3.宇宙船、その後
私は瞬間銃を持って妹のところへ行った。妹は何も知らずにすやすやと眠り老けている…安心した。ずっと丸山カエラの姿だったから宇宙人の姿に戻った状態でいる妹はなんだか懐かしい。
「大丈夫だからね…」
優しく抱きしめ、銃を妹の頭に当てる。
「っ!?」
なんで今!?私は妹の体がピクリと動き硬直した。私が焦ったすきを見逃すことなく妹は私の左腕を力強く掴んだ。手に持っていた瞬間銃が妹の背後に落ちる。数秒後、見開いた妹の目が私を捉えていた。その瞳の中には慌てた私の顔が映っていた。
妹は怒りと恐怖の目をしていた。これは私が知っている妹の顔じゃない。私が助けないといけない。そう思うと不思議と落ち着いていった。次第に私の腕を握る妹の手は強くなっていく。腕がちぎれそうで痛い。
私は右手を妹の背後の銃へと伸ばした。悟られないように目をそらずに。やっと銃を掴んだその瞬間、妹はバッと左腕を離し今度は右腕をつかもうとしてきた。だけどもう遅い。銃の光線は妹の頭をめがけいく。
「ごめんね…」
初めて反射神経うんぬんの勝負に妹に勝てた。
パタリと記憶を抜いた反動で倒れた妹はさっきの顔が嘘のようにきれいな顔立ちで眠る。私はそんな妹の頭をそっと撫でた。
妹はもう変わってしまったのかもしれない。でも感情があるのは確かで、それは決して喜べるものような温かいものでは無いけど希望を持ってもいいのだと思う。
私は妹を担いで妹の自室へと運んだ。
ーーーー
「やっほぉー!元気ぃ?」
「まさかこんなに早く会えるとは思わなかった。」
明るい声で手を振ってきたセレナに私は無愛想に返す。
…コイツは信用ならない。
「また『場所は後日指定する』って…最初からその気だったんでしょ?」
私はセレナの管理下にある部屋に来ていた。壁も床も白で、机と椅子は人間が事務室で使ってそうな折りたたみのできるモノ、そして部屋の壁の中央には大きいスクリーンがある。
「人間の会社を模したモノだけどよくできてるよね。」
確か…人間がプレゼンテーションをする部屋だったけ?神の使いでもない彼女の管理下にこんなものまで存在することに部屋に入ったときは驚いた。仮にも裏切りかけたもののだ。…ここのシステムは大丈夫だろうか?それとももしかすると…。
私はある考えを思い浮かび、読んでいた資料から顔を上げて問いかけた。
「もしかして、逃げ場があるのはハッタリで、あなたは最初からこちら側だったの?」
そう、それなら説明はつく。彼女ははじめからマル=ベルベットを裏切る気だった。それが上からの仕事だったから。神の使いでもないセレナがたくさんの管理を任されている理由は信頼されているから…そうなんでしょ?
「うーん。半分違うよ?ちゃんと行く場所もあったし、私はどっちつかずのものだった。…でも上からの仕事であったことは間違いない。」
あまりにも拍子抜けするぐらいにあっさりと、セレナは秘密事項と呼ぶべき案件を口に出した。
「そんな素直に話していいの?」
訝しげに言うと、セレナは私の顔の目の前にジップロックを突き出してきた。中にはチップが入っている。
「あなたの妹の記憶があればあなたは私を裏切れない。」
セレナがそう言った時、わたしはそのチップを奪おうと手を伸ばしていた。だが、私が勝てるはずもない。楽しそうに私をもてあそび、きれいに私の手をかわしていく。
妹が目覚めなければ私が銃を打って記憶を抜いたことがバレなかった。…まさかそれも計算のうち?
「最初からその気だったのね。」
奪うのを諦めた私はただ静かに睨んだ。…手玉に取られるのはあまり嬉しくはない。だけどこのまま妹の記憶を奪ったことがバレて記憶をいじられること、それだけは駄目だ。妹を忘れて楽になる道を選んではいけない。
「これを私に返した時点でツメが甘いのよ」
勝ち誇った笑みを浮かべるセレナをただただ睨むことしかできない私を恨みたい。
「何をすればいい…。」
私が決心を決め、放った言葉を「そんなことより!これ見るでしょ?」と言ってセレナは私の問を流し始める。
何か言い返したかったが口をつむぐ。セレナが指を指すの石版には見覚えがあった。
「……マル=ベルベットの記憶?」
セレナが持っていたのは瞬間銃にセットにされるジェットよりも大きく、そしてところどころ黒以外の別の色も混じったものだった。あれだけ大きな混合石は高価で人工的に作り出すこともまだ難しい。神具にセットされているのは知っているが私にとっては教科書でしか見たことがない代物だ。
「あたり!さぁ?どうする。」
マル=ベルベット…彼女に興味がないわけじゃない。
「見る」
マル。私は彼女についてそれほど詳しくない。あの子は確かに星を…正確に言うとあの方を裏切る行為をした。
私は席について、スクリーンを眺めた。