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第五章 指揮者と曲順

「じゃあ、伴奏は琴葉さんで先週決定したのだけど、指揮者の希望を取っていなかったので、今日取りたいと思います」


合唱コンクールのリハーサルまであと三日に迫った音楽の授業。週に一度しか授業がないから、決定が遅いのは仕方ないことだと思う。


だけど、あと三日って…いくらなんでも遅すぎると思うんですけど…


「誰か、やりたい人いますか?」


そういえばこのクラス、この二年間で指揮者やった人もいないんだった。


指揮者希望者いなかったらどうしよう。指揮者無しとかあるのかな…と不安になって辺りを見回したけど、ぱっと見誰もいなかった。


マズイ。これはもしかしてホントに指揮者無しパターンかも…


「あ、拓さん一人?じゃあちょっと振ってみて」


え?拓?


後ろの席を振り返ると、そこにはニヤッとして立ち上がった拓の顔があった。


「琴葉さんも弾いてくれる?」


嶋田先生に言われて、私も立ち上がってピアノへ移動する。


「拓、指揮できるの?」


一応授業中だから、ヒソヒソと聞いてみる。


「ああ。練習はしてある」


「でも、川は走るの指揮めっちゃ難しいけど…」


『川は走る』は厄介なことに、テンポがコロコロ変わる。指揮未経験者には難しいんじゃ…


「まあ、そこはのちのち練習してく」


あと三日でリハーサルなんだけど…と言いそうになるのを堪え、黙ってピアノの前に座った。


「それじゃあ、課題曲からどうぞ」


嶋田先生の合図で拓がそっと右手を上げて私に目線を合わせた。


…まって。拓、未経験だよね?なんで目線合わせるとか知ってるんだろう。


だいたいの人は、前奏がピアノであるにも関わらず、こっちのことは気にせずに始めてしまう。人によっては、曲の間に一度もピアノの方を向かない人だっていた。


だけど拓は、伴奏の準備ができたのを確認するように、こちらが何も言わずとも目線を合わせてきた。


私が小さく頷くと、ゆったりと右手を下ろして指揮を始めた。


演奏が始まってからも、驚きの連続だった。


テンポや強弱もバッチリ。歌の人たちのブレスの位置も把握して息を吸いやすいようにしている。たまにテノールとかがメロディーになると、そっちの方に体重を乗せて歌う人にもわかるようにしている。


そして何より、本人がとても楽しそう。


こんな上手い人、初めて見た…


まるでプロみたいな指揮だった。プロの指揮で伴奏したことないけど。


歌が終わって、最後のピアノの音もきちんと余韻を聞いてから切ると、嶋田先生が即座に


「合格」


と言った。


自由曲はまだ振ってないけど…他にやりたい人いないみたいだし、決定していいよね。


拓の方に視線を向けると、ホッとした表情の、いつもの拓がいた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「えっ?まだ決まってないの?」


「そうなんだよー。今年はいつもより遅くてさー」


合唱コンクールのリハーサルを明日に控えたという日の朝。音楽係の川村さんが困ったように話しかけてきた。


「明日だよね?リハーサル。なのに順番決まってないって…」


「順番って大事なのにねー」


「信じられない…」


だって、リハーサル明日だよ?心の準備も必要なんだよ?


「合唱コンクール担当の先生って、嶋田先生じゃないの?」


「それがねー今年から変わって、坂木(さかき)先生になったんだよー」


「だからか…」


坂木先生は、もう一人の音楽の先生。うちの中学校は人数が多いから、音楽の先生が二人なんだ。


「いつ決めるとも言われてないから、当日に発表になるかも…」


えっ、それだけは勘弁してほしい。もし仮にトップバッターだったら、緊張で弾けなくなるかも…


そう言おうとしたけど、目の前にいる川村さんの瞳が潤んでるように見えて、これ以上不安にさせたら可愛そうだと思って口をつぐんだ。


「青野さん、伴奏大丈夫?どの順番になっても」


「ぜーんぜん。どこでもオーケーだよ!」


…本当は、心の底から不安だけどね!


「よかった〜。さすが伴奏者賞は違うね。頼りになるなー」


…また伴奏者賞。


なぜか少しイラッとしたけど、川村さんが安心したならそれでよし。そう思うことにした。



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