第四話:魔法の勉強withお嬢様
前回のあらすじ
・私がこの家を守る……!
・やっぱりダメだったよ
・メイドとは一体(哲学)
地理の勉強をした日からだいたい三日。今日は家庭教師さんが来ない日らしく、お嬢様は勉強の用意をせずにのんびりしてる。
一ヶ月経っても専属メイドの仕事をお茶淹れと着替えの手伝いくらいしか知らない私は何もすることがなく、いまだにあんまり美味しくないお茶を淹れるのでした。
お嬢様のお願いによってお茶を淹れるときは自分のものも一緒に淹れることになってる私は、やっぱり美味しくないお茶を眉をしかめながら飲む。
ところでお嬢様のお願いが明らかにメイドに対するそれじゃない気がするのは気のせい? まあメイドにそんなに詳しいわけじゃないからこの世界のメイドはお嬢様と一緒にお茶を飲むのが当たり前なんだって言われたらそれまでだけど。
「……そういえば、ミコトってみたところ私より少し下みたいだけど」
「……あの時の魔法はすごかった。……どんな魔法の勉強したの?」
お嬢様のお願いについて考え込んでいる私に、美味しくない筈のお茶を美味しそうな笑顔で飲んだお嬢様が口を開いてそういった。
魔法の勉強? 森で過ごしてた頃に例の本を何回か読んだくらいで、他は特に何かした記憶はないなあ。最近はメイドの仕事に慣れるので精一杯で読めてないし。
詠唱はまだ一応覚えてるけど、最近は使ってないからきちんと発動できるか心配になってきたよ。
「勉強……と言えるかどうかは怪しいところですが、強いていえば魔法について詳しく書いてある本を読んだことがあります」
これです、といって懐にしまっている袋から本を取り出す。
そういえばお嬢様も魔法使えるんだよね。どんな魔法が得意なのかは知らないけど、難関の魔法学園を受けるってくらいだしやっぱり中級魔法くらいマスターしてるのかな。
あれ、でもそうだとすると私の魔法くらいですごいって言わないよね。まああの時の光の魔法は派手だったかもしれないけど、威力自体は中級だしなあ。
「……ちょっと見せて」
「はい、どうぞ」
取り出した本に興味津々のお嬢様がそういったので、落とさないように気をつけながら手渡す。
そういえばいつも袋に入れてるから意識してなかったけどこの本って頭おかしい分厚さなんだよね。結構重いけど大丈夫なのかな。
そんな私の心配をよそに両手でしっかり受け取ったお嬢様は机の上に置いて開いた。
「……なにこれ」
「わかりやすいでしょう? この本は拾い物なんですけど、この本のおかげで一日で魔法が使えるようになったんですよ」
驚愕した様子のお嬢様に自慢げに語る。……よく考えたら私の自慢できたことじゃなくない?
にしても、この本ってなんなんだろう。なんか似たタイトルの本がたくさんありそうなタイトルな割に著者名がどこにも書いてないんだよね。
「……逆。わかりにくい。というか説明が足りない。こんなので魔法が使えるようになるなら勉強なんていらない」
……あら?
え、わかりやすいよね? 魔法の名前と詠唱と魔法陣があるから練習はできるし、魔力の感じ方とか(具体的には瞑想)も書いてあるし。
そう言うと、お嬢様はちょっと不機嫌そうにこういった。
「みんな瞑想しただけで魔力を感じられるようになるなら魔法使いはもっと増えてる」
え、そうなの? 魔法のない世界出身の私でも一分足らずでできるようになったからこの世界の人ならみんなできるんだと思ってたけど。
具体的には瞑想っていうか三十秒くらいぼーっとしてるだけでわかるようになったりとか。
「……それに、魔法を使うためには魔力を感じた後魔力を操る必要がある。けど、この本にはそれが書いてない」
ああ、そういえば書いてなかったね。え? 魔力を感じられるなら操れるのでは?
だから必要なくて書いてないんだと思ってたけど……お嬢様の顔を見る限りそうでもないらしい。
お嬢様曰く、魔力を感じるのには普通他の魔法使いに魔力を体内に流してもらうのが一般的らしい。瞑想でやってる人なんてほとんどいないとか。
しかも、魔力を操って魔法にするには魔力を感じられるようになってから一ヶ月はかかるとかなんとか。
ええ? 私魔法チートだったりするの? それだったら冒険者やっても大丈夫だったかも。
あ、ちなみに冒険者ギルドは存在するらしい。お嬢様と一緒に勉強してる時に家庭教師さんがいってた。
って、そうじゃなくて。
お嬢様の話を聞いてるとなんか私が規格外に聞こえてきたよ。私この世界に来るまでは普通の女子高生だったはずなんだけどなあ。
「……それに、この本には魔力量の測定法とか得意属性の判別法とかも書いてない」
「ミコト、知ってる?」
魔力の測定法? そんなのもあるんだ。
「いえ、存じ上げません」
「……そう」
そういうと、お嬢様は黙った。少し経つとふと私の方を見て言った。
え、なに? 私まだお茶淹れ直してないから少し待ってくれると助かるんだけど。
「ミコト。ちょっと中庭に行きましょう」
え、中庭?
