0ー1
母さんがリュックサックから石を取り出す僕を見て、「それ、そんなとこまで持ってきたのね。」と言った。
「あげないよ!」
僕は両手で大事に持つ石を慌てて母さんから遠ざけた。
取らない取らない、そう言いながら母さんは笑う。
あの後僕は、家族と近くのデパートに来ていた。
クリスマスシーズンで店内は華やかだ。
「転けて、壊すぞー」
隣からの父さん声がした。
ニタニタ笑みを浮かべている父さんに向かって僕はプクッと頬を膨らましながら「絶対に転ばないもんっ!」と言いながら心配になって渋々とリュックの中に石をしまった。
久しぶりの買い物だった。
飾り付けされていて見慣れないものがたくさんある。
僕はあたりをキョロキョロと見る。サンタがたくさんだ。この時の僕にとって買い物はプチ冒険で新たな発見がある楽しいところだ。まぁ、今の僕にとっては家でダラダラと過ごしているほうがよっぽどいいんだけど。
僕は両親に、何か見つけるたびにあれは何?これは?あっサンタさんがいる!と指を指しては口々に言っていた。
そして、いろんなものを見て騒いでいる中僕の視線はある一点で止まった。
そこには人じゃない何かがいたんだ。
ほんとに懐かしい。今でもあれは夢じゃないだろうかと思う。
「えっ?」
僕は振り返りその何かを目で追う。
両親に報告をするのも忘れて、空いた口が塞がらない…ただひたすら目を奪われ、その何かを目で追う。
うさぎのような長く垂れ下がった耳。イルカのような口。触手のような手にくるっとしたきれいな瞳。そして、肌の色は水色。
そんなモノは生まれて一度も見たことがなかった。
その得体の知れない生き物は、フード付きのワンピースを纏いフードの影から外の様子を伺っている。
その様子は慣れないところに来て緊張しているようだった。
ソイツが角を曲がって見えなくなった瞬間、僕は我に返って目を輝かせた。
「ねぇ!さっきのあれ何!!」
僕は両親の服の裾を引っ張った。
「あれって、何だ?」
不思議そうな顔で父さんが僕を覗き込んだ。
あんな不思議な生き物がいたのに父さんも母さんも、周りの人たちもみんな気づいてないようだ。
「さっきね!こおーんな感じのね!」
と、僕は手でシャスチャーをした。
両手を耳にくっつけて「耳は長いの!」とか、「水色でね!」とか…。とにかく信じてもらおうと必死で説明を試みものの、必死の説明を信じてもらえたわけがなく…その説明を聞いた二人はキョトンとした後に吹き出した。
この時、僕は「絶対にこの二人に信じてもらうんだ!」と誓った。
ーーーー
「あっ!!」
買い物も終盤に近づき、諦めかけていたところでまたあの生き物に出会った。
どうやらソイツは店を出るようだった。
「捕まえてみせる!!」
実物を見せれば父さんも母さんも絶対に信じてくれる。
その時の僕はそう思いソイツを捕まえるべく、生き物のあとをこっそりとつけて店から出て行った。
頭の中でこの生き物の姿を見て驚く両親の顔が浮かび、顔をにやけさせながら。
ーーーー
…僕が店を出ていった後
「あれ?」
母さんは後ろを振り返った。
「祐希は?」
何を言ってるんだ?と言いながら父さんは後ろを向く。そして、
「えっ……いない。」
そう言うと父さんは青ざめる。
ひとまず「祐希ー!!」とあたりに呼びかけてみるも、買い物客が一斉にこちらに注目するだけで、息子の返事は帰ってこない。当然だ。僕はもうその時には店の外にいたのだから。
「いつからだ?」
「お菓子を選んでその後いっしょにレジを済ませて…帰ろうとしてた時にはまだ居たわ!」
と母さんは過去を辿りながら言った。
「なら、ついさっきまでいたんだよな!」
だいの大人が二人してワタワタと慌てだす。
息子がいなくなったんだ。正気でいられるわけがない。焦り焦りとだんだんとつのっていく。
「祐希ー!!何処だー!!」
「祐希ー!!どこー!!」
もう一度大声で呼びかける。
やはり、返事はない。
「私、インフォメーション行ってくるわ!」
「あぁ!!俺はこっちを探すっ!」
こうして店内では息子大捜索か繰り広げられたのだった
本当に迷惑をかけました!すいません!
説明の後付けが多いかもしれません、気をつけます。