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本日より第2部の更新を開始させて頂きます!
宜しくお願い致します…!
豪華絢爛な大広間の中。
私はヴィクターによく似た、でも纏っているオーラの違うその方を、挑むように真っ直ぐと見つめた……。
“陛下と話がしたい”
そう言った私の願いはすぐに届けられ、まだ夜も明けきっていない空の下、人払いを済ませた部屋に、私とヴィクター、それから陛下の三人だけがその空間を共有していた。
(……やはり、何度この空気を味わっても慣れるものではないわね)
ヴィクターも似たような空気を纏ってはいたが、ここまで凄まじいオーラを発したりはしなかった。
他者に有無を言わさない、眼光の鋭い瞳。
白髪混じりの髪は短く、眉間に深く皺を寄せるその姿は、圧倒的な存在感を放っている。
……それでも、私は怖気付いてはいけない。
この方の決断を覆さなくてはならない。
これ以上、罪を犯して欲しくはないから。
「陛下、時間がないので単刀直入に言います」
「!」
まるで睨み合うような、ピリピリとした空気を破ったのは、ヴィクターだった。
ヴィクターはすっと息を吸うと、私の隣から一歩前へ進み出て言葉を続けた。
「これ以上戦争をするのはおやめください」
「……何?」
陛下の眉間に更に皺が寄る。 ヴィクターはそのまま言葉を続けた。
「ウォルター殿下の意識がない今、これ以上罪を増やすおつもりですか」
「……に何が分かる」
「っ」
「!」
陛下は玉座から立ち上がり、ヴィクターに歩み寄ると……、その胸倉を掴んだ。
「ヴィクター!」
「……くっ」
私が慌てて止めようとしたが、陛下はより一層その手に力を込めて言った。
「っ、貴様らに何が分かるっ!
家族の苦しみを、救ってやりたいというこの気持ちが……!」
(っ、それって……、ウォルター殿下のこと?)
私はそんな考えがよぎったが、それより今は陛下を止めなければ、と強硬策にでる。
「「!?」」
「っ、おやめ下さい、陛下」
私の力ではかなわない。
そう思った私は、陛下の顔の真横に火を出現させる。
「……ふっ、今度は脅しか」
「脅しではありません。 ……ウォルター殿下に、頼まれたから」
私の口からウォルター殿下という言葉を聞いた陛下は、ピクリと眉を寄せ、「何だと?」と今度は私に鋭い眼差しを向ける。 その隙に、ヴィクターはその腕から抜け出し、軽く咳をしながら乱れた襟元を直した。
その代わりに向けられた陛下の視線から目を逸らさず、ゆっくりと口を開く。
「……ウォルター殿下に頼まれたのです。
ヴィクターを含め、貴方のことも救って欲しいと」
「っ!? ウォルターが貴様に、そんなことを頼むというのか!?」
「これは事実です。 ……今日、私の夢にウォルター殿下が現れました。
彼の魔法をご存知なら、それが可能なこともご存知ですよね?」
「っ、貴様は何処まで人の内情に首を突っ込めば気が済むのだっ! この家のことに首を突っ込んだらどうなるか、忠告しただろう」
「!?」
その言葉に驚いたのは、ヴィクターの方で。
(……私、彼にそのことを言ってなかったから)
私はヴィクターに向かって「ごめんなさい」と小さく謝ってから、陛下に向き直った。
「……確かに、私は貴方方家族にとっては部外者も同然です。
ですが! ……私の婚約者様も、その大事なお兄様も苦しんでいるというのに、それを助けずにいるなんて、私には出来ない!」
「っ!」
陛下が私の剣幕に一瞬怯んだのを見て、私はそのまま言葉を続けた。
「貴方なら分かるはずです! 愛している人を守りたいという気持ちが!
ウォルター殿下だってヴィクターだって、同じ気持ちなんです! 陛下がウォルター殿下を守りたいと思うのと同様、皆心から大切な人を守りたいと思う気持ちは一緒です!
……それに、ウォルター殿下は弱り切っている体を振り絞って、魔法を使うことで私の夢の中へ入ってまで、自身の願いを私に託したんです。
……その意味が、陛下にはお分かりですよね?」
私の言葉に、陛下は口を閉ざす。
そして、ギロッと私を睨んで言った。
「そんなことを言って本当は、ただ戦争をさせたくないだけだろう?
君の大事な人とやらを……、ラザフォード辺境伯を守りたいがための出鱈目だろう」
そう言った陛下の言葉に、私は反論する。
「っ、出鱈目ではありません!
