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005 人材育成も仕事です


 女神代行出張業務二日目。


 レベルも上がり、オーガ程度なら一対一、つまりタイマンでも倒せるようになった30名の冒険者連中。

 本日の業務行程としては、彼らの更なる底上げと人類の行動範囲を広げるために掃討作戦を行う。


 つまり、街道沿いにはびこるモンスターを蹴散らしながら、次の街へと続く陸路を確保するつもりなのである。

 ついでと言っては何だが、事前に目を付けた数名を鍛え上げる算段でもあった。


 冒険者ギルド前の広場には、すっかり旅支度を整えた者たちがずらりと並んでいる。

 全員が昨日までのしょぼくれた顔とは打って変わって、精悍な顔つきとなり自信に満ち溢れていた。


 そりゃそうだろう。

 怪物が強すぎてまともな冒険にも出られず、酒を飲んでくだを巻く毎日だったのが、一気に攻める側となったわけだからな。


「アキト団長! フラン副長! 全団員、準備完了であります!」

「お、おう」

「うーん、なかなか壮観ねー」


 フルプレートの鎧で身を包んだ男が、まるで騎士のように叫んだ。

 誰が団長だよ。


 昨晩の酒宴で、盛り上がったこいつらが勝手に作ったのが、赤の団なる組織だ。

 そして団長と副長に祭り上げられたのが俺とフランである。

 団名の由来は、単に俺の鎧がたまたま赤かったから。


 せめてもうちょっとひねれよ。

 しかも、この鎧は別に俺のトレードマークじゃないぞ。

 近くの武具屋に売ってる一番安ーいヤツ。


 それに、団長とか言われても困るんだよな。

 俺が魔王を倒すわけじゃないし。

 あくまでもサポートに徹するつもりなんだけどなぁ。


 ドヤ顔で腕組み仁王立ちしてるフランはチヤホヤされて満足そうだけどさ。

 それにしても、こいつ本当に女神か?

 俗物すぎるだろ。


 俺のイメージする女神っつったら、もっと高潔な精神を備え、時に厳しくもあるが優しく人々を見守り、そして祝福を与える。

 そんな感じなんだがなぁ。


 フランときたら、確かに可愛いし綺麗だし、目を伏せて憂いのある顔になったりすると、ああ、やっぱり女神なんだなぁ、なんて思うこともなくはないんだけど、現実は大喰らいで大酒飲みで、眠る時は涎を垂らして大いびき。

 存在してるのかは甚だ疑問だが、フランの信者たちが実態を見たら卒倒モノだろう。

 詐欺だと訴えられても文句は言えないほどのな。


 でも、俺はそんなフランが嫌いじゃない。

 むしろ親しみが持てる。

 俺の好みのタイプだったってのもあるんだろうが、そんな風に思うのも、救済の女神フランシアの力を受け継いだせいかもしれんね。

 ある意味では一心同体になったようなもんだろうし。

 

 そんな物思いにふけっていると、一台の馬車が俺たちの前で止まった。

 これは、フランがどうしても歩きたくないとダダをこね、どうせなら全員分の荷物を運ぶにも丁度よかろうと俺がレンタルしたものである。

 注文通り、二頭立てで大きめの荷台が付いていた。


「フラン、御者は出来るか?」

「愚問ね」

「へー、すごいじゃないか。なら任せたぞ」

「ふふーん、りょうかーい」


 俺は荷台を確認し、水と食料が積載されているのを確認した。

 次のルードと言う街までは、歩いて一日くらいらしい。

 これだけの物資があれば充分だろう。


「よーし、じゃあみんな、荷物を馬車に積んでくれ。おっと、荷物にはちゃんと各自の名札をつけるようにな」


 元気に返事をしながら荷物を乗せる冒険者たち。

 気分は遠足の引率をする先生だ。


「それでは、出発しまーす!」


 フランがどこから取り出したのか、小さな赤い旗を振りながら馬車に鞭を入れた。

 お前はバスガイドさんかっ。


 街の北門から出て、そこで隊列を組み直す。

 俺と近接戦闘スキル持ちの団員15名が馬車の前を歩く。

 言わば前衛だ。

 そして馬車を挟んで後方へ残った15名を配置し、後衛としたわけだ。


 3時間ほど歩いた頃、ライオンほどの大きさもある巨大な狼の群れに捕捉された。

 正確な数はわからないが、俺の目に見えたのは20頭前後。


「ジャイアントウルフがきたぞぉ! お前たち! フラン副長を守るんだ!」

「「「オォォオ!」」」


 えぇえ!?

 なにこいつら!?

 俺は何の指示も出してないのに、ガッチリと馬車を囲んで防衛体制に入ったよ!?

 いつの間にこいつらを手懐けたのフラン!?


