第二章 まさかの二人
「はぁ…」
家に帰った途端、私の体はベットに勢いよくダイブした。そして、ポケットに入れてあった3年D組のクラスメイト一覧のプリントを開き、話せそうな人をさがす。
ー30番 箱家 千春ー
もう、ほんとに千春が一緒のクラスでよかった。ざっと見、話せる女子が千春しかいないと思ったから。
人見知りのせいで、話せる友達が極端に少ない。でも、ボッチになることはとりあえず避けられたようだ。
あとは…
ー34番 美津井 拓ー
…わーお。ついに三年連続かー。
拓は、水泳部の副部長。卒業式の合唱にも選ばれていて、亜美と同様、なんというか、私の気持ちの弱さを知っている。拓の場合は、一番最初の合唱コンクールの時から、私のことをなにかと気にかけてくれた、いいヤツだ。
そんな拓には、今年はなるべくお世話にならないようにしたい。できるかな…
そのほかは…
目線を下にずらしていくと、プリントの一番端まで届いてしまった。
つまり、話せそうな人はクラスに二人だけ、ということだ。1年間、やっていけるのだろうか。伴奏以外にも心配事が増えてしまった。
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私の心配は無用だった。思ったより、最初のイベントである修学旅行も何の問題もなく終わった。
1か月過ごしてみてわかったかことがある。
別に、クラスの女子はみんなフレンドリーだし、私が人見知りでもなんとかなった。
それから他の伴奏者たちがどこのクラスにいるのかも。
マークしておくべき上手な伴奏者の前田さんはA組、神ノ内さんはG組だった。
そして、問題は…
去年の指揮者賞の華原京ともう一人の伴奏者賞の大泉真の最強ペアが同じクラスだったのである。
二人が昨日同じ教室から出てきたときは、本当にびっくりしすぎて倒れそうになったのを、後ろにいた拓に支えてもらったくらいだ。
その時、周りから黄色い悲鳴が聞こえたような気がするが、それどころじゃなかった。
…あの二人がペアになったら、二人がそれぞれ賞を取っていくだけじゃなくて、クラスの最優秀賞までもっていかれちゃうよ。
しかも、そのクラスには合唱部の最強テノールの水村くんまでいる。
もう、勝ち目がないに等しいと思う。
ちなみにこっちのクラスには合唱部も指揮が上手い人もいない。
…クラス替えに先生の悪意を感じるよ。
とりあえずこのクラスのメンバーを決めた先生に心の中でそっと八つ当たりをするしかなかった。
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「それでは、自由曲選考会を始めます」
5月の中旬のある日。3年生300人が体育館に集められ、自由曲の候補11曲の中から自分のクラスで歌いたい曲を選ぶ、という会が開かれた。
当然ながら、体育座りで11曲も聴かなきゃいけないのだから、体が痛くなる。もちろん興味がなさすぎて寝る人もいる。
「では、まず一曲目。『ほら、』」
嶋田先生が紹介すると、スピーカーから曲が流れだした。
…うーん、伴奏的には弾けそうなんだけど、歌のリズム取るのが難しそうだな。
私は、去年伴奏者賞を取ったものの、伴奏歴がまだ今年で3年目だから、すごく難しい曲はとても弾けそうにない。
だけど「弾けません」とは言いたくない。伴奏者賞をとってから変なプライドが芽生えてしまったようだ。
「どんどん行きます。二曲目『始まった』」
…この曲、多分できないなー。弾けたとしても指揮が見れないくらい、伴奏でいっぱいいっぱいになりそう。
やっぱり、弾けただけでは伴奏とは言えない。歌う人が歌いやすいように弾けないと、伴奏はいらない。私のピアノの先生の伶花先生が言っていた。
「はい、次。『川は走る』」
ー…っ!この曲はっ!
川は走る。それは、去年に私の幼馴染の祐希が歌った曲だった。
この作品に出てくる曲名は、参考にさせていただいた曲名もありますが、全て架空の曲名です。もし、同じ曲名の曲があっても、その曲とは無関係です。
しっかりとここに明記しておきます(笑)