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第二話:森を抜けよう

前回のあらすじ

・洞窟発見! 確認! 地面に大穴! 痛い!

・ゴブリンじゃねーか! やばいこっちくる!

・喉笛かっさばいた(過去形)




「あ、さっきの場所だ」


 垂直に結構落下したけど、少し歩くと入り口に戻ってこれた。この洞窟はどうやら自然にできたものではないらしく、少なくともさっき私がいた場所までは螺旋階段に所々部屋をつけた、みたいな構造をしているみたい。

 部屋を出る直前にゴブリンに会ったっきり、一度も魔物やら魔獣やらと遭遇しなかったし、もしかしたらこの洞窟はあんまり危険じゃないのかもしれない。

 

「この刀があったら食料はなんとかなりそうだし、川もあるし魔法もあるから水は大丈夫そう。この洞窟も下から魔物が登ってきたりしなければ安全そう……。当面の必要そうな物は揃ったかな」


 次はこの森を抜けて人の居そうな街を探すのを当面の目標にしようか……日本に帰るのにも情報が必要だし、そもそもこの森で長期間生存するのも無理だろうし。

 この森の魔物? 魔獣? はなんか強そうな犬とか見かけたし、無茶しないように、鍛えながら森の出口探そうかな。


「とりあえず、今日のご飯探さないと……。魔獣って食べられるのかな? 道具もなしに魚を捕まえるのとか無理だしなあ」


 いやまあ、魚が捕まえられないから代わりに魔獣を捕まるって考えも結構あれだけど。

 でも、ゴブリンを反応すらさせずに一撃で殺せたんだから、こっちの方がまだ可能性がありそうなのが悲しいところ。剣道やってるわけでもないただの女子高生としては失格なんだよなあ。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 昨日の夕方くらいにようやく街道を見つけて、この世界に来て一週間目になる今日ようやくこの森を脱出することにした。

 この一週間で初級魔法をだいたい覚えて、一部の中級魔法も使えるようになった。ただし刀はいつまでたっても全然うまくなってる気がしない。

 やっぱり魔法の方に集中した方がいいのかなあ。


「……あ、ワンちゃんだ。こんなに可愛いのに魔物なんだもんなー」


 昨日つけてた跡を辿って移動中、頭が二つある犬ことワンちゃん発見。地球で頭が二つある犬、オルトロスといえばゲームによっては火を吹いたり尻尾が蛇だったりするんだろうけど、この子はあんまり強くないんだよね。

 ちょっとどう猛なだけで動きは普通のワンちゃんと大して変わらないし。若干早いかな? ってくらいで、別に宙に浮いたりしないし、魔法を使ったりもしないし、だいぶ戦いやすい部類かな。


「よいしょっ……と」


 なんか最近習得したらしい居合斬りでワンちゃんの首を切り落とし、返しの一手でもう一方も落とす。そして血振るいをして流れるような動きで鞘に収める。

 私自身の意思じゃこんな動きできないのに、なんで動きは滑らかになるんだろう……この妖刀(断定)って学習する機能でもあるのかな。普通の妖刀って切れ味が上がるくらいじゃないの?


 それはさておき、死体が魔力に分解されつつあるワンちゃんを尻目に、森を抜ける。

 昨日の夕方は若干暗くなってたしだいぶ曇ってたから街道がギリギリ見えたくらいだったけど、今日は昼までに抜けられたし、晴れてるし、だいぶ遠くまで見えるね。


「晴れた空! 涼しい風! 襲われてる馬車! 冒険日和だよね……って馬車が襲われてる!?」


 よく見たら街道を走ってたと思われる馬車がワンちゃんの群れに襲われてる!

 しかも護衛だと思われる人たちが不利っぽい?! い、急いで助けに行かないと!






◆ ◆ ◆




 失敗したな……まさか、比較的安全なはずの街道でオルトロスの群れに襲撃されるとは……。

 伊達に魔境と呼ばれてはいないということか!

 くそっ、埒が明かない……! このままだと数で劣る私たちの方が不利、流石に私たちが死ぬことはないだろうが、私たちが抜かれると後ろのお嬢様が襲われてしまう。お嬢様も戦えないことはないはずだが、流石にオルトロス相手は分が悪い!


「く、あっ……まずい、抜かれる……っ!?」


 周囲を囲まれ身動きが取れなくなった私のそばを、偶然誰の相手にもなっていなかったオルトロスが走り抜ける。

 周囲から絶え間なく攻撃を受けているこの状況、魔法が不得意な私では足止めすら難しい!

 くそっ!! このままではお嬢様の身に危険が………!!!





