第三話:メイドさんになる
前回のあらすじ
・森出た!
・馬車助けた!
・メイドになりにいくぞ!(やや語弊あり)
リンさんと別れ、メリーさんと一緒にお屋敷へ向かう。
うわあすごいお屋敷。
お父さんの実家もだいぶおかしいサイズだったし、あれより大きい家とかないと思ってたけどこのお屋敷もおんなじくらいの大きさかな?
この場合お父さんの実家がおかしいのか、このお屋敷がおかしいのか。…………十中八九お父さんの実家かな。別にお父さん貴族だったりはしないはずだし。っていうか日本に貴族とかいないし。
「おお、お帰りなさい我が娘よ」
「……ただいま」
「ふふ、お父さんったら置いてかれて落ち込んでたのよ。……あら、隣の子はどなた?」
お屋敷にお邪魔すると、メリーさんのお父さんとお母さんがメリーさんをお出迎え。普通は執事とかがお出迎えするんじゃないのかなあ。
って考えてるとメリーさんのお母さんが私について言及。お父さんはそもそも気づいてすらなかったらしく、私の方を二度見した。
ああ、わかった。絶対お父さんの方は親バカだ。まちがいない。
「……ミコト。私のメイドにする」
「えっ。あ、はい。ミコトです。この度お嬢様のお眼鏡に叶いマグノリア家に訪ねさせていただきました」
端的スギィ! 普通はもうちょっとこう……なんかあるでしょ?!
ああ、お父さんがびっくりしてこっち二度見してる。あ、でもお母さんの方はこっち見たまま考え込んでる。
あ、目があった。なんか納得したっぽい。え、何を納得されたの? 私の顔になんかついてる?
「ええ? メリーの専属メイドならもういるだろう? それとも彼女が何か粗相でもしたのかい?」
「……違う。けど、この子は私のメイドにする」
口数少なすぎじゃない? 私に抱きついてた時はもうちょっと饒舌だったよね。もしかして緊張したら饒舌になるタイプなのかな。
「メリー。少し落ち着きなさい。その子……ミコトちゃんも少し驚いてるわよ」
「あ。……えっと、今日学園を見に行った帰りにオルトロスの群れに襲われたんだけど」
「なにい?! 私たちの可愛いメリーによくも!」
「お父さんうるさい」
「うるさいわよお父さん」
あ、ちょっ、お父さん泣いちゃったよ! しかもそのまま話続けるし。え? このままでいいの? 嘘でしょ?
あー……。えっと、大丈夫ですよ。お二人とも、別にあなたのことが嫌いになったわけじゃありませんし。
「群れが大きくて、リンさんたちじゃ手が足りなくて、手を焼いてた時にミコトが助けてくれたの」
「とっても強くて、あっという間に全滅させたのよ!」
「でね、でね、ミコトも私とおんなじくらいでしょ? だから私の護衛兼専属メイドとして欲しくなっちゃったの!」
「そうなのね……」
誰だこの子。私の知ってるメリーさんじゃない。
ううん……。最初は静かだったし、次は妙に饒舌な感じだったし……かと思えば静かな感じに戻って、今度は普通の明るい小ちゃい子みたいな口調だし……わからん。どれが素なのかな。
あ、でもお父さんがメリーさん見て呆然としてるからいっつもこんな感じってわけではなさそう。
「…………ねえ、ミコトさん」
「あ、はい」
「今日からよろしくね」
「あ、はい…………はい?」
え?
「「ええええええええ?!」」
「そんな急な……本気なのかエリーゼ?」
「そうですよ、せめて面接とか、能力の確認とか、いろいろありますよね?」
とりあえずお母さんの名前がエリーゼっていうらしいことを記憶の片隅にとどめつつ、お父さんの援護射撃!
確かに早く決まるのは私的にはいいことなんだけど、これは突っ込まずにはいられないよ。こんなにガバガバな感じでメイドが決まるんなら絶対この家そのうち傾いちゃう! メリーさんのお家は守らねば、守らねばならぬ……!
別に、現時点では友達でもなんでもない私たちだけど、ここでスルーした結果、私はともかくメリーちゃんが路頭に迷うようなことがあったら絶対私胃痛でダウンしちゃう!
