8ー3
この状況は非常にまずいな。
丸山りおことカルメはそう思った。
妹と同時に一番のイレギュラーであり警戒対象でもある佐竹陽希を見失った。
佐竹陽希は記憶を消去したものの、あの時逃げ出したこともあり警戒度が祐希とマル=ベルベットよりも高い。しかも、マルが言うにはこの細い道に入っていったみたいだ。
私はこの場所に、一度本部に連絡するために入ってきた。見たとおり、遊園地だというのに誰も近寄らない不気味な道だ。道というよりはただの建物と建物の隙間と言ってもいいような場所だが、ここは実を言うとただの場所じゃない。本部へと続くワープゲートのようなものだ。
ただでさえ、ここには近寄ってほしくないものなのによりにもよってマルに会うとは。しかも、さっき私を襲ったのあれは私達の通常体そのものだった。…でも幸いマル自身は人間じゃないことには気づいたが自分が何者なのかは分かっていないようだ。
で、どうする?
私は考えた結果、
「でも、きっとこの先進んでも行き止まりだと思うよ?」
笑って手を差し伸べた。絶対に行かしてはならない。
「一旦戻ろう?」
ただでさえ消すべき記憶を情なんてもので消せなかったのに、これ以上何かの失態を犯す訳にはいけない。
頼むから来い、マル=ベルベット!
彼女は何か戸惑いのような表情を見せた後、行こうかどうかしばらく考えていた。そして足を一歩踏み出すと、今度は踏み出した足を戻した。
「やっぱり、見間違いだったかも。」
そうやって微笑む彼女に安堵した。
心臓が止まるかも…という状況はこういうときにあるのだろう。
「なんか、りおちゃんが真剣な顔してるんだもん!こんなところより人通りの多いところ探したほうがいいよね!」
「真剣な…表情?」
「フフ。そうだよ?足を出そうとしたら『行かないで!!』って顔をして足を戻したらすごいホッとした顔になってた!りおちゃんってこんなに表情豊かだったんだね!なんか、完璧すぎて近寄りがたいオーラみたいなのがあったけどりおちゃんの一面をしれてなんか面白かった!それに、なんて言うか真剣さに負けちゃった。」
私は思わず顔を触った。そんな顔になっていたのか?私が?
「フフフ!面白い!」
おかしそうに笑うマルはなんだか楽しそうで…
「フフッ。そうかな?」
私もフワフワとした感じになった。
彼女はあの時、私が平然と払い除けたことに疑いすら起こさなかった。それはきっと私に怪我が無かったこと安堵して、気づかなかったのだろう。それは私にとって助かることだが、一歩間違えたら不審がられる行為だった。
このまま、彼女が自分が異質なものだと受け入れた上で人間として真っ当に生きていくことはできるのだろうか?
…別に私の考えることじゃないか。
「ねぇ、百笑ちゃん一回休んだほうがいいんじゃないかな?」
「それより、今は陽くんを探さないと!」
「でも、さっき、すごく表情が強ばってたから一回休むべきだよ?私、心配だよ。」
「りおちゃんがそうまで言うなら…。」
こんなことしてていいのかと迷いながらも彼女はベンチに座る。
「一旦目を閉じて。」
「え?」
「目を閉じれば少し落ち着くってテレビで見たことあるの。やってみて?」
「あっうん。」
隣で無防備に目をつぶる少女。これが反逆者…ね。
私は本部で何があったか調べないといけない。
それに何より妹のことが気になる。
私は彼女の額をやさしく撫でた。すると、カクンと首が前に倒れ微かな寝息が聞こえてきた。
「おやすみ。いい夢を。」
来ていたジャケットをマルの膝にかけると私は立ち上がった。
…もう、きっと私は気づかないふりをし続けたこの情に見てみぬふりができなくなってしまった。
陽希、祐希、マル、風屋、犬塚…そして私の大事な妹。ここにきたわずかな時間でたくさんの事があった。あの時の妹にこの話をしたら楽しそうに私の話を聞いてくれたのだろうか?