「『風よ、刃となりて敵を討て』―――『風刃(ウィンドカッター)』! 助太刀します!」




 なっ、これは―――中級魔法の風刃(ウィンドカッター)

 私の隣を駆け抜けようとしたオルトロスを、何者かが使用した風属性の中級魔法風刃(ウィンドカッター)が真っ二つにする。

 オルトロスは一個体だけでもCランクの魔物だ。並みの魔法使いでは中級魔法で一撃で殺すなどできないはずだが……。いや、考察は後だ、今は助けがきたことを喜ぼう!


「すまない! 私たちの後ろには護衛対象がいる! 私たちが抑えているうちに数を減らしてくれ!」


「はい、わかりました! 『光よ、敵を貫く弾丸となれ』、『多重発動』―――『多重光弾マルチプルライトバレット』! やああ!」


 本職ではない私には聞きなれない詠唱だが、光属性と思われる彼女の多重に発動した魔法は私たちに押しとどめられていた十数匹のオルトロスを貫き、一撃で仕留めた。

 そして残った数匹のオルトロスを少し曲がった見慣れない剣で斬り捨て、こちらに歩いてくる彼女。


 ……助かったのは事実だし、彼女がいなければお嬢様は危険な目にあっていたかもしれない。それを助けてくれた彼女には感謝しなければならないのはわかるが、彼女は一体何者だ……? Bランク冒険者でもある私でも、複数のオルトロスを流れる様に切り捨てるなんて不可能だ。しかも、魔法は詳しくないが、あの数のオルトロスを一瞬で葬った魔法の技量もある。

 この国の外から来た高名な冒険者なのだろうか……。






◆ ◆ ◆



「すまない、助かった。私たちだけでは彼女を守りきれなかっただろう」


 いやあ、びっくりしたよ。森じゃあんなに群れてるワンちゃん見なかったから、群れるとこんな強そうな人でも苦戦するなんて気付かなかったなあ。

 というか言語通じるんだね。まあ文章が読めるんだから話せてもおかしくはないけど。

 私が今話してるのは護衛のリーダーっぽい、赤髪に青い目っていうものすごい色合いのお姉さん。

 凛々しい雰囲気を醸し出していて、女の子にモテそうな感じ。


「いえいえ、お気になさらず。……ところで、少し質問してもよろしいですか?」


「……なんだ」


 それにしてもこの人、なんだか私のこと警戒してる? 若干表情が硬い。

 まああんないいタイミングで救助にくれば怪しいよねえ。たまたまだけど。

 あ、それとも護衛対象の人のことかな。詮索されたくないとか。


「ええ、ちょっと聞きたいんですけど、この辺りに――――お”うっ」


 首が痛いっ?! え、何事? 急なむち打ち?

 リーダー的な立ち位置と思われるお姉さんと話をしていた私を唐突な激痛が襲う!

 でもこれってなんかぶつけた感じの痛みだし、むちうちじゃなくて打撲か何か? ……というかそもそも誰か私に抱きついてない? この抱きついてる誰かが勢いよく抱きついてきたせいで首が痛くなったってこと?


「お嬢様!?」


 え、お嬢様? この世界のお嬢様って初対面の人に抱きつくアグレッシブな人種なの?

 しかも私が助けに来た時に見かけた人が視界に全員いるってことはもしかして私に抱きついてる人=護衛対象の人=お嬢様?

 

「…………ねえ、あなた名前は?」


 耳に息がっ! うわ、そっちの気がない私でもなんかゾクゾクしてきた。

 ええっ……と、名前? この世界の命名規則とかわかんないし、とりあえず苗字は言わないでおこう。


「え、えっと……ミコトです」


「…………ミコト、ミコトね」


「お、お嬢様?」



 なんか怖いこの人。いや、悪い人じゃないんだろうけど私の耳元で私の名前を連呼してて怖い。

 え、この人このままスルーしてもいいの? 質問の続きしていいかな?


「え、ええ……? えっと、その、質問」


「ねえ」


「うひゃあっ……えっと、なんですか?」


 うわくすぐったい。


「あなた、私のところに来ない?」


「え?」


「お嬢様!?」


「私はメリー・メロウ・マグノリア。マグノリア家の娘よ。あなたに悪いようにはしないけど……どうかしら?」


 ええ?


「お嬢様!!?」


「返事しないなら無理矢理にでも連れて行くけど……返事は?」


 えええ……?


「(……もう何もいうまい)」






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 はい、私は今マグノリア? 家のお嬢様、メリーさんのお誘いに乗って……というか話を聞きたいから落ち着いた場所で話がしたいって言ってマグノリア家の馬車に乗っています。


 ちなみに、メリーさんは私と同じ金髪赤目の美少女です。今の私よりは少し上だけど、だいぶちっちゃい。私が10歳くらいだとすると、それこそ11とか12とかくらい?