マグノリア家には、公爵の名に恥じず、大きい土地と大きい屋敷がある。
しかも中庭まであって、よくお嬢様は中庭に来て散歩を楽しんだり、魔法の練習をしたりしていた……らしい。
していた、しかもらしい、というのは私がこの家に来て一ヶ月、お嬢様が屋敷から出たところを見たことがないからだ。
最近外に出ないのは受験に備えて勉強に集中しているからだとも聞いてたけど、今日はなんで中庭に行くんだろう? 疑問に思って移動中に聞いてみると、ちょっと私の魔法に興味が出たんだとか。どうせ入学試験には魔法実技も含まれてるしちょうどよかったとも。
「……ここでいい」
そういって連れてこられたのは中庭の端っこの方にある一角。
魔法で狙うと思われる的があったり、雨が降っていても問題なく練習できるように天井が用意されてたり、なんというか弓道場みたいな感じの場所だ。
「……これ」
お嬢様が入り口にあるテーブルの上に置かれた、なんか血圧測る機械みたいな装置を指さす。ご丁寧に椅子も一緒に置いてある。
腕入れればいいの? あ、頷いた。
「よいしょ」
あー、締め付けられる〜。
「……そのまま楽にしながら聞いてて」
お?
「……多分知らないと思うからいっておくけど、魔力の多寡は目の色でわかるの」
「……基本的には赤、橙、黄、緑、青、黒の順番。赤が一番高くて黒が一番低い」
「特訓次第で増やせないこともないけど、生まれついての魔力量は目でわかる」
ああ、だから目の色変わってたんだ。私の目の色は赤だから、一番多い部類に入るんだね。
そういえばこの世界に来て髪の色も変わってたけど、髪の色もなんか魔力に関係あったりとかするのかな。
……流石に年齢は関係ないよね?
そう考えていると、お嬢様は話の続きを始めた。
「……髪の色では得意属性がわかる。赤は火、青は水、緑は風、茶は土、金は光、黒は闇」
「……でも、属性は基本属性以外にもいくつかあるから、髪の色には例外も多い」
「例えば、私は金の髪だけど得意属性は雷」
へえ。
じゃあ私の得意属性は光かな? 同じ魔力消費量で一番威力高かったのは光だし。
その後、だから人間と戦う魔法使いは得意属性がわからないように髪色を染めたりする、という豆知識を聞いている間に測定が終わったらしくなんかホログラムっぽい感じで文字と数字が浮いた。
「えーっと……『魔力量S、得意属性光』。……魔力量って具体的な数字で表すわけじゃないんだ」
そういえばそもそも私平均とか表記とか知らないじゃん。Sってどのくらい上なの? 地球の小説だと一番上だったり上にSSとかSSSとかあったりするからわかんないんだけど。
「……魔力量Sは人間っていう括りなら最高峰の魔力量」
私の表情から困っていることを察したのか、お嬢様が説明してくれた。
人間最高峰……。ってことは私ついに一般人やめちゃったってこと?
ああ、でもよく考えたら妖刀持ってる一般人とかいないか。今更だったね。
ところでお嬢様の魔力量は? お嬢様もS?
「私はA。……一応言っておくけど、Sは理論上の最高値であって普通はAくらいで止まる」
あ、そうなんだ。
……ええ? じゃあ私もAくらいで止めてくれたらよかったのに。
っていうか多分お嬢様って10歳くらいだよね? 私の形で言えたことじゃないけどこんな子供が人類最高クラスの魔力持つって普通に考えておかしくない?
そういうと、お嬢様はキョトンとして微笑んだ。
「……確かにあなたが言えたことじゃないね」
「でも、確かに普通じゃない」
「……私が魔力を初めて測った時に、この子は国一番の魔法の天才だ!……ってお父様が大喜びしたくらいだから」
まだまだ勉強不足だし、そもそも魔力量だけじゃ魔法使いの強さは決まらないのに、と微笑みながら続けるお嬢様。
ああ、やっぱりそうなんだ。まあ地球でも身体能力に劣るおじいちゃんが若い剣士を倒すことだってあるしね。
「ふふ……。それじゃあ、今日は一緒に魔法の勉強をしましょう?」
「あなたの教科書は幸い魔法の図鑑としては最高クラスだし、」
―――それに、私には国一番の天才の上をいく大天才の先生がついてるみたいだしね。
そう言ってお嬢様は練習場の中へ入っていった。
……え? もしかしてこれ私が教えることになってる?
…………待ってー?! 私教えられるほど魔法詳しくないの知ってるよね!?
むしろ私が教えて欲しいくらいなんですけど?!
案の定、私では教えられることもなく、結局この日は魔法の練習と称して二人で一緒にいろんな魔法を試したり、どっちが早く魔法を使えるようになるか競争したりしたくらいで終わったのでした。