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魔法研究ギルド


 ここまで来て、何故冒険者ギルドに入らない、って?


 考えてみて欲しい。

 商人風の男に見捨てられてはいるが、一応それなりにテンプレを踏まえた事が起きている。

 さて、冒険者ギルドに入った時にあるテンプレといえば、何でしょう。

 正解は『絡まれる』だ。


 本来ならそこで主人公の強さをアピールするのだが、残念ながらもらった能力は『不老不死』のみ。

 どんなに殴られようと斬りつけられようとも、死ぬ事はない。痛みがないから、服が汚れる以上の問題はないとはいえ、反撃できないのは好ましくない。

 今のところ、大男どころか子どもにも腕っぷしで負けそうなので、荒事は避けたい。


 ここまで冒険者ギルドに入るデメリットを挙げたが、勿論魔法研究ギルドに入るメリットもある。


 単純な話、研究とかそういうのが性に合っているのだ。

 あとは、真っ先に目についた、とかそういうテキトーな理由かな。隣に錬金術ギルドとかもあるが、それと比べて魔法が良いかと訊かれても、はっきりとした答えがないし。


「お邪魔しまーす」


 ノリで言ってみたが、誰も反応する人はいな――


「魔法研究ギルドにようこそ」

「……」


 いました。

 外から見た感じ、人はいないと思っていたが、受付嬢らしき人が一人だけいた。

 いや、曲がりなりにもギルドを冠している訳で、対外的なやり取りをする人間は必要だったか。


 受付嬢が美人なのは、冒険者ギルドの特権では無かったようです、はい。

 詳しく描写すると、髪は瞳と同じ灰色で、顔つきは人間と同じ。年齢は同い年くらいに見える。


 改めて魔法研究ギルドの中を見渡すが、どうやらここにいるのは受付嬢だけのようだ。

 これと言って物が置いていないので、本当にただ受付をするだけに作られた場所かも知れない。何を受け付けるかはいまいちわからないけど。


「すみません」

「はい、何でしょうか」

「現在、魔法研究ギルドは、労働者の募集をやっていますか?」


 そう言うと彼女は、非常に驚いた顔をした。


「ほ、本当に魔法研究ギルドで働くつもりなの?」

「えっと、何か問題でもあったのでしょうか」

「いいえ、……ただ、冒険者ギルドに比べると、知識を求められる割に賃金は安く、英雄と呼ばれる人間を輩出したことも無く、はっきり言って人気が無いから」


 自分の職場をディスり過ぎだろ。


「魔法って夢がありますし、多少なりとも深く知りたい、そう思うのは自然だと――」

「君もそう思う!?」


 動機っぽい事を言おうとした瞬間、受付嬢の雰囲気が豹変した。

 何というか、これはあれだ、趣味に没頭しすぎて周りが見えなくなっている人の目だ。友人のオタクにアニメの話を振ったら、こんな目つきになっていたからな。


「最近の人は、魔法を権力の証としか見てないからねぇ。魔法そのものに興味がある人も減っているから」

「権力の証、ですか」


 そういえば、この世界における魔法の立ち位置を知らなかったな。

 てっきり誰にでも使えるものだと思っていたが、そうではないのかもしれない。


 言われてみれば、街で魔法使いらしき人は見なかった。

 程度の差にすぎないかもしれないけど――権力者にしか魔法の使用が許されていない、あるいは魔法の使える人間が権力者になる、そう考えれば『魔法=権力』というのも理解できる。

 それならあの商人風の男も権力者ということになるが……まぁ、あの様子を見れば「彼は一般人だ」とは言い切れない。


 となると、不老不死を他人に知られるのは危険か。

 身分の低い人間が魔法を無断で使っている、そんな風に思われては、高貴な方々から袋叩きにされるだろう。

 逆に『魔法が使えるなら権力者だ』と思われるのも面倒だ。心情として責任をできる限り負いたくないというのもあるが、自分自身の能力的に権力者は無理と自覚している。


「考え事?」

「あっ、ええ、はい。魔法と権力の関係も知らなかったのに、ここに来ても良かったのかと心配になりまして」

「うーん、そこまで何も知らないとなると、君がどんな人生を送ってきたのか気になるかな。でも熱意があるなら私達は歓迎するよ」

「それなら助かります」


 よっし、暫定的だけど無職を回避できそうだ。


 この身体になってから、食べ物も寝る場所も必要なくなった。

 やろうと思えばどこまでも堕落できてしまう状況だからこそ、人間らしい生活をするためにも、仕事をするのはうってつけ。

 加えて、衣食住のうち衣服だけはどうにもならないから、いずれお金が必要になったのも事実だ。


「まぁ、いきなり正式採用ともいかないから、いくつかテストさせてもらって、その間は資金的な援助ができないけど大丈夫?」

「はい、それなりに蓄えもありますし、いざとなれば野宿する術もありますので」


 実際は野宿ではなく、夜中に街の外を徘徊するだけなのだが。


「君、宿はもう決めた?」

「いいえ、まだですが」

「ならギルドの寮を使って。あー、でも、空いている部屋は全部物置になっているから、整理しないと使えないかも」

「でしたら、しばらく宿に……」

「大丈夫、まだお昼過ぎだし、夜までには一部屋準備してあげるから」


 そう言って受付の人が立ち上がる。


「手伝いましょうか」

「暇だったから良いの。どうせ人なんか来ないんだし、体動かして気分転換でもしないとイヤになっちゃう」

「なら、お言葉に甘えて」


 建前の場合は除くが、善意というものは受けるよりも拒むほうが失礼にあたるものだ。それに、何か理由があって助力を拒んでいるなら、無理に手伝おうとするべきではない。

 ここは素直に感謝しよう。


「そうだ、ちょっと着いてきて」


 言われるがまま、受付の左横にある扉を通り抜け、細長い廊下に出る。向かって右側、手前と奥にそれぞれ一つずつ扉があり、左側に階段がある。


「手前の部屋は休憩室になっているから、ある程度時間が経ったらこの部屋で待ってて」

「わかりました」

「それと奥の部屋なんだけど……」


 何か問題があるのか、一度思案するような素振りを見せてから、ようやく言葉を続ける。


「奥の部屋は共用の研究室になっているの。片付けが終わるまで待っているのも暇でしょ。顔合わせも含めて、研究室を見学してみたら?」

「それは願ったり叶ったりなのですが、急に押しかけて大丈夫でしょうか」

「勝手に物を触らなければ大丈夫。たぶん研究室の中に緑髪の、長身のエルフがいると思うから、その人に声をかけてみて。色々案内してくれるかも」


 システムを解説してくれるNPCなのか? まぁ、ファンタジー要素がなければ、日本でもままあることに違いない。


「じゃあ、私は部屋を片付けてくるね。危ない実験をしているはずから、怪我しないようにだけ気をつけてね」

「はい。……え?」


 不安を煽る言葉を残し、受付の人は二階へと消えていった。


「……あ、そういえば名前を聞き忘れた」


 ついでに言えば名乗ってもいない。

 タイミングを逃したというか、あまりにも自然に会話が進んでいたので、名乗っていないことを忘れていた。


「まぁ、次会ったときに聞けばいいか。幸い良い人そうだったし」


 わざわざ追いかけて自己紹介する気にはなれず、ひとまず研究室の見学を優先した。


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