……確かに、家族もヴィクターも、危険な目に晒したくないというのは一番の理由かもしれません。
だけど、ウォルター殿下もそれは同じです。
もし……、陛下がウォルター殿下のためを思っているのならば、戦争をするべきではありません。
幾ら彼のためとはいえ……、多くの血を流してまで、自分の命を救ってもらうことを、ウォルター殿下がお望みだと陛下は思われますか?」
「……貴様……!」
「っ!?」
瞬間、陛下の強い力で、両肩を掴まれる。
陛下は真っ赤な瞳をギラギラと光らせて激昂した。
「っ、お前はウォルターを見捨てろというのか!?
ウォルターを救えるのは、戦争をすることだけだっ!」
「っ」
(……これが、陛下の本心)
陛下は、非情な人だと思っていた。
ヴィクターよりもっと、冷たい瞳をしている。
遠くからしかあまり拝見したこともなかったから、何を考えているかなんて分かるはずがなかった。
……けれど。
(……分かった気がする)
「……陛下、それにヴィクター。 もし何処かで見ていたらウォルター殿下も。
貴方方はやはり、似ているわ」
「「!」」
私は陛下の両手を肩からそっと外し、すっと胸に手を当て跪いた。
「!? 何を……」
ヴィクターの焦ったような声に、私は「大丈夫」と彼に言ってから陛下を見上げ、凛とした口調で言った。
「私に、ウォルター殿下を救う別の方法を探す時間を頂けないでしょうか」
「!? 何だと……!?」
陛下の赤い瞳が怒りと焦りに染まる。
私はそれを見て言った。
「……ウォルター殿下の余命は、後残り最低2ヶ月と聞きました」
「!? どこでそれを……」
「2、ヶ月……?」
陛下とヴィクターは、愕然としたような表情を浮かべる。
内心ヴィクターにはごめんなさい、と謝りつつ、陛下を見上げて言った。
「その内の1ヶ月を、私に下さい。
その間に必ず、ウォルター殿下を救う手立てを探し出します。 もしそれでウォルター殿下のお命を救うことが出来た暁には、戦争をすることをおやめ下さい」
「っ、そんな1ヶ月ごときで何が出来るというのだ!
それがもし棒に振ることになったらどう責任をとるつもりだ!」
陛下の言葉に、私はギュッと手を握りしめ、努めて冷静な口調で言葉にする。
「……もしその期間が無駄になったとしたならば、私を殺すなり私の魔力を戦争に起用するなり、陛下のご自由にお使い下さい」
「っ、お前、正気か!?」
陛下より先に言葉を発したのは、ヴィクターだった。
彼は私の肩を掴むと、真っ赤な瞳を揺らして私に尋ねる。
私はそんなヴィクターに向かって微笑むと言った。
「えぇ、正気よ。
……私は本気で、ウォルター殿下を救いたい。
その為には、これくらいの覚悟をしているということよ」
「……っ」
誰に何と言われようと……、例えヴィクターでも、私はこの信念を曲げるつもりはない。
だってもしこのまま放っておいたとしたら、戦争にはお父様、それにヴィクターも向かうことになってしまう。
陛下がどうやってウォルター殿下を救おうとしているかは知らないが、もし仮にそれで戦争に勝ったとしても、今まで同じことを繰り返してきて救えていないということは、今回も同じ結果を……、というより、ウォルター殿下の命が尽きることになってしまう。
……なら、私は別の道を探す。
例え自分の身が犠牲になろうとも。
「……それなら、俺も一緒にやる」
「! ヴィクター……?」
ヴィクターはそう言って、私の手をとる。
その瞳に今度は揺らぎがなかった。
その姿に内心、ドキッとしてしまい固まる私に、彼は陛下を見て言った。
「もしこの1ヶ月で兄上を救えなかったとしたら、俺もリゼットと共に貴方の望みを叶える。
……だから」
ヴィクターはそう言うと、頭を下げた。
「陛下、お願いです。
兄上を……、ウォルターを助ける機会を、俺達に下さい」
「「!」」
そう言ったヴィクターは、震えるような声をしていて。
……それは、恐れからではなく、彼自身がウォルター殿下を守りたいと強く願っている何よりの証拠だった。
「っ、私からもお願い致します、陛下!」
私は立ち上がると、ヴィクターと共に深く頭を下げる。
そんな私達を見て陛下は……、長くため息を吐いてから言った。
「……良いだろう。
ただし、一ヶ月きっかりだ。
もし、それを守れなかった時は……、お前達を戦争に駆り出す。 それで良いな」
「「っ、はい!」」
(……待っていて下さい、ウォルター殿下。
私は皆を……、貴方も必ず、助け出します。
だから、決して生きることを諦めないで下さい)
そうウォルター殿下に心の中で投げかけ……、ヴィクターと繋いだ手に、ギュッと力を込めたのだった。




