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008 隠しスキルの発見、及び魔王討伐完了


「うぉー……痛ぇー、こ、腰が……フラン、無事か?」

「うん、なんとかね。それにしても焦ったよー、危うく死ぬところだったもん」

「誰のせいだ、誰の」


 魔王城の門付近に着陸、いや、墜落した二台の馬車。

 最後に発動したスキルのお陰か、はたまたポンコツ女神の加護なのか。

 俺たちは、さしたる怪我もなく生きていた。


「おーい! 生きてるかー!?」


 俺が周囲へ呼びかけると、壊れた馬車の下からもぞもぞと数名が這い出てきた。

 おお、無事なようだ。

 よかったよかった。

 こんなことで彼らを失っては悔やむに悔やみきれないもんな。


 救済の女神フランシアの手によって彼らは絶命しました。

 ……こんな報告を神界に提出した日には、俺たちのほうが命の危機だ。

 

「残った者は……たったの四名か」

「あら? しかも選抜した四人ね」

「うーむ、ステータスが高いだけのことはあるな。たいしたもんだ」


 彼らも薄汚れてはいたものの、大きな怪我はないようである。


「アキト団長! フラン副長も無事でしたか! 良かったぁ」

「それがし、皆を守れて嬉しく思いますぞ」

「驚きました。まさか空を飛ぶだなんて……アキト団長はいったい何者なのでしょう」

「やー、びっくりしたー。あ、これは独り言です……ぼそぼそ」


 アベル、バルガス、ステラ、ポンタ。

 この四名こそが女神に選ばれた英雄となるのである……って言うと、なんかかっこいいよな。


 しかし、不思議なのは魔王のほうだ。

 あれだけ城の真ん前で派手に騒ぎ立てたってのに、出てくる気配すらない。

 まさか、もう死んでる、とかはないよな?


「魔王の人、出てこないわねー。私のおびき出し作戦は失敗だったみたい……実はもう死んでたりして」

「ぐはっ! フランと同じ発想とは! いや待て、あれは作戦だったのか!? お前のせいで俺たちは死にかけたんですけど!?」


「アキト団長! 扉の開錠できましたよ!」


 俺とフランが言い合ってる間に、アベルは既に行動していた。

 ポンタが開錠し、ステラがサポート。

 バルガスがガードを固め、アベルが周囲の気配を探る。


 さすが勇者候補。

 俺たちよりよほど優秀じゃないか。

 しかも、パーティーとしての連携がきちんと成り立っている。


「やるじゃないか君たち」

「ははは、アキト団長にそう言われると照れますね」


 このぉ、アベルのはにかみ屋さん!