「あら、私は本気よお父さん。人となりくらい見ればわかるじゃない」
「そうじゃないだろう? 人となり以外にも見るべきものはいくらでもあるはずだ。それこそ彼女が言うように能力が筆頭だし、それ以外にも経歴や出生とかな」
「…………」
あ、経歴調べられると私困るんですよお父さん。
あー、でも必要なら仕方ないか……兎にも角にもここはお父さんの援護射撃をして、お父さんと私でこの家を守らないと……!
そう意気込んでいる私の視界に、メリーさんに何かを吹き込むエリーゼさんの姿が映る。
自分の話を全く聞かないエリーゼさんに眉をひそめて、お父さんがエリーゼさんに詰め寄る。
「エリーゼ、聞いて―――」
「……言うこと聞いてくれないお父様なんて嫌い」
「―――――――」
メリーさんの必殺の一言でお父さんが死んだ!?
こ、このままだとこの家の使用人の採用基準がガバガバなままになっちゃう! 私だけでもなんとかしないと……。
「……なんでミコトは嫌がるの? さっき、断る理由はないって言ってた」
「あら、そうなの」
「いや、別に嫌がってるわけじゃないんですよ。ただ、ちょっとこの家の行く末を心配してるだけで」
「嬉しいわ、もうこの家の使用人としての心構えができてきてるのね」
ああ、私にはわかる……これは無理! 一人じゃ勝てない! エリーゼさんが強い! この人絶対私の言いたいことわかってて明後日な方向の解釈してるよね!?
お父さん起きて!
「……私も嬉しい」
ええい、できなくても私しかいないんだから私がやるしかないんだ、私はこの家を守る!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっぱりダメだったよ。
結局あのまま押し切られて、気づいたら雇用形態の話になってた。うわっ、私の交渉術、弱すぎ……?
最終的に、少なくとも学園に入学するまでの間、具体的には半年間可能な限りメイドとして振舞うこと、有事にはメリーさん……お嬢様を守ること、お嬢様のお願いは危険なものでなければ可能な限り叶えることが決まった。
報酬は幾らかの賃金と衣食住。どこの誰とも知れない相手を雇うにしては破格なのかも知れないけど、業務の難易度高すぎじゃない? 私メイドどころか接客業の経験すらないんだけど。
ちなみに、気絶している間に話が決まったお父さん――――ダニエル様は煤けてた。
「ミコト、どうしたの?」
「……いいえ、なんでもありませんよお嬢様」
「……そう? じゃあ、今日も一緒にお勉強しましょ」
今日で勤務一ヶ月目になる私は、ようやくまともに飲めるようになったお茶を淹れて、隣の領にある難関魔法学園に入学するために猛勉強中らしいお嬢様の隣で、なぜか一緒に勉強したいというお嬢様のお願いによって一緒に勉強している。
しかも隣の椅子に座って。私この一ヶ月間お茶淹れるのと一緒に勉強くらいしかしてないんだけど、メイドってこんなお仕事だったっけ?
「はい、お嬢様」
「……メリーでいいのに」
残念だけど、普段からこの二人称使ってないと絶対私どこかでミスするんですよお嬢様。
ほら、勉強するんでしょう?
家庭教師の人も苦笑いしてますよ。
「ふふ……。では、今日はこの国の付近の地理についての勉強をしましょう」
先生曰く、この国はグレイス王国という国らしく、しかも500年以上続く歴史ある大国なんだとか。
南と西に海があり、東側にはそこそこの頻度でちょっかいをかけてくるイール王国という国があるらしい。
あとは北に魔族の国があるとか。30年くらい前に王様が変わったぐらいしか話す内容がないくらい、平和な国なんだって。
ちなみに、この世界では魔族は別に悪者じゃなくて、魔族はあくまで魔力に長けて、寿命が延びた代わりに子供ができにくくなった、少し変わった人間程度の認識でしかないらしい。
このことを初めて知った時は少し驚いたなあ。
あと、この領のことをあんまり知らない私のために説明してくれた内容によると、この領は南東の方に位置する公爵領らしく、絹を名物にしたかなり大きい領だとかなんとか。
東隣には私とお嬢様が出会ったライラック領があって、お嬢様が入学したがってる魔法学園もここにあるとか。ちなみに、通称魔境。なんか出てくる魔物が軒並み強いらしい。
ここで一旦休憩を挟んで私の作ったお茶をみんなで一口。
私と先生は苦笑いだが、お嬢様はニコニコ笑顔で美味しそうに飲む。
いつものことだから慣れたけど、本当にお嬢様の味覚は大丈夫なのかなあ……。