッと拳を握りしめて言った。


「要するに、判断を誤らずに的確に助ける術を見つけ出さなければいけない、ということか」

「えぇ、その通りよ。

 ……だから、私が考えたのは……、“協力者”を増やすこと」

「!? 協力者……?」


 私がヴィクターの言葉に頷けば、彼は「でも、」と口を開く。


「この魔法のことは、国の重要機密だぞ?

 口外することは」

「そうなの。 ……だけど、私達だけではとても、手が回らないと思う。

 これだけの情報量を、何年もかかって行なっているということは、この1ヶ月だけでは十分な情報収集は出来ないと思う。

 ……だから以前、陛下が考えたことを行動に移してみようと思うの」

「父さんが、考えたこと……?

 それは一体」


 ヴィクターが首を傾げたのを見て、私はそれを説明するべく口を開いた……。





 ……ガタンッ、ガタン。

 揺れる馬車の中。

 窓の外の移り変わる景色を、ヴィクターは興味深そうに見つめて言った。


「長閑な場所なんだな」

「貴方の国とは違って、ここは街より自然の方が多いの。

 ……そういえば、ヴィクターはマクブライドに来るのは初めて?」

「……戦地を駆け回って国境に居たくらい、だな」


 そう暗い表情で言う彼に、私は慌てて言葉を発する。


「そ、そうなのね。

 でも、ここもイングラム国に負けず、とても良い所なのよ。

 自然が豊かで、農作物も豊富に取れるの。

 今度来る時は私が案内するわ。

 ……と言っても、城下にはあまり降りたことはないから、森しか案内出来ないと思うけれど」


 そう言って肩を竦める私に対し、彼は「そうか」と微笑みを浮かべて言った。


「君の生まれ住んだ場所を訪ねるのは、とても楽しみだ」

「……そう言われると、何だか恥ずかしいわ」


 私がそう言ったのと同時くらいに、走っていた馬車が止まった。

 私は「着いたみたい」と言って、扉を開けてその地へ降り立つ。

 彼も馬車から降り立ったのを見て、私は少し畏まったように笑みを浮かべて言ってみせた。


「ようこそ、ラザフォード家へ」


 そう言ってから私は、久しぶりに訪れた、生まれ育った家を見上げて小さく、「ただいま」と口にしたのだった。





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