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【コミックス第二巻4/30発売】その政略結婚、謹んでお受け致します。〜二度目の人生では絶対に〜【書籍全二巻発売中】  作者: 心音瑠璃
第1章

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12.

「俺と二人で話すときは、敬語を取ってほしい」

「……はい?」


 その言葉が一瞬、飲み込めなかったが、ようやく飲み込んで理解した私の脳内は疑問符で埋め尽くされた。


「え、え? そんなお願いでよろしいのですか?」

「……何だ、何か文句があるか」

「い、いえ……え、本当にそれでよろしいのですか?」

「あぁ」


 ヴィクターがそう頷いたから、不思議なお願いだな、なんて思いつつ、私はとりあえず試しに敬語を取ってみることにした。


「ヴィクター」

「!!」


 そう名前を呼んだだけなのに、ヴィクターは、絵に描いたように目を丸くした。


(……え、何その反応。

 流石に、名前には殿下を付けないとダメなのかな?)


「……ふ、不敬ですかね?」


 私がそう恐る恐る尋ねれば、ヴィクターはハッとしたように、「いや、」と口元を押さえて言った。


「……その方が、断然良い」

「え?」

「これからはそうしてくれ、リゼット」

「……!」


 そう言って笑うヴィクターは、いつになく柔らかい表情をしていて。


「……そういえば、まだ踊っていなかったな」


 と彼は惚けていた私の手を取ると会場へと歩き出す。


「い、今から踊るの?」

「あぁ。 酔い覚ましに付き合ってくれ」

「……」


 ヴィクターに手を取られた、その手に熱が篭る。


(……ヴィクターがあんな表情をするから、私)


 これもお酒の力、なんだろうか。

 胸の鼓動が煩いくらいに鳴り止まない。

 最近、ヴィクターといるとこんなことばかりだ。


(……こんなのって)


 初めてのことに、私は戸惑ってばかりなのだった。






 そうして会場へと赴くと、私の得意なワルツの演奏が始まった。


「……ヴィクター、凄い視線を感じるわ」

「当然だろう」


 ヴィクターの何気ないその言葉に、私は流石王子様、と苦笑いを浮かべた次の瞬間、ヴィクターは理解しがたい言葉を口にした。


「君が綺麗だからだ」

「!?!? はい!?」

「リゼット、足を止めるな」

「あ……ごめんなさい」


 思わぬ言葉に足が止まりかけたものの、私はなんともなかったかのようにすぐにステップを踏む。


(……ちょっとまって、何か今日は、ヴィクターとの距離感が掴めない)


 ダンスってこんなに近かったっけ。


 ヴィクターの息が、私の頭にかかるのを感じて、少し気恥ずかしくなった私はそっぽを向いて言う。


「……でもさっきは、馬子にも衣装って言ったじゃない」

「違う! あれは、その……」

「?」


 今度言い淀んだのはヴィクターの方だった。

 私は首を傾げて彼を見れば、その耳元が赤いことに気付く。

 お酒ではないと分かるその赤さに、私は思わず笑ってしまえば、ヴィクターは「笑うな」と少し怒ったように言った。


「ふふ、ごめんなさい」


 と謝りつつ、私は内心可愛いと思ってしまう。

 ……口に出したらまた怒られそうだから言わないけれど。


「……さっきは馬子にも衣装、だなんて言って悪かった」

「え?」

「……本当に綺麗だったから、素直に言えなかったんだ」

「!」


 “ヴィクターは、恥ずかしくて言えないだけだから”


「……ふふっ」

「っ、何笑っているんだ」

「いえ、嬉しかったから」


(……ウォルター殿下の言う通りだったわ。

 ヴィクターは、悪い人なんかではない)


 誤解はされやすいけれど。

 でも、本当は。


(良い方なんだわ)


 そう感じた私に対し、彼は徐に口を開いた。


「……そういえば、あともう一つ、聞きたいことがあるんだ」

「? 何?」


 私がそう問えば、少しその真紅の瞳が戸惑ったように揺れる。

 少ししてヴィクターは、恐る恐る口を開いた。


「……家族と話して、どうだった」

「? さっきも聞いたわよね? その質問」

「そうなんだが。

 ……君は……その。 こんな質問は良くないと分かっているんだが」

「?」


 心なしか、ヴィクターが辛そうな顔をする。

 私はどうしてそんな顔をするのか気になったが、彼は言葉を続けた。


「……家族の元に帰りたいと、思わなかったか」

「!」


 その言葉で理解した。

 ヴィクターが、そんな表情をする理由が。


(……私が帰りたいんじゃないかと心配しているの?)


「……もしかして、先程もそれが聞きたくて、同じ質問を?」

「! 気を悪くしていたらすまない。

 こんなことを、元凶である俺がする話ではないんだが」


 言いづらそうにそう言うヴィクターに対し、私は微笑んで見せる。


「……帰りたくないと言ったら嘘になるかもしれない。 妹もまだ8歳だし、家族と離れ離れになるのは寂しい。

 ……けれど、ここの生活が苦だと感じたことはないわ。

 強いて言うなら、体を動かせないことは辛いけど。

 それ以外では、ヴィクターもアリーも、ウォルター殿下もみんなに、良くしてもらっているから。 私は多分、ここでの生活が好きになり掛けているんだと思う」

「!」


 ヴィクターの瞳が揺れた。

 私は少し笑うと、そっとヴィクターの胸に頭を近付けた。


「だから、ヴィクターの心配はいらないわ。

 ……けれど、私、まだ貴方のことをよく知らない」


 “お前に何が分かる”


 そう言い放されるのは分かっている。

 それを真に受けて結局、前世では彼としっかりと向き合わなかった。

 お父様を殺した国の王子。

 冷たい見た目から怖いとそう感じて、怯えていたのは私だった。

 彼は私を遠ざけていると思っていたけれど、遠ざけていたのはむしろ私の方だったのかもしれない。


「……ねえ、ヴィクター」

「? 何だ?」


 曲がもう直ぐ終わる。

 その前に。


「……私、貴方のことを」


 ……もっと、知りたい。

 そう願っては、駄目かしら。








ブクマ登録、評価、御感想まで頂き、本当に有難うございます…!

現在、皆様のお陰で日間、週間ランキングにランクインしております!有難うございます!!

引き続き、イチャじれハラ(笑)が続くかと思いますが、楽しんでお読み頂けたら嬉しいです。


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