「本当は十人で連携の練習をしてたんですけどね……」


 急に寂しげな雰囲気となる4人。

 む、こりゃ士気に関わる。

 これから魔王との決戦が控えてるってのに。


「心配するな。馬車から落ちた六人には、俺がスローフォールのスキルを発動させておいた。きっとみんな無事さ」

「本当ですか!? さすがはアキト団長です! あの一瞬で、よく……」

「シッ! 城の奥から誰かくる」


 俺の言葉に全員が即座に黙り、戦闘態勢に入った。

 常時発動している俺のパッシブスキル、エネミーサーチャーが敵影を探知したのだ。

 これに引っかかると、レーダーよろしく、俺の脳内へ敵との距離、方角、大まかな姿形が知らされる。


 それによれば、一応人型っぽい感じだった。

 いきなり魔王ってことはないと思うがな。

 しかし、めんどくせぇな。

 こちとら割と急いでるんだよ。


「貴様らは何者だ!? 偉大なる魔王城にいきなり突撃しおって! 我こそは魔王直属の四天王! デス……ごはぁっ!?」

「ん? 今、なにかいたか?」

「うわぁ……アキトって鬼畜ね……せめて名乗らせてあげなさいよ……」


 姿を見せることなく闇の中に消え去った四天王のデスなんとかさん。

 何が起こったのかもわからず、目を白黒させるアベルたち。

 フランだけには見られていたようだがな。


 俺がこっそり使ったスキルがある。

 その名を【バニシング】

 これは、俺が全てのスキルを習得したあとに現れた、いわゆる隠しスキルだ。

 使用者よりも弱いモンスターを、強制的に異次元へ飛ばすと言う、ゲームではありがちな物である。

 だが、レベルマックス、ステータスマックスの俺が使えばこの通り、効果は絶大。

 このスキルの発見は、あとで日報に記さねばなるまい。


「よし、内部を探索しようか!」


 ポカンとしているアベルたちをせっつき、いよいよ魔王城へと足を踏み入れた。

 たぶん、ここがラストダンジョンとなるだろう。


 意外にも内部にモンスターはいなかった。

 主だったモンスターの連中は、世界各地を侵攻しているからだろうか。

 俺たちにはむしろ好都合だけどな。


 敵に出会うこともなく、やたらとおどろおどろしい廊下をしばらく奥へ進むと、上と下へ向かう二つの階段に行き当たった。

 さて、どうするか。

 俺のエネミーサーチャーは同じ階層にいるモンスターしか感知しない。

 ここはリーダーを任せたアベルに判断してもらおうか。


「アベル、どっちだと思う?」

「……そう、ですね。僕は上だと思います」

「うん、それはどうして?」

「バカと偉い奴は高いところが好きだからです」

「はっはははは! いいぞ、理想的な答えだ」


 俺はアベルの肩をバシバシ叩いて階段を上った。

 肩をすくめながら後に続くフランたち。


 なんだよ、時には男同士のスキンシップも大事なんだぞ。

 おっと、誤解してもらっちゃ困る。

 俺はホモじゃないからな。


 二階にあがったものの、ここも敵の出迎えはない。

 どうなってんだこの城は。

 魔王の警備がスッカスカじゃねぇか。

 残りの四天王はどこいったの、四天王は。


 あれ?

 でも、この二階の造りって……

 この大扉の向こうはどう考えても謁見の間だぞ。

 つまり玉座があるはずだ。

 おっ、エネミーサーチャーにも反応がある。

 と言うことは……


 問答無用でドバンと巨大な扉を蹴破る俺。


 ほら見ろ!

 玉座に誰か座ってんじゃん!


