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第七章 合唱コンクール本番 <前編>

「あっ、琴葉ちゃんもう来てる」


「あら、待たせちゃったかしら」


「いや、私も今来たばっかりだよ」


地下鉄の改札の前で待っていたら、亜美と千春が一緒に来た。


今日は合唱コンクール本番。会場は、学校の体育館では全校生徒と保護者が収まりきらないから、別のホールを毎年借りている。


だから、そこまでは各自地下鉄で移動するんだ。


「あとは、秋実かな」


「どーせ、5分くらい遅れてくる…」


「おはよーーーーーーーーーーー!!!!」


亜美の言葉を遮って、叫びながらリュックを背負ったツインテールのハイテンションガールが走って来た。


「あれさ、中にお弁当入ってるよね」


「絶対中身ぐちゃぐちゃになってるじゃん」


亜美と千春の冷静なツッコミを後ろで聞きながら、秋実に向かって手を振った。


「おはよー。秋実にしては、時間通りに来たね」


「はぁ…そうなのー。秋実にしては頑張ったんだよー。はぁ…めっちゃ走ったけど」


「じゃ、行きますか」


「え?ちょっと休ませて」


「ムリ。もう時間だし」


えー、亜美ひどいよー、と秋実が騒ぎながら改札を通った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「リハーサル、琴葉すごかったね」


地下鉄の中で、秋実が思い出したように口を開いた。


亜美もそれに賛同するように頷く。


「ああ、一週間前の。いきなり楽譜用意しなかったのは、ビックリしたわ」


「でしょ?拓からも言われた」


「楽譜が軽かったから飛びそうになったんでしょ?あれから作り直したの?」


「いや?そのままだよ」


「えっ、」


「学習してないじゃん」


「また本番もリハの二の舞になるよ」


「大丈夫。ホールのステージは風吹いてないから」


去年も一昨年も印刷した楽譜を画用紙に貼っただけの楽譜だったけれど、飛ばされてはない。


他にも、そういう楽譜を使っていた人はいたけど、演奏中に楽譜が落下した人はいなかったはずだ。


「それにしても、歴代伴奏者賞は特に上手かったね」


「大泉真と、琴葉と陣ノ内さんだっけ?確かに上手だった」


陣ノ内さんは、一年生のときの伴奏者賞。伴奏者賞は多くて二人らしいから、二年生は真と私だったけど。


「琴葉も二年生連続で伴奏者賞取れるように頑張ってね」


「うーん、最優秀賞譲ってくれたら取れると思う」


「それはムリ。私たちG組が取るから」


「えーっ、秋実のクラスだよー。最優秀賞は絶対B組」


「いやー、D組でしょーそこは」


どこのクラスも、やる気マンマンだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



会場に入って、それぞれのクラスに別れると、コンクールの雰囲気を感じるようになり、一気に緊張してきた。


午前中に一年生と二年生が演奏して、午後に三年生が演奏して結果発表という日程だ。


今は、ステージの上で二年生がリハーサルをしている。


…なんか懐かしいな。これ、去年歌った曲だ。って、奏じゃん!


伴奏が奏であることに気づいた時には、もうその組のリハーサルが終わって、ステージから降りてきた。


三年生は一番前のステージに近い席。だから、階段を降りてくる奏に手を振ったら小さく振り返してくれた。


「知り合い?」


隣の席の千春が聞いてくる。


「そう。同じピアノ教室の友達。去年の一年生の伴奏者賞だよ」


「へえー。仲良いんだ」


「小学生の時から知ってるし、男子にしては普通に話せるよ」


ほら私、ほとんどの男子と上手く話せないじゃん?って付け加えると、ふーんとなぜか男子の方を見てボソッと呟いた。


「…拓、ライバルじゃん」


「え?千春、何か言った?」


「いや?ただの独り言」


そう言って千春はふふっと怪しげな含み笑いをした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


初々しい一年生の演奏が終わったところで、トイレ休憩を挟み、二年生の演奏だ。


正直、奏のF組が聴ければいいと思ってるから、トイレが混んでいる今じゃなくてもいいかなーと思い、そのまま椅子に座っていたら、急に声をかけられた。


「今年も俺が伴奏者賞取るから」


顔上げると、そこには三年生のイケメン王子、真がいた。


「なに?わざわざ宣言しに来たわけ?」


相手が偉そうに言ってきたから、こっちも突っかかった態度になってしまった。


「おー、今日は威勢がいいな。また二曲だろ?また最初っからできないって思ったんじゃないのか?」


表情は完全にこっちを舐めてるようだけど、これはこの前の卒業式のこともあって心配してる、と受け取っていいのだろう。


「少し思ったけど、周りに心配かけるほど取り乱してないし」


「あっそ。せいぜい泣かないように頑張りな」


多分これは、後悔すんなよって言ってくれてるんだと思う。そう勝手にポジティブに解釈していかないと、会話していられない。


話すだけでも疲れるやつだなーと思ってたら、真の取り巻きの女子たちからものすごい目で睨まれた。


…できるなら、もう関わりたくないな。いろんな意味で。



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