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第一章 クラス発表…

遅くなりました。すみません!

さわやかな春の風が私のなびくほど長くない髪を揺らした。学生がいろんな想いを抱えているであろう新学期が始まった。


『新学期=恐怖のクラス発表』


私の頭ではそんな風に結びついてしまう。


私のクラス替えにおいての願いはただ一つ。クラスの中に伴奏者がいてほしい、ということだけだ。


1年生と2年生のときは、クラスメイトに一人も弾ける人がいなかったため、7月の合唱コンクールでは、課題曲と自由曲の2曲伴奏しなければならなかった。他のクラスは、希望者が多くてオーディションになったって聞いたのに。


それがなくても、その時期は水泳部の中総体や定期テストがあって忙しいのに、伴奏の練習が加わると、てんてこまいになっていた。


「琴葉ーー!!」


新学期早々、心の中で愚痴りながら桜の木が満開に咲き乱れる通学路を歩いていたら、後ろから同じく水泳部の百川(ももかわ)秋実(あきみ)がサブバックをブンブン振り回しながら追いかけてきた。


…元気なのはいいんだけど、周りの生徒がドン引きしてるんだよね。


「危ないよー、周りの人がびっくりしてたじゃん」


「はぁ…だって…久しぶりに…琴葉が…見えたんだもん…はぁ…」


「まあ、春休みの後半はあんま部活なかったからねー。…それにしても、息切れ大丈夫?」


「ヘーキヘーキ。それよりさ、クラス発表だねー!」


「…なんでそんなに明るいんだ…お前は…」


私はこれから虫歯のある状態で歯医者に行くときみたいにビクビクしているというのに…


「えー、だってクラス発表だよ?面白そうな人と仲良くなれるかもしれないでしょ?もー、めっちゃ楽しみじゃん!」


「…そんなに面白そうな人いるか?この学年で」


「300人もいればいるでしょー、いっぱい」


そうなのだ。私たちが通っている森野中学校は、どの学年も8クラス以上もあるという大型中学校だ。


それなのに、1組、2組…という数え方じゃなくて、A組、B組…と数えるからめんどくさい。


ちなみに私たちの学年はA組~H組まである。


「琴葉は顔暗いよー、大丈夫?」


「…正直、今すぐ回れ右して帰りたい」


「えー、なんでよー」


「伴奏者がクラスにいなかったときのことを考えると、腹が痛い」


「…琴葉ってさ、合唱コンクールのことしか考えてないよね。他にも運動会とか、3年生は修学旅行だってあるのに」


…秋実、なかなか鋭いな。


実は、合唱コンクール以外のことは少しも頭になかった。


去年の合唱コンクールで私は伴奏者賞を受け、先月に卒業式で在校生の歌の伴奏を担当した。

それから、私の頭の中は伴奏のことでいっぱいになっていた。


「前まではそんなにこだわってなかったよね?なにかあった?」


「あー、うん。実は、今年も伴奏者賞取りたいなって思うようになった」


「えーーーーーーーっ!!!」


「秋実、声おっきすぎ。そんなリアクションするとこじゃなくない?」


「だって…めっちゃ嫌がってたじゃん。卒業式の伴奏するの」


「…確かにすごく嫌だった。100人以上の伴奏なんてやったことなかったし」


「じゃあ、なんで…」


「卒業生からの歌があるんだけどね。それの伴奏がしたいって思ったから」


卒業式のリハーサルと当日の二度、私は一つ上の学年の先輩の伴奏を聴いた。

卒業生300人以上の伴奏をやりきった先輩は、とっても眩しくて、かっこよかった。


「二曲あって、それぞれ別の先輩が演奏してたんだけど、どっちも伴奏者賞を取ってたの」


「へー、だからか。じゃあ、新しいクラスに伴奏できる人がいなかったほうが、伴奏者賞取りやすいんじゃない?二曲弾くから」


「…二曲だと緊張しすぎる」


「何をいまさら。今まで二年連続どっちも弾いてきたくせに」


「…またあの緊張と戦うのは嫌なんだよ」


…思い出すだけでもっと腹が痛くなってきた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


しばらく歩くと、前の方からだんだん喧騒が近づいてきた。


「もう貼り出されたみたいだね」


「…もう帰っていいかな」


「何言ってるの。まだ校門にさえもはいってないし」


「もう腹が限界なんだ」


「琴葉って、実はすごい小心者だよね」


ついに、校門が見えてきてしまった。


この中学校も築30年にもなるから、校門も少し錆びているなぁ、とクラス発表のことを考えたくなかったからむりやり思考を別のところに移す。


しかし、それを前から来たやたらとハイテンションな女子に邪魔された。


「琴葉ちゃーーーーん!おんなじクラスだったよぉーー!」


「ぅええええええええええええええええ?!なんでネタ晴らししちゃうのおおおおおおおお?!」


こちらも同じく水泳部の千春(ちはる)ちゃん。いつもは静かに笑ってるタイプだけど、たまに今みたいにキャラが壊れる。


…っていうか!


「ひどくない?最後のクラス発表だから自分で見たかったのに…」


「あれ?琴葉は教えてくれてよかったんじゃないの?あんなにお腹いたそうにしてたのに。あんな人混みで腹の痛さが限界でうずくまられたら大変なんだけど」


「え?琴葉ちゃん、新学期早々お腹痛いの?なんで?道端に落ちてるものでも拾って食べた?」


「そんなわけないじゃん…えー私って拾い食いしそうに見える?」


そんな風に見られてたら、ショックでほんとうにうずくまるかもしれない。


「いやいや。それしか琴葉がこんな時にお腹が痛くなるってあり得ないって思っただけでしょ」


「さっすが秋実ちゃん、わかってる~。で?琴葉ちゃんはなんでお腹痛いの」


合唱コンクールのことで…って言おうとしたら、千春の後ろから来た、これまた同じ部活の黒縁メガネちゃんが答えた。


「どうせ琴葉のことだから、クラスにピアノ弾ける人がいなかったらどうしよう、とか考えてるんでしょ?」


亜美(あみ)…よくご存じで」


亜美とは、卒業式で私が伴奏をしたときに、合唱で参加していたから、私がどれだけ緊張して悩んだのか知っている。


「今、大泉(おおいずみ)(しん)とか、他の伴奏者のクラスも見てきたけど…」


そう言って、言葉を濁す。


…なんか嫌な予感がするんだけど。


その後、秋実とクラス発表を見て、私はショックで固まってしまった。


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