2ー2
「こっち!こっちだよね!」
「あっちょっとっ!!」
弟は走り出した。一言もこっちだとは言っていない。子供の感というやつかもしれないけど…
「危ないからやめろ」
僕は止める。
登山用の一般ルートを順調に進んで何事も無く頂上につき『もしかしたら、あの時の兄ちゃんは寝ぼけてたのかもしれないな。』と言って、帰ってきたかったのに…騙せきれなかったみたいだ。陽希は余計なことに関しては妙に鋭い。
僕は陽希が怪我をしないように安全なルートを歩いていた。まさかこんなに早くバレるとは思ってなかったけど。
「でも、なんでこっちなんだ?」
「うーん…なんとなく!!」
なんとなく…か。危なっかしいな。
弟がこっちだと言った道は道では無く、舗装がされてない木が生い茂った斜面だ。
「兄ちゃんはこっちでもいいと思うけど?」
と一般登山ルートを指差す。
「こんなに人といっぱい出会う道に宇宙人がいたら、僕は何回も見てるもん!!!」
…いたんだけどなぁ。デパートの中に宇宙人。
陽希は根拠も無しにこっちだと言う割には、かなりの自信に満ちた表情をして道なき道を登っていく。
「こっちっ!」
後ろを向いて俺を待ち、早く早くと催促する。
いつの間にか案内する立場が逆になっている。
まっどうにかなるか。
危ないと思ったら僕が止めればいい。
どんどんと陽希は先へと進んでいく。小さい足でよくそんなに早く歩けるものだ。
「兄ちゃん!!」
急に陽希が立ち止まり、僕の方を向いたまま固まった。とても驚いた顔をしている。
「どうした?」
僕は自分に何か虫でもついているのかと思い、体を見た。すると、ジーンズのポケットの中で何かが光っているのが分かった。きっと陽希が驚いているのはこれだ。
何か入れたっけ?と思い、ポケットに手を入れ漁る。手に何か固くてひんやりするものが当たった感触がした。僕はそれを取り出す。
「すごいっ!光ってる!!」
陽希が興奮しながら登った斜面を下って僕の方へと近づいてくる。
僕の手には『あの赤い石』がギラギラと光っていた。
これほど嫌な予感がしたことはない。