「なんだ貴様らは……不躾な虫どもめ……」


 なにやらデカい水晶球を覗き込んでいるのは、頭に角が生えた髭モジャのおっさん。

 その2メートルはありそうな巨体に、豪華な玉座はいかにも小さそうだ。

 だが、その声は重々しく威厳がある。

 そして髑髏みたいな装飾がゴテゴテとついた紫色の鎧を着こんでいた。


 うーわー。

 わっかりやすいほど魔王してるなー。


「フラン、防御スキルを展開するから俺の後ろにいろよ」

「うん、了解」


 サササッと俺の蔭へ隠れるフラン。

 小動物かお前は。


「ほれ、アベル。勇者としての名乗りを上げろ」

「えっ? あ、は、はい!」


 アベル、バルガス、ステラ、ポンタの四人はズイッと俺の前へ出た。

 いいね、ラストバトルにふさわしい凛々しさだ。


「僕は勇者アベル! この世界を滅ぼさんとする魔王を成敗しにきた!」

「ほう……余に盾突くような虫ケラがまだ残っておったとはな……」


 魔王は水晶を手に乗せたまま立ち上がった。

 バサリとマントが翻る。


 うーむ、やはりデカい。

 2メートルはあると言ったな。

 あれは嘘だ。

 3メートルはあるぞこりゃ。


「矮小な蛆虫よ、余の魔力を受けるがいい!」

「くるぞ! 迎撃と反撃の準備だ!」


 アベルたち四人が魔王へ向かって駆け出した。

 俺はその場に立ったまま、フランにあらゆる防御スキルを展開する。


 こいつに死なれちゃ、俺まで道連れにされるもんな。

 確証はないが、そんな気がするんだ。

 せいぜい守ってやらんと。


「へぇー! 見てよアキト、アベルたちすごいじゃない! 魔王を押してるわよ」

「ほおー、たいしたもんじゃないか。俺たちの見る目は間違ってなかったな。いやー、感慨深いねぇ」


 アベルが斬り、バルガスが防ぎ、ステラが回復させ、ポンタが攻撃魔法を放つ。

 まさに獅子奮迅。

 見事な戦いぶりだ。


「グッ、やるではないか、クソ虫の分際で……ならば、余の真の姿を見せねばなるまい」


 魔王は身体を一挙に膨らませ、悪魔そのものの姿へと変貌を遂げる。

 そして蝙蝠のような翼をバサリと羽ばたかせ、宙へ舞った。


「我が魔力を受けよ! エクステンション!」


 ドォォォオン


「うわぁぁぁ!」

「ぐぉぉぉっ!」

「キャーー!」

「ふぎゃー!」


 真っ黒の球体がアベルたちの中心で爆発し、彼らを吹き飛ばした。

 床に転がる四人は、ピクリとも動かない。


「うげ、第二形態かよ。てか、あいつら死んでないだろうな」

「うん、魂が上がってきてないから生きてると思うわ」


 取り敢えずはホッとした。

 だけど、どうしようかこの状況。

 アベルたちの傷はいくらでも治せるが、気絶から意識を取り戻させるスキルなんてないぞ。


「残るは貴様ら二匹だけだぞ。フハハハハ…………むぅ? 貴様、人間ではないな!? 何者だ!」

「いや、俺は人間ですよー」

「戯言を……貴様からはおぞましい力を感じるわ!」


 心底不愉快そうな魔王さん。


「だーっはっはっは、フランの力はおぞましいってよ」

「なんですってぇー……この麗しき美貌の女神フランシア様を……言うに事欠いておぞましいですってぇ?」

「まぁ、悪の塊みたいな魔王からすれば、神聖な力をそう感じるんだろうな」

「アキト、手を借りるわよ」

「おいおい、倒しちゃう気か?」

「もう我慢できない! 女神を舐めるとどうなるか思い知らせてあげるわ!」


 フランは俺の手を握り、祈り、念じた。


「開け! 天の門! 救済の女神フランシアの名に於いて、魔を滅する断罪の光刃こうじん来たれり!」


 俺は慌ててフランの詠唱をそのまま早口で呟いた。


 ズオオッ


 このだだっ広い謁見の間が、全て魔法陣に覆われた。

 四方八方から光が溢れ、魔王の巨躯を飲み込んでいく。


「グ、アァァァァァアアアアアアアアアア!!」


 鼓膜が破れそうなほどの断末魔。

 光は魔王を消滅させると、天井をぶち抜いて遥かな高みへと昇っていった。


「ふにゃぁ~、力を使い切っちゃったわ……アキトー、あとはよろしくー」

「お、おい、大丈夫か!」


 くにゃりと崩れ落ちるフランを抱きとめた。

 と、同時に、魔王城全体が不気味な振動を始める。


 えっ、このパターンって……

 絶対城ごと崩れ落ちるやつですやん!!

 に、逃げろぉぉぉ!!


 俺は背中にフラン、ステラ、ポンタを担ぎ、両脇にアベルとバルガスを抱えて全力疾走した。

 女神のパワーがあればこの程度の荷物はなんてことない。

 だが、気は焦りまくる。


「ひぃぃぃぃぃ! 生き埋めはいやだぁぁ!!」


 間一髪。

 俺が門から外へ飛び出した時、魔王城は跡形もなく崩れ去ったのである。


 あー、ビビったぁ。


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