「アキト団長! 我々はどうしますか!?」

「あ、あぁ、すまん。なんだか呆気に取られてた。マジックスキル持ちは馬車の周囲へ! 近接スキル持ちは後衛を守備しつつ迎撃だ!」


 ま、オーガよりもこの狼が強いってことはあるまい。

 俺の素人戦術でもなんとかなるだろう。


「群れは固まって攻撃してくる! まずは数を減らそう! マジックスキルを撃ち込むんだ!」


 俺は馬車に飛び乗り、御者台に立って指揮を執る。

 高いところのほうが全体を見渡しやすい。


「ちょっとアキト、土足はやめてよ。椅子が汚れるじゃない」

「そんなこと言ってる場合か!?」


 俺とフランが漫才をしている間に、次々と魔法が狼へ撃ち込まれていく。

 ファイア、アイス、サンダー、ウィンドアローなど、初級魔法スキルが多いのはご愛敬ってもんだ。

 こんな敵に中級スキルは勿体ないもんな。


 魔法を避けて迫る狼たちは、前衛によるソード、アックス、スピアスキルで迎撃。

 瞬く間に半数以上の獣が倒れていった。


 だが流石に前衛陣も無傷とはいかなかったようである。

 何名かが不覚傷を負っていた。


 やはりいくらレベルが上がっても、戦闘経験は一朝一夕に養われるものではないのだ。

 うーん、俺も気を付けないと。


「怪我人は後退! 敵も残り少ない! 一気に決めるぞ!」


 俺は馬車を飛び降り、残った狼へ向けて走った。

 数名が呼応し、ついてくる。


「ソードスラッシュⅠ(ワン)!」


 スキル名を叫びながら剣を振るうと、輝く剣先から光の刃が放たれた。

 狼の一頭を頭から両断。

 見届けもせずに二撃、三撃。

 腕に噛み付こうとするヤツの脳天に拳の鉄槌。


 俺についてきた連中も奮闘している様子。

 だんだん戦闘が楽しく感じてきた頃、動く狼は一頭もいなくなっていた。

 俺たちは勝鬨を上げながら馬車へと戻ったのである。


 怪我人の手当てをし、少しばかり休憩を取って再出発することにした。

 幸いにも死亡者は出なかったが、今後どうなるかはわからん。

 気を引き締めて行こう。


 その後も、何度かモンスターとの小競り合いはあったものの、そこそこ順調に進むことができた。

 これなら余裕を持って今日中にルードの街へ辿り着けそうだ。


「ねぇ、アキト。ルードの街で宿屋はどうするの? この人数で泊まれるところなんてあるかしら?」

「そうだなぁ、流石に全員を養うような金もないし、各自でどうにかしてもらおうか」

「そうねー。でも私とアキトはちゃんとした宿に泊まるからね。団長と副長が野宿なんて嫌よ」

「わかってるよ……」


 御者台に座るフランの横を歩きながらため息をつく。

 ひとこと言ってやろうかと思い口を開きかけると、そこへ前方から切羽詰まったような悲鳴が聞こえてきた。


「ド、ドラゴンだぁぁ!!」

「キャーー!」

「うわぁぁ!」


 遠くの空からゆったりと翼を羽ばたき、悠々と接近してくるその黒い巨躯は、まさしくイメージ通りのドラゴンだった。

 慌てふためく冒険者たちに追い打ちをかけるがごとく、ドラゴンの凄まじい咆哮が響き渡る。

 まだまだ遠方にいると言うのに、その圧倒的な存在感と迫力を思い知らされた。


 どうすんだあれ。

 すっげぇ強そうなんですけど。

 ってか、なんでこんなところにドラゴンがくるんだよ。

 ラストダンジョンにでもいればいいだろうが。


 それよりもだ。

 恐慌をきたしている冒険者たちのほうが問題だろう。

 こんなんじゃとても魔王とやろうなんて無理な話だぞ。

 確かにドラゴンはおっかねぇけどさ。


「みんな落ち着け! そんな逃げ腰で魔王を倒せると思ってるのか!」

「アキトー」

「なんだよフラン!」

「ちょっと手を見せて」

「あぁん!? 今それどころじゃねぇだろ!」

「いいから早くー」

「なんなんだよ! ほれ!」


 フランはじっと俺の手のひらを見つめている。

 こんな時だってのに、手相占いでもする気なんだろうか。


「私の言うとおりに唱えてね。おまじないをかけるから」

「あぁ!? おまじないぃ!?」

「いくわよ……不浄なる者への天の裁きを!」

「不浄なる者への天の裁きを!!」


 フランは俺の手をドラゴンの方向へ、ひょいと向けた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 突如として天空が割れ、いくつもの光が地上へと降り注がれた。

 まるでレーザーやビームにも見えるそれは、何度も何度もドラゴンを撃ち付ける。

 巨大な黒き竜は、回避行動すら取ることができずにその身を粉々に粉砕されていく。

 苦悶に満ちた断末魔が小さくなって、プツリと途絶えた。


 冒険者連中から巻き起こる万雷の拍手喝采。


「こんのアホフラン! お前はなんてことしてくれたの!?」

「だって、いちいちあんなのとまともにやってられないでしょ?」

「そう言うことじゃねぇよ! 俺たちがおかしな能力を持ってるってみんなにバレちゃうだろ!」

「おかしなって言わないでよ! 神聖で尊い力なんだからね!」

「だったら余計にほいほい使うなよ! 業務違反にならねぇのかこれ!?」

「大丈夫ですー、確認済みですー」

「このアマ……! うわっと!」

「尼さんじゃないですー、女神様ですー、きゃあ!」


 俺の怒声とフランの減らず口は、冒険者たちの歓声でかき消された。

 連中のキラキラした目と笑顔を見ているうちに、怒りもどこかへ飛んで行ったのである。


 ま、いいか。


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