 それはさておき、メリーさんの話(「お前が欲しい」的な発言の真意)を聞く限り、彼女は私が戦う姿を見て、近くで護衛してくれる人として欲しいと思ったらしい。戦える専属メイド的な。

 少なくともこの場で最も強く、年齢も近く、性別も同じで、見た感じ優しそうだったかららしいけど。

 ちなみに、この場で最も強く、のあたりで護衛のお姉さん――――リンさんが微妙な表情をしてたけど、メリーさんは気にせず続けた。少なくともこの場で最も(胃が)強いのはあなただと思うんですけど。


「えっと、大体話はわかりました。私としては断る理由はありません。適当に街を探してるところだったので、あなたについていけば少なくとも人が住んでる場所にはついていけるでしょうし」


「……じゃあ」


「……だが、領主様に伺いを立てねばならんだろう。この場にいるものだけで決めるのはおそらく不可能……というよりは領主様がお許しにならないはずだ。なんて言っても、マグノリア家唯一のご令嬢の護衛の決定なのだからな」


 そこなんだよねえ。

 日本にいつか帰るにしても、この世界に定住するにしても、とにかく職を手に入れるのは大事だ。

 魔物とかいるくらいだし、もしかしたらテンプレな冒険者とかあるのかもしれないけど絶対あるとは言えないし、仮にあったとしても、冒険者と比べてメイドは間違いなく自由は束縛されるだろうけど、そもそもこの世界の常識に疎い私が一人で頑張ったところで成果はたかが知れてる。

 そもそも多少妖刀(決めつけ)の力で強くなってるって言っても私普通の一般女子高生だし、冒険者が私の思う通りの職なら生き延びられる気がしない。


 そういう意味では、信頼できる人を持つとか、社会的地位とか、いろんな面でこの提案は願ったり叶ったりなんだけど、やっぱり貴族令嬢ともなればお父さんお母さんの話を聞かないといけないと思うんだよね。いやまあこのくらいの歳なら貴族じゃなくてもお父さんお母さんの話を聞くのは大事だろうだけど。


「…………そんな」


「あ〜、その、私は大丈夫ですよ? 目的地もありませんし、この場の皆さんが許してくださるならマグノリア家に向かっても」


「ううむ、護衛としては何者かわからんあなたをマグノリア家に誘い入れるのは反対なのだが」


「だめ!」


「わかってますよ。お嬢様の恩人をさしたる礼もせず追い返すとは何事か、と領主様もおっしゃられそうですしね。私も賛成です」


「……やった」


 ああ、貴族の威信がどうとかって感じかな。

 なんか小説とかゲームとかだと舐められたら負けみたいな感じが強いけど、よく考えたら助けられたらそれ相応のお礼をしないと貴族としての評価が下がりそうだしね。


「わかりました。では、私もマグノリア家に向かわせてもらいますね。えっと、私は外で護衛のみなさんと一緒に歩いていればいいんですか?」


「あなたも私と一緒」


 え? 普通どこの誰ともわからない人間を貴族と一緒にする?

 危なくない?


「お嬢様、お言葉ですが……」


「一緒」


 あ、これは絶対譲らないやつ。目が据わっちゃってるじゃん。


「あー、じゃあリンさんも一緒に乗る、というのはどうでしょう?」


「…………ん」


「すまない……」







 ああ、お尻痛い……小説によくあるやつだー。

 それはさておき、馬車を進めて数時間。日が沈んできた頃に、街の門を超えて街の中へ。


 それこそ小説だと入るときにお金が必要だったり、身分証が必要だったりするけど、この世界では身分証がなくても身分を証明する人間がいれば身分があやふやでも入れるらしい。リンさんに聞いた。

 まあ身分を証明する人間の身分がそこそこ高くないとダメらしいけど、それこそこの領の貴族であるメリーならその気になれば軽犯罪者くらいなら大丈夫らしい。いや、別に私犯罪者じゃないけどね?



「うわぁ……!」


 私が今乗ってるこの馬車には窓があるんだけど、そこからすごい中世の西洋って感じのおしゃれな街の景色が見える。


「……ふふ」


「あ」


 街並みに感動してるところを見られたらしく、メリーさんが穏やかに微笑む。

 うわあ、これは恥ずかしい。私これでも16歳なんだけどなあ。


「………こほん。ようこそ、我がマグノリア領へ。ゆっくりしていってね」


 あ、やっぱり貴族なんだなあ。

 これはカリスマ溢れる笑顔ですわ。さっきの穏やかな笑顔も魅力的だけど、この貴族的笑顔も素敵だなあ。

 メリーさんのそんなやっぱり貴族なんだなあって面を確認したあたりで、目的地であるマグノリア家が見えてきたらしくてリンさんがそわそわしだした。

 まあ普段は外で立ってたり馬に乗ってたりして入るはずだし、こういう馬車に乗ったまま入るのはあんまり経験がないのかもね。



2019/7/4 リンの外見について言及してないことに気づいたので加筆

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